6日朝、世界を震撼させたオウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚と、6人の元教団幹部の死刑が執行された。執行されたのは、松本死刑囚のほか、早川紀代秀、井上嘉浩、新実智光、土谷正実、中川智正、遠藤誠一の6人の死刑囚だ。
13人が死亡、6000人以上が負傷した1995年3月の地下鉄サリン事件、8人が死亡した1994年6月の松本サリン事件、幼い子どもまで手にかけた1989年11月の坂本弁護士一家殺害事件など、数々の凶悪事件を引き起こしたオウム真理教。午後に会見を開いた上川法務大臣は「一連の犯行によって命を奪われた被害者の方々、そのご遺族、また一命は取り留めたものの障がいを負わされた被害者の方々、そのご家族が受けられた恐怖、苦しみ、悲しみは想像を絶するものがある。本日の死刑執行につきましては、以上のような事実を踏まえ、慎重にも慎重な検討を重ねたうえで執行を命令した次第である」と説明した。
新橋駅前で配られた号外で死刑執行を知った人たちからは「当然なのでは。それだけの罪を犯した」「本当に悪いと思って亡くなっていったのか、なんの反省もせずにされてしまうと、そこに意味があったのか、なかったのかと言われてしまうと疑問が残ってしまう部分はある」といった声があがっていた。一報は海外メディアも速報で伝えた。英BBCが「カルト教団のリーダーの死刑が執行された」と報じたほか、米CNNもオウム真理教を「終末論を唱えるカルト教団」と指摘、事件の詳細を速報した。一時、5万人の信者がいたとされるロシアでも、タス通信が執行を伝えた。
一連の事件の裁判は今年1月、元信者の高橋克也受刑者の無期懲役判決が確定したことで終結。今年3月には死刑が確定した13人のうち7人を東京拘置所から全国各地の拘置所へ移送しており、執行が近いとの見方も出ていた。
6日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した社会学者の宮台真司氏は「誰もが執行の準備だと気づいたと思う。ただ、平均すると結審から死刑執行まで2年あまりの時間が空いているのに対し、今回は4か月と非常に速やかだった。秋になると自民党総裁選が始まってしまうので、このタイミングを逃すとやりにくくなってしまう、あるいは平成が終わろうとしているので、その区切りと同時に禊をしてしまいたいという気持ちもあったかもしれない。また、政治哲学者のハンナ・アーレントが言うように、"外なる敵がないときは、内なる敵を作りだせ。内なる敵がないときは、外なる敵を作りだせ"ということもあっただろう。統治権力は自らの合理性を示すために敵を必要とするが、北朝鮮はトランプ大統領のおかげもあって"外なる敵"としての資格を失いつつある。一方、今の官邸周辺はグチャグチャで、モリカケ問題で国家の体をなしていない印象を非常に強烈に与えている。そういうときに"内なる敵"を思い出させ、統治機能としての国家の合理性を示すことは、政治的にシンボリックな意味を持つと推測できる」と話す。
■「泳がせておく方が、公安政策上は有利」
麻原死刑囚らの死刑執行を受け、公安調査庁はオウム真理教の後継団体「アレフ」など全国のオウム関連施設へ一斉立ち入りを行った。札幌にある施設では、公安調査庁の調査官と信者が揉める様子が確認され、施設の中からは時折男女の大きな声が聞こえてきた。アレフ以外にも「ひかりの輪」本部に立ち入り調査を行ったほか、アレフから分裂し金沢市に拠点を置く「山田らの集団」の施設にも訪問したが返答がなく、関係者不在と判断し検査を見送った。
同庁の中川清明長官は会見で「死刑執行後の団体の活動状況を明らかにするため、本日団体規制法に基づき警視庁および各都道府県警察の支援協力を得て、現時点で13都道府県のオウム真理教施設2か所に対し立ち入り検査を実施し、危険性をうかがわせる兆候の有無を確認するとともに主要な信徒の動静把握等を行っている。現在までのところ信徒の間に動揺が広がっていたり、危険な兆候を示す言動などは認められていない」と説明した。
死刑執行による麻原死刑囚の神格化が懸念されていることについて宮台氏は「イエスは処刑されてキリストになった。昭和天皇が太平洋戦争敗戦時に処刑されなかったのは、アメリカの中で"イエス死してキリストになりし"という歴史的な事例に連なってしまう可能性が認識されていたから。また、イエスには遺体がなかったが、今回は遺体があり、墓に葬られればそこが聖地になってしまう」と指摘した。
教団の元幹部で現在は「ひかりの輪」代表を務める上祐史浩氏は「残念ながらアレフはまだ麻原を絶対とする盲信の中にいて、実際の新しい信者の勧誘においては一連の事件が陰謀であると主張して、特に若い信者を中心に勧誘している。事件関与を認め反省・謝罪した上で、今度こそ被害者団体の皆様との賠償契約を改めて締結し実行に入ってもらいたいと思っている」と訴えた。
コンサルタントの宇佐美典也氏は「オウム真理教の後継団体『アレフ』と、そこから分派した『ひかりの輪』、そして『山田らの集団』というものがあるが、一般の人からすれば、"潰してしまえ"と思うだろう。彼らが存続する大義名分としては被害者補償があるが、この構造が残る限り、オウムが残っていく正当性もあることになる。私は止めた方がいいと思う」と指摘する。
しかし宮台氏は「人を殺した団体の後継だからという理由でカルト宗教に入りたがる人も大勢いて、事実、アレフにもどんどん人が入っている。宗教に限らず、疎外し過ぎると地下に潜って先鋭化する可能性がある。であれば適切に社会との接点を持つよう、泳がせておく方が、公安政策上は有利ということになる。"危ない教団がいるぞ"ということで時々話題になり、ガサ入れがあることで、初めて免疫化される。"見える化"しておくことが大事だ」との考えを示した。
ただ、公安調査庁のチェックについて宮台氏は「実際に犯罪を犯しているわけではなく、簡単にガサ入れができるわけではない。警察を使って絶えず監視し、どういうバックグラウンドを持つ人間が新たに入ってきたのか、人的ネットワークを探る。危なければ警察に出てきてもらうことになる」と説明した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)