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 外国人観光客を呼び込めるとして政府が成長戦略の柱に位置付ける統合型リゾート(IR)。15日午後の衆議院内閣委員会では怒号の中、IR実施法案が採決された。

 安倍総理は「日本全体の経済成長につながっていく観光先進国という新たな国づくりのために政府一丸となって、全力で日本型IRを実現していきたい」と話しているが、野党側は焦点になっているカジノとギャンブル依存症対策をめぐる議論が不十分だとして、「強行採決だ」と激しく反発している。

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 世界屈指のギャンブル依存症大国・日本。厚生労働省も、約320万人がギャンブルに依存している疑いがあるとしている。

 従来、カジノは刑法の「賭博罪」で禁じられてきたが、今回の法案では「カジノ管理委員会」の免許を受けた運営者に対し「賭博罪」の適用を除外することが盛り込まれ、依存防止の措置としては「1週間で3回、28日間で10回まで」という制限や、1回6000円の入場料の徴収、広告や勧誘の規制などが設けられている。菅官房長官は、「世界最高水準のカジノ規制で依存症など、IRに対するさまざまな懸念に万全の対策」としている。

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 こうした政府の姿勢に対し、立憲民主党の辻元清美国対委員長は「カジノであろうがギャンブルであろうが、賭博を一部解禁してそれでカネさえ儲かればいいというようなのが安倍政権の本性か」と批判、共産党の宮本岳志衆議院議員も「カジノを管理すべきカジノ管理委員会のカネも人もカジノ事業者に依存することなど、重大な問題点が次々と明らかになった」と指摘。野党は委員会での採決に先立ち衆院本会議に石井国交相の不信任決議案を提出するなどの抵抗を続けている。しかし法案は19日の衆議院本会議で可決され、参議院に送られる見通しだ。

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 15日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、IR法案が抱える問題点について、ギャンブル依存症の当事者らと議論した。

■「政府の答弁は"頑張ります"だけ」

 どうしてもギャンブルがやめられない、そんな悩みを抱える患者のケアとサポートを行う、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を抱える会」の田中紀子代表は、自身もギャンブル依存症の当事者だった。祖父や父もギャンブルがやめられないという家庭に育ったことから、いつしか競艇で1日に100万円、カジノでは200万くらい使ってしまうほど重症になっていた。

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 転機となったのは、2人の子どもを育てていた40歳のとき、夫に280万円の借金が発覚したことだった。「"もう私たちはダメだ"、どうしたらいいんだろうということで、初めて外部に助けを求めた」。自分自身に向き合い、「過ちの本質を認める」「傷つけた全ての人の表を作る」といった過程を経て回復を目指すプログラム「12ステップ」に取り組んだ。そして50歳で依存症の人たちの支援を行う側になった。

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 そんな田中さんだが、「ギャンブルそのものは悪いものじゃない。多くの人たちにとっては娯楽であり息抜き。8~9割の人たちは適度に楽しむことができる。当然あっていいものだし、みんな楽しんで欲しい」と話す。

 その上で、依存症のリスクや発症してしまった人へのサポート、そのための啓発や人材育成が不足していることを指摘、今回のIR法案についても「ギャンブル依存症に効果のあるエビデンスが認められている対策が全然出てきていない」と待ったをかけてきた。「どんな国でも、ギャンブル産業を許可するときには依存症対策を義務付け、対策費を拠出させている。それを一般財源で政府が使いやすいような納付金にしてしまっていることが一番の問題。2016年にIR推進法が通った時も、"依存症対策はしっかりやります"としていたのに、今年付いた予算は1942万円で、しかも税金から」。

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 元経産官僚の宇佐美典也氏も、「野党の質問に対する政府の答弁は"頑張ります"だけ。"世界最高水準で頑張る"と言っていても、中身は後から考えるという状態で、体系的に取り組むという思想は欠如している」と指摘した。

■「ギャンブル依存症の人たちをカモにするシステムだ」

 宇佐美氏がとりわけ問題視するのが、野党も「依存症問題を助長する」と懸念を示す「特定金融業務」だ。これはカジノ事業者側が利用者にお金を貸す仕組みで、一定の頭金をカジノ側に預け、審査を通過すれば多額のギャンブル資金を2か月は利息なしで借りられるというもの。このプランも詳細な内容は詰まっていないというが、宇佐美氏は「ギャンブル依存症の人たちをカモにするシステムだ」と憤りを露わにする。

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 「カジノが金融業務もするということは以前から言われていたが、"2か月経っても返さない場合、いきなり14.6%の遅延損害金がつく"というスキームがでてきたのは4月27日になってから。政府は"報告書を示したから、国民にも納得いただいている。意見も大してなかった"と主張している。ここでも対策は"ちゃんと頑張ります"だけ。非常に怒りを感じる。そんな状態で強引に採決に持ち込むのはありなのか」。

 宇佐美氏によると、この規定について国会で質問した議員がいたが、政府側の答弁は「官僚が考えて提案した」というものだったという。

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 「そんなはずない。こんな過激なスキームが突然出てくること自体おかしい。おそらく、どこかの事業者や政治家の意向を汲んで組み込まれたのだと思う。政府は、第三者が貸しつける"ジャンケット"という悪い習慣があるからだと言うが、貸金業法には"総量規制"といって、貸す方に上限がある。今回の法案の場合、むしろその規制を緩和していることになるので、依存症対策どころではない。論理破綻している」。

 田中さんも「どんなに自制していても、繰り返しているうちに発症してしまう人もいる。そこに金利なしで2か月も借りられてしまう仕組みがあったら、ギャンブラーなら"取り返せる"と思って簡単に借りてしまうだろう。ギャンブル愛好家と依存症との違いは、お金を借りてまでやるかどうかの差。そのハードルを下げてしまうような法律を作ってしまえば、依存症者を量産しかねない」と警鐘を鳴らす。

 宇佐美氏は「衆議院では与野党の争いで何も決まらず、修正もされなかったが、"良識の府"とされる参議院では与野党がちゃんと依存症対策に向け法案修正や附帯決議を目指してほしい」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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