フットサル界のキングを決める試合が、もうすぐ始まる。ペスカドーラ町田の森岡薫と、立川・府中アスレティックFCの皆本晃――。両チームのキャプテンを務める2人は、試合前からプロレスさながらの“大舌戦”を繰り広げている。
皆本の野心か、森岡の誇りか
2007年にスタートした日本最高峰のフットサルリーグ「Fリーグ」。今シーズンで12年目を迎えるが、主役の座は1人の男が独占してきた。森岡薫――。名古屋オーシャンズのエースとして、チームを前人未到の9連覇に導いた。個人としてもMVPに4回、得点王に4回輝いた。これまで11シーズンで挙げたゴールの数は274。これはFリーグの通算最多記録だ。
2016年に名古屋を退団し、町田に戦いの場を移してからも、森岡の存在感は変わらなかった。リーグ優勝こそ達成していないが、町田が2年連続でプレーオフ決勝に勝ち上がったのは、キャプテンとして牽引した森岡の力があってこそだ。今年で39歳を迎えたものの、依然として Fリーグの頂点に君臨している。
そんな森岡の“絶対王政”を崩そうと立ち上がった男がいる。皆本晃――。日本代表としても活躍する31歳だ。今から3年前の2015年、皆本はフットサル専門誌のインタビューで「森岡を倒して日本一の選手になる」と宣戦布告して驚かせた。
「僕は、府中は自分のチームだと思ってるし、自分でゲームを作って点も取って、試合も勝たせてるって思っています。そういう選手にならなければいけないと思っているので」
「薫さんはバロンドールの候補にも選ばれるような人で、世界でも有数の選手の1人だと思います。そんな選手が日本にいて、同じ舞台で対戦する機会もある。目指せるチャンスがあるのに、彼を越えようと思わない理由がないと思っています」
「プレーオフまで行ったら、勝てると思います。名古屋との直接対決は自信があるんで。何しろ自信しかないんで(笑)」
これまで、森岡を意識する選手はいたが、皆本のようにメディアを通じてぶち上げる選手はいなかった。森岡が支配するFリーグを、この男だったら変えるのではないか。そんな期待は膨らんだ。しかし――。
宣戦布告から3年が経ったものの、森岡と皆本の距離はそのままか、もしくは開いてしまったように見える。皆本率いる立川・府中は2015-16シーズンからの3年間で5位、5位、6位と優勝争いにも加われていない。
「もしかすると、皆本はすでに森岡越えを諦めてしまったのではないか?」そんな風に思っていた。でも、違った。皆本はまったく諦めていなかった。それどころか、さらなる闘争心を燃やし、森岡という最強のライバルを倒そうとしている。
AbemaTVのインタビューで森岡について聞かれた皆本は、ギラギラとした表情で語った。
「彼もいい年齢にきてますし、そろそろパフォーマンスも落ちてきている。“表紙”は変えたほうがいいのかなと」
Fリーグを盛り上げるためにも、いつまでも森岡が頂点に立っているままではいけない。挑発的な言葉をぶつけてきた皆本に対し、森岡はキングの余裕を漂わせながら返す。
「(僕を超えるっていうのは)何年も前から言ってますよね。でも、僕はあんまり意識したことはないですね」
12年もの間、トップを走り続けてきた森岡には「フットサル界を背負っているのは俺だ」というプライドがある。自分のポジションを簡単に明け渡す気などさらさらない。
皆本の野心か、森岡の誇りか。
お互いの譲れないものをぶつけ合う場所は、もちろんピッチの上だ。ピヴォの森岡と、フィクソの皆本はポジション的にもマッチアップが多くなる。まるで格闘技のような激しいバトルが繰り広げられることになるだろう。
今シーズン初となる森岡vs皆本の対決は6月23日(土)に立川・府中のホームである立川立飛アリーナで行われる。どんな事件が起こるのか、見逃せない。
文・北健一郎(SAL編集長)
(C)AbemaTV