今、女性に人気を集める「立ち喰い梅干し屋」がある。2015年ゴールデンウィーク、表参道ヒルズに出店をすると話題が話題を呼び、「最大2時間半待ち」の大行列を作った。その仕掛人は“梅干し界の革命児”と呼ばれる竹内順平さん（28）。父は落語家として著名な立川志の輔氏である。
幼い頃から、舞台に立ち、人を喜ばせる父の背中を見て育った竹内少年が小学生の時、いつも両親に頼み込んで買ったCDは何と「CMソング集」だった。「15秒の中にアイディアを詰め込んで何かを伝え、人を喜ばせる。これぞエンターテインメントだと思い込んでいました」と振り返る。
大学卒業を控え、父に弟子入りを志願するも断られた。それでも将来やりたいことは、人を喜ばせること。その手段がたとえ落語の道でなくとも、その気持ちは消えることなく、心に留まっていた。
大学卒業後、23歳で糸井重里氏の事務所に入社すると、「パン屋だってパンで表現している。人々を立派に喜ばせている」という糸井氏の言葉に目から鱗が落ちた。「人々が楽しめる空間づくりをしよう。テーマは、梅干しだ」。なぜ梅干し？
「居酒屋で思案していたとき、食べていたのが梅茶漬けだった」というネタのような話がきっかけだった。「梅干しは決して主役にはなれないけど、ご飯に欠かすこともできない空気のような脇役。それでも日本の食を代表する一品であることに魅力を感じました」と竹内氏。さらに「落語や歌舞伎が日本伝統芸能であるのに対して、それがどんなものかを説明できる人は少ない。梅干しも同じで、分からないからこそ興味が湧きました」と続ける。
「美味しい梅干しとの出会いの場」を作る
思い立ったが吉日。和歌山県立医科大学の梅干し博士・宇都宮洋才先生を訪ねることになったというが、先立つお金は無く「車で9時間半、民泊の旅」となった。しかしそのフットワークが奏功する。「梅干し好きの変な若者が来たぞ」という噂とともに「梅干しの輪」も広がった。3日間で現地の生産者、加工業者、メーカーを巡っては食べるの繰り返し。その過程で思いも明確になった。
「東京には何でも揃っていると思っていました。でも、そんな美味しい梅干しがあるとは知らなかった。全国の梅干しと人々の出会いの場を作ろうと心に決めました」
生産者とのネットワークを地道に全国まで張り巡らせ、現在取り扱っている梅干しは10社14種類。これは「少量で、より多く」の良質な出会いを提供するというこだわりでもある。同じパッケージの小瓶を生産者に送り、瓶詰作業を依頼する。そのことについて「絶対に面倒な作業ですが、今まで1社も断られずにやっていただけている。小さなことですが、今まで自分がやってきたことへの共感、成果なのかなと嬉しく思いますね」と笑顔を見せた。
出店のスタイルが「立ち喰い」であることについては、「深夜食堂という漫画原作のドラマがありまして、その主人公の小林薫さんになりたかったんです。自分が落ち込んでいるとき、深夜食堂に行って『梅干しありますか？』と聞くと、さり気なく『お、あるよ』みたいなやりとり。僕のイメージでは、梅干しは腰を掛けて食べるほど仰々しいものではないんです。どんなに美味しくても、あくまでも脇役ですから（笑）」と説明する。
梅干しのような名脇役になりたい
2018年1月には東京スカイツリーのある「東京ソラマチ」での出店が成功を収め、9月には実店舗を見据えた第二弾も予定されている。「梅干しの伝道師」として、「味も好みも人それぞれ」という理由から、梅干しのワークショップも開催しており、全国に足を運ぶことは難しいため、誰でも簡単に梅干しが作れるキット「梅子」の企画販売を始めた。「梅干しの伝道師」を志して4年が経過したというが、これまで父の名前、存在は伏せてきた。
「父の名前を超えることはできないでしょう。ただ4年目にしてようやく、『志の輔の息子』から『梅干しの人』に昇格できたかな、という実感はあります。父は表舞台に立つ人ですが、自分は表舞台をプロデュースする立場。その意味では梅干しと同じ引き立て役。少しでも多くの人に喜びを与え、愛される梅干しのような存在になりたいですね」
なお、竹内氏は5月24日23時からAbemaTV（AbemaSPECIALチャンネル）で放送される「買えるAbemaTV社 ～ヨダレだくだく！？ 細胞がざわついた究極の梅干しSP～」に出演。自身が選んだ渾身の梅干しを販売する。
(C)AbemaTV
◆プロフィール◆
1989年生まれ。BambooCut代表。玉川大学芸術学部PA学科卒業後、株式会社東京糸井重里事務所入社。2014年4月1日より現職
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