今、全国の10~20代の年間行方不明者数が3万3千人にも上っている。7割は1週間以内に所在が確認されているものの、中には犯罪に巻き込まれる人や、犯罪に手を染めてしまう人もいる。
今月9日、新幹線内の殺傷事件で逮捕された小島一郎容疑者も、半年ほど前に家出し、事件の直前まで何の縁もない長野県に滞在、家族の誰もが居場所を把握できていない"失踪状態"だった。去年10月、神奈川県座間市で9人の遺体が発見された事件でも、被害者の多くは若い失踪者だった。
SNSで「家出」と検索してみると、「家庭問題で追い出された。居場所がない」「お父さんと喧嘩して家に帰りたくない」など、多くの若者が家族との関係に悩む様子が浮かび上がってくる。
家出経験のある18歳の女性に話を聞くと「家計がきつくなっていた。親がだらしなくなって家事も週1とか。そういう姿は見たくないし、ストレスになった。どうせ私のことも放っておくんだろうな、出るしかないと思った」と振り返る。また、17歳で家出を経験した女性は「親と上手くいかず、ネットに逃げ込んでいた。"神待ち掲示板"に"泊めてもらえませんか?"みたいに投稿した。"泊めてもらってご飯食べさせてもらってるんだから、(性行為)させろよ"みたいなのもあった」と明かした。
■存在価値を見出したくて、風俗の道に
取材を進めるうちに、現在も家出中の女性と出会った。母親との関係がうまくいかず、去年9月に家出したまま今も連絡をとっていないという19歳のミホさん(仮名)は、集団行動が苦手で高校を中退した。兄と比べられ、母親との関係が悪化した。「すごく頭がよかったお兄ちゃんと比べられて。私が高校中退してから、お母さんの態度が悪くなった。"これだからお前は出来損ない"とか、"いなきゃいいのに""産まなきゃよかった"と言われてキレて」。
家出当初は行くあてもなく、漫画喫茶を生活拠点にしていた。「それこそ今でいうパパ活みたいなことをしていた。声かけてきた人とカラオケとかご飯に行って、お小遣いもらうみたいな。おじさん達が遊ぶのに付き合っているみたいな」。
現在は風俗店に勤務している。母親から否定され続けてきたことで、自分の存在価値を見出したいという思いが風俗の仕事を選んだ根底にあると感じている。「親に"お前が悪い"という言い方をされていたから、自虐がすごいというか。世間からみて汚い仕事と思われがちだと思うけど、それをしないと自分に価値がないと思うし、そこまでしないと、なんで自分はいるんだろうというか、そういう風に思ってしまう」。
取材班が家に帰るよう促すも、その意思は無いようだった。「家は親の物だから、ウザくても出て行ってくれるわけじゃない。だったらもう自分が出るしかなくなる。家に帰る気持ちはまったくない」。
■見知らぬ人を頼ってしまう少女たち
橘ジュンさんは、若者たちを支援するNPO法人「BONDプロジェクト」の代表として、9年前から行き場を無くした若者たちの支援を行ってきた。ライターとして活動していた橘さんは、終電後も路上にたむろする女の子たちを取材するうちに、伝えるだけでなく、保護者や支援者につなぐ(くっつける=BOND)活動を始めた。
少年は1人で過ごそうとするのに対し、少女は見知らぬ人を頼る傾向があるという。また、少年には麻薬取引・詐欺・窃盗など犯罪行為への加担や暴力団などへの勧誘の危険があり、少女にはレイプ・売春・児童ポルノなど性被害、風俗店勤務への勧誘などの危険がつきまとう。橘さんも、家出中に街で出会った人と性的関係を持ったことで妊娠してしまった女性と出会ったなどからリスクの大きさを痛感、女性を専門にしている。
橘さんたちBONDプロジェクトでは、街中での見回りだけでなくメールや電話などでも若者の相談に乗っている。電話やメールで相談してくる若者は月に1000人に上り、多くがネット上で知り合った、見ず知らずの男性の家に宿泊する経験をしているという。橘さんは「昔は知り合いの家に泊まっていたのが、ネットの普及で行き先や、そこで何が起きているのかが見えにくくなり、知らない人に出会う機会も増えている」と指摘する。
取材当日には、16歳の女子高生が相談に訪れていた。見た目に派手な印象はなく、控えめなタイプの少女だった。彼女もまた、家出して以降、街で知り会った人の家などを転々としているという。「外で補導されて学校の先生にバレるよりいいかなと」。しかし、泊めてもらった人に嫌なことを強要されるようなことはあるのかスタッフに尋ねられると、思い出したくないのか口をつぐんでしまった。
そんな辛い経験をしてまで家を出ることを選んだ理由は何だったのだろうか。両親が離婚し、母親と祖母の3人で生活していたが、祖母との折り合いの悪さに加え、母親からはネグレクトされていると感じたからだという。
橘さんは家出した若者たちの親子関係について「未成年の場合、親権の問題が大きい。その子に望まれて保護したとしても、こちらが誘拐罪として訴えられる可能性もある。弁護士を付け、保護を望んでいること、保護が必要な状況だったことを確認した上で親とやりとりすることもある。それでも怒鳴られることもあるし、子どもに厳しく当たることもある」と実情を明かした。
■社会に適切な受け皿が足りない
BONDプロジェクトのスタッフの中には、自身も家出を経験した人もいる。森田あすかさんは16歳の時に両親が不仲で家に居づらくなり、友人の家などに泊まるようになっていったという。そして雑誌でBONDプロジェクトの活動を知り、18歳の時に親元に帰り、アルバイト生活を始め、19歳からスタッフとして働き始めた。
森田さんは「物理的にもそうだが、心の居場所がないというのも感じている。さみしい気持ちや、自分を罰したい、色々な気持ちが重なった結果の家出だと思う」と若者たちの気持ちを代弁する。
神奈川県座間市で起きた事件では、自殺願望のある若者と自殺を幇助しようとする容疑者がネット上で出会ったことで生まれた悲劇だった。橘さんは「#自殺募集だけでなく、#援交とか#家出とか#パパ活とか、そういう危険のある言葉を出している子にもアクセスしている。"死にたい、消えたい"と私たちに相談してくる子たちは多い」と話す。
かつての家出先の定番だったカラオケ、ネットカフェ、ファミレスも、利用にあたって年齢確認や身分証の提示を求められたり、18歳未満の深夜帯利用を禁止していたりすることで、行き場がなくなっているのだという。その一方、家出をする若者には、児童相談所や婦人相談所、婦人保護施設など、家出人を保護する公的機関もの存在も知らないケースも多いという。
森田さんは「公的な場所はハードルが高く、そもそも知らないケースも多い。そして、知っていたとしても決まりやルールが厳しく、大学生の場合、シェルターに入る際には退学しないといけないケースもあるので、自分が今まで頑張ってきたものを壊してまで入るという覚悟を強いている」と指摘する。
橘さんも「相談を受けて数日から数年保護することもあるが、私たちができる範囲なので、行政や社会による受け皿がない。補導されるのも嫌、家にも居たくないという子が自力でなんとかしよとして、暴力を振るわれるかもしれない恐怖を感じても付いていってしまう。自分がどこにいるかわかっていない子も多く、助けを求めるのも難しい。ちゃんと安心できて夜を過ごせる場所さえあればいいと思う。家族と間を取り持つような場所があれば…」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)