
オンラインサロンなどのコミュニティ・ビジネス通じて独自の活動を展開してきた、お笑い芸人キングコングの西野亮廣氏。しかし今月、自身の絵本をテーマにした美術館建設のための借金3億円を返済する、としてクラウドファンディングで寄付を募りはじめたところ、法的な問題点も含む批判を浴び、寄付を撤回することになった。
NPO法人を数多く取材、自身もクラウドファンディングによって取材活動を行ってきた堀潤氏に話を聞いた。
■「自分はアンチには強いが無視には弱い」という言葉
ーートラブル、炎上が可視化されてしまうことで、コミュニティ・ビジネスやクラウドファンディングという仕組み自体に良くないイメージが付いてしまうのは残念なことです。
堀:確かに、「約束されていたものが届かない」というようなトラブルはありがちですし、華々しく話題をさらったプロダクト系のクラウドファンディングの中にも、できあがった製品を見て「思っていたような機能ではない」「当初のデザインと違う」などの理由で返金を求める人が現れるなど、騒ぎも起きました。
それ以外にも、「クラウドファンディングで学費を支援してほしい」と訴えて有名になった女の子が炎上してしまった問題もありましたね(笑)。常に「うまくやりやがって」という反感、「他の人達が苦労しているのに、なんであんただけ」という批判と隣合わせではありますよね。インターネットを通して、支援する側、される側双方の様々なことが可視化されることには、いい面と悪い面がありますよね。その点、最近ではプラットフォーム事業者側の中にはコンサルティングをするなどのサポートをしてくれるところもあります。やはり業界として信頼を維持するために、運営にまで手を入れていかないと、信用が落ちていきますから。
でも、かつては担保や信用力を背景に銀行からお金を借りられる人や企業を除いて、資金調達をするのはとても大変なことだったと思います。それがクラウドファンディングによって、アイデアや人々の共感を呼ぶ思いがあれば事業化させたり、何かを実現させたりすることができるようになりました。僕自身も、クラウドファンディングがあったからこそやって来られたし、すごく助けられました。
その点、西野さんはそうした反応を織り込み済みでやってらっしゃるので、むしろ大衆の動向をわかっているとも言えるでしょう。本当に支援してくれる人と、外野から言いたい人とは違うことを認識している。「自分がアンチには強いが無視には弱い」という西野さんの言葉が、まさに言い当てていると思います。それをはっきり言う西野さんは面白いなと思います。話題を呼んで、議論されればされるほど、西野さんのページへのリンクが拡散していくわけですから、支援者も新たに発掘されていく。西野さんやはあちゅうさんたち、"プロ"はそれもわかっていてやっていますよ。
ただ、ファンの人たちは面白がるけれど、倫理的にどうなのか、法的な問題はないのか。自分のファン、コミュニティの外にまで支援の輪を広げて、プロジェクトの規模を大きくしていこうとなったとき、その点の見え方は気にしなければいけません。一度信用を失うと、投資額は細ってくる。自重すべきところはしないといけませんね。
ーーネットを通じて稼ぐことが当たり前になる中で、出版にしろ音楽にしろ、マス向けというよりはネットでつながった特定の層やファンに向けたコミュニティ・ビジネスに寄ったスタイルも増えていくはずです。そうなれば、会員に対してだけでなく、会員でない人たちからの様々な意見に対しても向き合っていく必要が出てくると思います。
堀:僕は若新雄純くんとオンラインサロンを運営していますが、会員からの意見に対応するコストや時間は大変なものでした。でも、それがお金をもらうということの重みなんだと思います。
オンラインサロンを立ち上げた当初は、「なんでこうしてくれないんですか」「もっとこうすべきだ」といった問い合わせがたくさん来ました。若新さんと延々議論して、会員の方と直接メッセンジャーでやりとりして(笑)。でも、そんな苦い経験や反省を会員の方々が集まったときに共有していくことで、次第に運用しやすくなっていきました。メディアで言えば「見ろ」ではなく、「どう思う?」。そうやって返ってきた返事も合わせて、一緒にコンテンツを作っていくわけですね。
むしろ、ここがネットを使ったコミュニティ・ビジネスの本来の趣旨でしょうし、良さだとも思っています。参加者にとって、お金を出すということは一言物申す権利を得る、ということですから。それはクレームではなく、当たり前のこと。最終的には、そこでいかに会員とコミュニケーションできたかが物を言うんだろうと思います。
経営者だって、厳しく注文を付けたり、株価が下がったらシビアに資金を引いたりする投資家たちに育てられるものでしょう。その意味では、まずは外野であれこれ言う人は気にせずに、お金を入れてくれた人たちにしっかり向き合ええばいいんじゃないかと思います。
■メディアを運営しているのと同じ感覚でやらなければならない
ーー「寄付」と「購入」「投資」には違いがありますが、クラウドファンディングはその両方の側面があるように思います。最初から「支援したい」「寄付したい」という思いで入ってきた人は多少デザインが変わったり納期が遅れたりしても怒らないし、もっと言えば対価が得られなかったり、何らかの結果が出なかったりしても怒らない。ファンビジネスとしてのクラウドファンディングというか。「ふるさと納税」を巡る議論も近いものがあるかもしれません。そもそも他国に比べて日本に寄付文化というか、そういうマインドが醸成されていない、という背景もあると思いますか?
堀:必要であれば街頭やコンビニでポンと募金する文化はあるわけですから、心持ちが変わればとはあまり思いません。やはりどちらかと言えば、支援を受ける側が"いいことをやってるんだから、支援してもらって当たり前"、と構えていた部分がありはしないでしょうか。
いくら寄付であったとしても、何に困っていて、何にお金を使うのか、そして支援を受けた結果、どれだけ改善したのかをきちんと数値化して示せたか、ということを考える必要があると思います。そこで掲げた目標がある程度達成できれば、支援してくれた方々の満足度も支えられる。僕の場合、それでも何かをしないとなあと思って、一生懸命ランチ券とかを売り出して、支援者の方々とご飯を食べた時期もありますけど(笑)。
たとえば内閣府の調査によれば、NPO法人の方が一番悩んでいるのが人員の確保、事業の継続、そしてPRなんです。僕もNPOの方に写真や動画をもっと出さないんですか?といっても「溜まってる一方で…」「担当がいなくて」と言われる。PRがしっかりできていれば、人員や事業継続のための資金提供も増えるのではないでしょうか。
ですから、NPO業界が抱えている課題と、クラウドファンディングやコミュニティ・ビジネスが抱えている課題は同じだと思っています。メディアの書きぶりを見て、誤解されているなあというときは、やっぱり発信者が"こういうふうに受け止める人もいますよね"ということを織り込んで説明できていない。まさにそれが、ネットを通じてマスに投げかけるときに付いて回る宿命だと思います。
だからこそ、コミュニティ・ビジネスもクラウドファンディングも、ある意味で"情報発信"が基本にあるんですよ。自分の思いを書いて、写真を載せたものに課金するわけですから、当然そこに嘘や違法なことがあってはいけない。一度発信したら様々な反応が返ってくることも織り込み済みでなければいけないし、報告もしなければいけない。そこが過渡期なんでしょうね。
電車代くらいのちょっとした小銭を集める「polca」のようなクラウドファンディングであったとしても、メディアを一つ運営しているのと同じ感覚でやらなければいけない。つまり「ちょっとお金がほしいんだけど」と発信した情報も新聞社が発信した情報も、等しく同じ土俵に乗っかっているのがネットですから、「俺は新聞社じゃないし」みたいな言い訳は通用しない。お金を頂くということは、それくらい重みのあることです。そうでなければ、かえって借金を背負うことになりますよ。
■プロフィール
1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』(水曜レギュラー)などに出演中。

