
12日、政府が閣議決定した今年度の科学技術白書の内容は、「日本の科学技術は力が急激に弱まった」という憂うべきものだった。中身を見ると、日本の論文数は2004年の6万8000件をピークに2015年は6万4000件に減少。引用数上位1割の論文は、2003-2005年の4601から2013-2015年は4242となり、順位も4位から9位に後退した。
上位国の論文数・引用数が軒並み増えている中、影響力が落ちている日本。政治学者で東京大学先端科学技術研究センター助教の佐藤信氏もその状況を嘆く。
「東大先端研の歴史を調べてみると、この10年で会議や事務作業が膨大に増えている。研究不正問題に対応するための委員会とか、文科省の方針への対策会議といった形で役職が増えていて、研究の時間がなかなか取れず論文を書く時間もない。世界へのインパクトが小さくなっているのは憂うべき状態」
また、大学等教員の職務活動のうち研究が占める割合は、2002年の46.5%から2013年には35.0%に減少。佐藤氏は「5年前のデータなので、今はさらに下がっていると推測される。研究者といってもあまり研究できないという状況が根本にある」と述べた。

一方、科学技術関係予算の伸び率を見ると、2000年度を100とした場合、日本は2018年度で1.1倍、米国は2017年度で1.8倍、韓国は2016年度で5.1倍、中国は2016年度で13.5倍と伸びが顕著となっている。さらに、安倍総理は14日、総合科学技術・イノベーション会議で「大学運営費交付金の在り方を改革」「改革へのインセンティブを生み出す」「研究予算を若手研究者へ振り向ける」ことなどを策定した。
佐藤氏は若手研究者に該当することから「ありがたい方針」としながらも、「日本の研究、国の競争力を根本的に高めるかというと疑問」と指摘。「振り向ける、つまり増額して研究者に新しく予算をつけるということではない。むしろ、上の年代の人から早く辞めてもらって、その分を若手に振り向けようという考え。しかし、問題になっているのは予算の額そのものが上がっていないことで、研究者1人当たりの研究費は中国も韓国もほぼ変わらない水準に上がっている。技術が進んでいくにつれて、海外の能力がある人たちに来てもらえるかが大事なのに、日本は投資を拡大していない。予算が限られた中で考えるのが日本で、予算をつぎ込んでもいいから世界のトップに出ようとしているのが他国」と述べた。

また、そうしたことを背景に能力の高い研究者が国外に流出しているといい、「アメリカの大学だけではなくて、Amazonやグーグルに行くなどAIの研究者は日本の大学にいてくれない。これまで東大にもアジアからの留学生がたくさん来ていたが、今や通り越して条件の良い海外の大学に行ってしまうなど、日本の学問的な地位は難しいものになっている。しかもアメリカに行った人の中で、さらに優秀な人たちが大学ではなく企業に行く状況がある」と説明。今後の日本の方針については、「ある分野に関してはトップにするなど絞っていかないと、日本は乗り遅れて研究者が来てくれなくなる。急いで対応する必要がある」と訴えた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)



