学生時代までサッカーに明け暮れ、プロになる夢を絶たれた末にフットサルと出会った選手など、Fリーガーのほとんどはサッカー経験者だ。湘南ベルマーレの小門勇太もその一人。彼は、2017年までオーストラリアの2部リーグでプロ選手としてプレーしていた。フットサルと出会ってからまだ2年。だが、ピッチ上ではすでに、圧倒的なオーラを放ちながら、ピヴォとして最前線に君臨している。
フットサルは楽しいし、今さらサッカーには戻れない
今シーズンの初ゴールは第2節のアグレミーナ浜松戦。2-1で勝ち越していた後半、33分にミドルレンジからの強烈なシュートを突き刺して、チームの今シーズン初勝利に貢献した。
2点目、3点目は第3節のペスカドーラ町田戦で決めた。前線の右サイドでキープすると、中に反転して利き足の左足でニアサイドに流し込んで先制点を奪った。同点とされて迎えた後半、今度はカウンターから左サイドを上がると、迫りくる相手ディフェンスの森岡薫の動きを冷静に見ながら、タイミングをずらして、またも左足でファーサイドに鋭いシュートを打ち込んだ。3試合で3得点、ランキング7位タイと結果を残している。
「元競輪選手の父親を持つ選手」として注目されたのは、デビュー間もない昨シーズンだった。ユニフォームのパンツがはち切れそうなほどの太ももや体格の良さはすでに異質だったが、小門はそこからフットサル選手としての能力を高めていった。そして2017年12月、早くも日本代表合宿のメンバーに選ばれた。小門自身、チームや代表で経験を積む中で、大きな手応えをつかんでいる。
「自分に求められていることも増えているし、やることは明確になっている」
小門に求められる役割とは、フィニッシャーだ。世界を舞台に戦えるピヴォ不足が問題視されている日本のフットサルにおいて、違いを生み出せるピヴォであり、しかもレフティーというのは、小門にしかない唯一無二のストロングポイント。自他ともに認めるその強みをさらに生かしていくことが求められている。
ただし、周囲で見る人にとっては、ある邪推をしてしまう。「あれだけのフィジカルと能力があって、フットサルを通してプレーの幅を広げているのだから、サッカーにまた戻ってしまうのではないか」と。
だが小門は、その問いを一蹴する。
「いや(サッカーに戻りたいという思いは)ないですね(笑)。フットサルをやっていてすごく楽しいし、やりがいもある。フットサルの楽しさを知ってしまったら、今さらサッカーには戻れないです」
フットサルが楽しい。小門は、そんな純粋な気持ちでピッチ立って、それこそスポンジが水分を吸収するようなものすごいスピードで進化を遂げている。このままいけば、得点王もあるのではないか。
「いや、そこはもちろん目指さないわけはないですけど、数字よりも大事な場面で決めるとか、チームを救えるような得点を決めたいという気持ちの方が強いです。勝敗を分けるようなゴールを決めたい」
その意味で、町田戦で奪った2点は、大きな意味を持っていた。湘南は昨シーズン3位となってチームのポテシャルの高さを示したが、今シーズンはその強さが偶然ではないことを証明するための1年となる。だからこそ、優勝を狙える力を持つ町田との対戦は、チームの今後を左右する大事な戦い。2-2で引き分けたものの、自分のゴールで“負けなかった”ことは、小門がいう「勝敗を左右する」選手であることも示した。
対峙する相手が恐れおののくような強烈なシュート。誰にも負けないような屈強な肉体。ピッチが小さく見えるくらい大きな存在感を放つ小門はもはや完全に、サッカー選手ではなくフットサル選手だ。
文・本田好伸(SAL編集部)
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