2月16日、後楽園ホールで開催された「プロレスリングマスターズ」は、武藤敬司プロデュース、藤波辰爾、長州力といったレジェンドレスラーが登場する興行だ。“現在進行形”とはまた違う面白さを持つこの興行を、長年のプロレスファンであるラッパー・サイプレス上野(サイプレス上野とロベルト吉野)も観戦。ヒップホップの世界になぞらえつつ、その楽しさを語ってもらった。
(聞き手・橋本宗洋)

(会場にて、メインに登場した蝶野正洋と記念撮影)
――「プロえスリングマスターズ」ではレジェンドレスラーが続々登場して沸きに沸いたんですが、ヒップホップ界で考えてみて「これやられたら現役世代はたまんねえよ!」っていうのはないですか?
上野 BUDDHA BRANDとか復活してますからね。「これやられたら……」っていうのは俺たちからしたらあるんですよ。
――「ズルいわ!」っていう。
上野 「ヒット曲しかねえじゃん!」って。まあ、ベテランの方はあんまりライブで動かなかったりもするんですよね。サイドチェンジもしない。だからお客さんの受け取り方もそれぞれで「ラッパーらしく動けてない」って人もいますけど「名曲聴けてよかった」って人もいるし。俺はインサイダーだから客観的な判断はできないですけど、事実として会場は沸いてるわけですよね。
――今回みたいにプロレスファンの立場で見てみると「気持ちは分かる」という。
上野 結局そうなるんですよ(笑)。今のブッダもそうで、派手な動きはなくても“一撃必殺”がある。まさに「水戸黄門の印籠」で、それを作ってきた人に強みがあるのは当然ですよね。若いレスラーは、今それを作ってる最中で。AKIRA選手なんて同じ括りでいいのかってくらい若いですけど「ムササビ!」なんて声がかかってたじゃないですか。印籠があるんですよね、すでに。
――印籠があるのがマスターズの証明というか。
上野 また「ムササビ」を全員知ってる会場なんですよ(笑)。「この選手は新人だから分からない」とかがない興行じゃないですか。
――天山(広吉)選手が“若手”っていう世界ですもんねぇ。
上野 あげく、マスクマンの中身まで全員知ってますからね。
――ビックリしたのはタイガー戸口選手ですよね。デカい!
上野 レスラーでしたね。デカい、怖い。(グレート)小鹿さんもそうですけど、あんなおじいちゃん怖いですよ(笑)。やっぱり昭和のレスラーだなって。
――先ほどの「印籠」の話でいえば、平成維震軍は入場とか着てる道衣からして「印籠」でしたね。
上野 いや、あれが俺の憧れるエンターテインメントですよ。出てきただけでカネが取れる。変な話、この興行って1万円のチケットだったら9500円分は入場じゃないですか(笑)。それくらいカッコよかった。特に平成維震軍はよかったすねぇ。俺、なんで「覇」の旗を持ってこなかったんだって思いましたよ。試合前に越中さんにお会いできたのも嬉しかったし。
――越中さんはサ上とロ吉のアルバムにも参加されてますからね。
上野 メインも名場面だらけでしたよね。
――それぞれが「印籠」を出して。
上野 蝶野さんもケンカキック出してくれたし。
――試合前はビンタくらいしか出せないって言ってましたけど、さすが見せてくれましたね。
上野 で、そこに武藤さんがシャイニング(ウィザード)。蝶野さんのサングラスが飛んで(笑)。そこまで含めて完璧でしょう。
――今回は選手じゃなくTEAM2000の監督、マネージャー的ポジションなんですけどね。
上野 蝶野さん、マネージャーとしてのアジテーションもよかったですよ。最初と最後にいい感じでアジって。
――「お前ら、こんな年寄りのプロレス見たいのか!」って煽ってましたね。
上野 それが見たくて来てる人たちにあえて言う感じですよね(笑)。結果、会場に一体感が出るじゃないですか。MCの基本といえば基本なんですけど、あれができる人ってそう多くないですよ。ヒップホップの世界では般若くんがそうですよ。「こんな最低なライブきてくれてありがとう」みたいな。
――そう言って反応を引き出すと。
上野 「でもこれ見に来たんだろ!」って。そこでワーッとくるわけですよ。それと同じ感じがありましたね、蝶野さんは。あと「戻ってくるかもしれない」って、ちゃんとNEXTも振って。いやホント、いい企画ですよねこれ。こういうの、ヒップホップの先輩たちにもやってほしいですよ。
――「日本語ラップ・マスターズ」じゃないですけど。
上野 そう考えるとDEV LARGEさん追悼ライブとかそんな感じかなって。もう俺が一番の若手くらいの。懐古趣味じゃしょうがないって言う人もいますけど、思い出を共有できる空間って楽しいですよ。今っておしゃれでスタイリッシュなプロレスファンも多いですけど、今回のお客さんは俺の知り合いのタイプというか、もうほんとに濃厚な。
――昔ながらのプロレスファンで。
上野 ほっこりしましたよ(笑)。ひたすらプロレスだけが好きっていう。まあダサさも含めてプロレスファンだと思ってるので、それも俺が好きな空間でしたね。テンション上がりすぎた人の無粋なヤジとかもありましたけど、今回は許す!(笑)。
――ある種の同窓会というか。
上野 ファンも含めて「久しぶり!」みたいなね。そりゃ楽しいですよ。



