「シンガポールの現地メディアも"12秒の歴史的握手"を大きく報じている。シンガポール独立以来の最大のイベントだという雰囲気だ。トランプ大統領自身も言っていたが、この流れが続けば次は金正恩委員長がホワイトハウスに招待される。ただ今の米朝外交は通常スタイルではなく、アメリカのCIAと北朝鮮の諜報機関による"諜報"外交で、熱しやすく冷めやすい側面がある。冷めないうちに金正恩委員長をホワイトハウスに招待できるかどうかが次の焦点になるだろう」。
史上初の米朝首脳会談を現地取材した『週刊現代』編集次長の近藤大介氏はAbemaTV『AbemaPrime』の取材に対し、そう話す。中国政治に詳しい近藤氏は、今回の会談、そして共同声明が北東アジアにもたらす影響について、中国側の評価をこう推測する。
「中国の究極の目的は、朝鮮半島、特に韓国からの米軍撤退だ。その前段階として、米韓合同軍事演習を止めさせ、THAADミサイルを撤去させたい。今回、図らずもトランプ大統領が記者会見で"米韓合同軍事演習はお金の無駄だ"と言った。中国としては"渡りに船"と言うより、ここまで言うのかと驚いたはずだ。この一言が出ただけでも、米朝首脳会談が開催されてよかったと考えたと思う。王毅外相も"中国が主張してきた3点(=朝鮮半島の非核化、対話と交渉による問題解決、地域の平和と安定)が満たされるので非常に満足している"と評価していた」。
その上で近藤氏は「ただ、これらは表面的な反応で、そうとばかりは言えないはずだ。中国としてはおそらく大変複雑な思いでいるだろう」と指摘する。
「一つが、北朝鮮というカードが使えなくなること。"北朝鮮屏風論"とか"北朝鮮番犬論"と言うが、これまで中国はアメリカとの関係が悪化すると北朝鮮を盾にしたり攻撃させたりして、かき回してきた。しかし米朝がうまくいくようになると、この手が使えなくなる。もう一つは、トランプ大統領が台湾についても同じ行動を取るのではないかということ。トランプ大統領が3月に『台湾旅行法』という法律に署名、高官同士による交流が促進されることになった。中国の中では、その先に蔡英文・トランプ会談が行われてしまうのではないかという危惧があった。台湾メディアの人たちは、米朝首脳が握手した際に拍手喝采だった。やはり次は自分たちだという意識があるのだろう。中国としては深刻に恐れていることだ」。
新潟県立大学の浅羽祐樹教授も「米朝のガチンコの背後には中国がいる。米韓合同演習が止まって在韓米軍も引きあげてくれそうだとなれば、中国からしたら非常においしい話。北朝鮮のミサイル対応として配備されたTHAADミサイル防衛システムも撤去すべきだと言いやすくなった。海洋勢力のアメリカと大陸勢力の中国の確執の場になってきたのが朝鮮半島。その半島国家の韓国、北朝鮮を大陸の影響圏に取り込んでいきたいと考えているだろう」と話した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)