とにかくeスポーツを、視聴者に一番いい状態で見てほしい。そんな強い思いから、テレビ局大手・朝日放送(ABC)を退社してまで、平岩康佑アナウンサーはeスポーツの世界に飛び込んだ。数々のスポーツ実況の経験を持つからこそ、現在のeスポーツ中継を見て、直したいこと、整えたいことが山ほどある。「これから日本のeスポーツが成長していく上で、ライトユーザーと呼ばれる存在に見てもらうことが大事なんです」と力説する平岩アナに、現在のeスポーツ中継の課題と、今後の取り組みを聞いた。

ゲームがプレイされている様子を映像で伝える。海外では10年近く前から大きなイベントして放送されてきたが、日本は独自の文化を築いてきた。いわゆる「実況プレイ」だ。自らゲームをプレイしながら、その様子を説明し、かつ視聴者のコメントにも反応していく。実況者でありプレイヤー。いわゆる「配信者」は常に1人2役だった。その結果、プロリーグがいくつも誕生した現在でも、その配信者が実況を務めることが多い。
平岩 「今の日本のeスポーツ中継だと、本来解説をやるべき人が実況をやっているイメージがあるんです。ゲームについてはとても詳しいのですが、やっぱりしゃべりのプロではない。それに実況と解説が同じことをやっていたり、しゃべっていたりする。自分が今まで携わってきたスポーツ中継ではありえないこと。この実況と解説の立場が明確になっていない点は、1つ大きな問題だとは思っています」
起きた状況を的確に伝え、かつ事前に取材した情報を盛り込み、会場の観客や視聴者を惹きつけるのが実況、高度なプレイや選手についてのより詳細な情報を語るのが解説。明確な役割分担があってこそ、見る側にとってはストレスなく、大きな感動を持って受け入れることができる。目の前のスーパープレイに、実況と解説がプレイヤー気分で盛り上がっているわけにはいかない。
なぜプレイヤー側に寄り過ぎてはいけないのか。これからのeスポーツシーンを拡大させるのは絶対に必要なライトユーザーが取り込めないからだ。多くの知識と高度なスキルを持った者のコアな会話は、特定のファン層には反響を呼ぶが、興味を持ち始めた、もしくはこれから興味を持とうという層には、まるで伝わらない。この層を取り込めない限り、成長曲線は一気に鈍化する。
平岩 「今の日本は、ちょうど海外の10年前を追っているような形です。これから成長していくと思いますが、その時に必ずゲーマーじゃない人がeスポーツのイベントに来てくれるようなものが必要になってきます。いろいろな方から「eスポーツ界にはヒーローが必要だ」と言われるのですが、それに寄与できていない部分があります。ヒーローになる選手を応援してくれるような情報を伝えるのも、実況者の役目で、今まさにできていないところだと思います」
オリンピックの金メダルにしろ、プロスポーツの世界大会にしろ、視聴者誰しもが詳細なルールを把握しているわけではない。むしろ「にわか」と呼ばれる層が盛り上がるくらいでないと、ブームとは呼べない。ルールが分からずとも視聴者が盛り上がるために、実況者が伝えるべきものは、いくらでもある。そのためには解説とともに同じことを話している暇はない。
平岩 「もちろん実況するゲームについては、最低100時間はプレイして、そこから実況の練習と、知識のインプットという作業に入ります。ゲームによっては敷居が高かったり、ファンが熱狂的だったりするので、200時間でも300時間でも足りないこともありますけど。ただ、しゃべりのプロではあるけれど、ゲームの知識がないと思われるのは一番嫌なので、そこはしっかりとやります。アップデートとかあると、知識の総入れ替えが必要なので大変ですが(苦笑)」
プロの実況者だからこそ、プロスポーツ同様にeスポーツでも伝えたいことがたくさんある。将棋や囲碁のように先の先まで読むカードゲーム。1/60秒の操作が勝敗を分ける格闘ゲーム。また女性が男性に勝ったり、身心にハンディキャップがあっても対等に戦えたりするのがeスポーツの利点でもある。従来のスポーツより、やるべきことは大量にあるかもしれない。そんな未開拓の世界に、平岩アナは勇気を持って切り込んでいく。

◆平岩康佑(ひらいわ・こうすけ) 1987年9月2日、東京都品川区出身。法政大学卒業後、2011年に朝日放送にアナウンサーとして入社。翌2012年からスポーツ中継を担当し始め、プロ野球、高校野球、サッカー、アメフトなどの実況を務めた。2017年からeスポーツ実況も担当するようになり、2018年から個人のTwiiterをスタート。4月末を持って番組を降板すると、自身のマネジメントやeスポーツキャスターの育成などを目的とした「株式会社ODESSEY」を設立。6月15日付で朝日放送を退社し、本格的にeスポーツキャスターへと転身した。
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