先月末、米アップル社がiCloudを利用している中国ユーザーのデータの保存先を中国の政府系企業に移管した。しかし、データを移した初日にある事件が起き、いま現地のネット上では騒ぎになっている。

先月28日、20代の男性が今回のデータ移管についてAppleへ電話で問い合わせたところ、スタッフの態度が悪かったことから口論に発展したという。男性によると「その夜、担当者が私の携帯に電話をかけてきた。職権を利用して私のiCloudに勝手にアクセスし、『個人情報すでにコピーした。言う通りにしないとネット上に晒すぞ』と脅してきた」といい、さらにiCloudに身に覚えの無いログイン履歴があったことから、男性は不正アクセスがあったと警察に通報した。
今月8日にAppleは公式声明を発表。「Appleの技術スタッフは誰一人としてユーザーのパスワードとデータにアクセスする権限を有していない」とし、事件については調査に当たる予定だという。
今年1月、中国のAppleユーザーには「2月28日から、中国のユーザーのiCloudは中国企業の『雲上貴州』によって管理されます。我が社のサービス向上のため、そして中国の法律を遵守したものです」というプッシュ通知が届いていた。

Appleは、データをネット上に保存できるサービスiCloudを世界で展開している。中国のAppleユーザーのデータはこれまでアメリカで保存されており、仮に当局が中国ユーザーのiCloudにアクセスしたい場合、アメリカ側の許可が必要だった。しかし、Appleは中国ユーザーのデータを中国国内の政府系企業へ移管することに決めた。
中国のAppleユーザーに「個人情報の安全性に心配はないか?」を聞いてみると、
「実は心配している。個人情報が外部に漏れてしまうんじゃないかと」
「不安はない。疑問を抱いたこともない」
「特に問題ないと思う。いま多くの会社が貴州にサーバーを設置しているし。個人情報が漏れるのはよくあること」
「データがもっと安全になると思う。国内で管理するほうが安心」
と、危機感がある一方で「問題ない」「安心」との声が聞かれた。

去年6月に中国で施行された「インターネット安全法」。外国企業が中国で収集した重要データを中国国内のサーバーに保存することを規定したもので、拒否した企業は中国から撤退せざるを得なくなる。
テレビ朝日中国総局の森林華子記者は、中国当局の狙いを「インターネット支配の強化」と指摘。「中国ではネット産業が経済をけん引する一方で、自由な言論の拡散によって共産党の一党体制が揺らぐのではないかと警戒を強めている。当局に不都合な書き込みをネット上にすると、削除されるということが起きている」と説明する。

一方、プライバシーが脅かされるリスクと引き換えに便利なサービスも生まれている。ネット通販「アリババ」の関連会社が3年前に始めたサービス『芝麻信用』は、資産や学歴、交友関係などで個人の信用度を点数化。点数が高ければ融資を受ける際に有利になったり、部屋を借りる際の保証金が免除されたりと、社会に急激に浸透しているという。
ちなみに、森林記者のスコアは950満点中「577」。使い始めたばかりのため点数はまだ低く、光熱費などを定期的に払い続けたり、スコアの高い友人と繋がったりすることでスコアが上がっていくそうだ。中国ではクレジットカードが普及していないため、このサービスの「信用度」を新たな概念として受け入れているといい、なかにはハイスコアをいかにキープするか重視している人もいるという。

森林記者は、こういったサービスが浸透する背景のひとつとして、中国国民が持つプライバシーと便利さの“折り合い”があると指摘。「プライバシーが脅かされることは懸念している一方で、ある意味慣れてしまっている部分もある。中国には昔から『档案』といって、戸籍や学歴・職歴・賞罰などを詳しく記録した個人情報ファイルがあるが、本人は見ることはできない。個人情報が当局に管理されることに慣れている側面がある。(サービスの)普及には便利さがポイントになっている」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)


