「自分を育ててくれた麻雀に恩返しがしたい。麻雀そのものの価値を拡大したい」。17日、都内ホテルで麻雀のプロリーグ「Mリーグ」の発足会見が開かれ、チェアマンを務めるサイバーエージェントの藤田晋社長が設立意図を説明した。
藤田の"麻雀人生"は、小学校時代に友人の父親にルールを教わったことでスタートする。高校時代は学校をサボって悪友と麻雀三昧。大学時代は厚木の雀荘でアルバイトをし、麻雀が原因で留年した。1998年には麻雀を休止し、サイバーエージェントを起業。そして2014年に復帰。プロ・アマ混合「麻雀最強戦2014」で優勝を飾ると、同じ年にサイバーエージェントは東証一部上場を果たした。
麻雀が仕事に役立つと話す藤田。「麻雀で学んだことを仕事にフィードバックして活かしているし、逆もまた然り。仕事やビジネスは麻雀に似ている。配牌のように、みんな不平等な世界からスタートする。ほとんど全てのことは押し引きで決まるが、麻雀もそうだ。勉強になる局面が次から次へと現れる。この判断は学校では教えてくれない」。
8月に出版する著書のタイトルは『仕事が麻雀で麻雀が仕事』だ。著書の目次には「勝ちすぎは破滅の入り口」「人生は配牌だと思え」「自分のタイミングで勝負しない」といった言葉が並ぶ。「麻雀には性格が出る。学校の勉強ばかりやってきた人は、自分の手ばかり見ている。相手が見えてなかったり、状況を俯瞰して見ていないから弱いし、勝負勘も悪い。そういう経営者の下で働いている社員は本当に不幸だ」。
■麻雀だけでは生計を立てられないプロ雀士たち
「準備が大変だった。賭け事のイメージが非常に強く、スポンサーがリスクを感じて引いてしまう。何とか今日にこぎつけたという感じで清々しい」。
藤田がそこまでしてMリーグを設立しようとしたのには理由がある。「プロ雀士の方と知り合っていくうち、大きなタイトルを取るようなプロでもご飯を食べていけない、夢がない世界だということが分かってきて、何とかしてあげたいという気持ちになった」。
日本プロ麻雀協会所属の千貫陽祐氏によると、タイトル戦の賞金獲得者は上位4名程度で、大規模な大会でも賞金は100万円程度。多くのプロ雀士が雀荘の店員やゲストとして兼業し、生計を立てているという厳しい世界だ。元non-noモデルでプロ雀士の岡田紗佳は「女流の方が食べていける人は多いが、賞金だけで暮らせることはない」と話す。
そこでMリーグでは、既存の5つのプロ団体からメンバーを選び、ドラフトによって名チーム3名を選抜。最低年棒400万円を保障する。また、上位4チームによるクライマックスシリーズで優勝した際の賞金は5000万円に設定した。
「今、国内に2000人のプロがいると言われているが、色々な団体に分かれて所属している。そこで5団体をMリーグの認定プロ団体とし、雀士にMリーグに所属してもらう。初年度は単年度契約なので、高額提示をしたところに移籍することもある。少なくともプロ雀士の方が生活するためのギリギリの年俸は保証し、活躍次第で交渉し、上げていく」。
■麻雀のプロスポーツ競技化、パーセプションチェンジを目指す
革新的なのはそれだけではない。Mリーグはゲーム会社や広告代理店など、7つの企業がチームを所有、選手はそれぞれのユニフォームを着用する。藤田は「今まではスーツを着てネクタイ締めてと、地味な格好でやっていた。Mリーグは"麻雀のスポーツ化"を目指して設立したので、スポーツ選手のようにスポーツウェアを着て打つ、というところが新しい。参加企業も一流企業ばかりで、最高顧問に川淵三郎さんが就いてくれたことも麻雀界にとっては革命的な出来事だ」と胸を張る。
会見で川淵氏が「学生時代から賭け麻雀をやっていた。当時は世の中に賭けないで麻雀をする人がいるとは思っていなかった」と振り返ったように、麻雀につきまとう「賭け麻雀が当たり前」「徹夜で打つ」「タバコの煙」「お酒」といった、いわば"負のイメージ"を払しょくしたいという狙いもある。
藤田によると、プロ雀士の経済環境が改善しない理由もそこにあるという。「賭け事のイメージがあるのでスポンサーがつかない。僕も大好きな『麻雀放浪記』の作品の影響もあるが、"奥さんを質に入れてでも麻雀を打つ"というようなイメージをガラッと変えて、ショーのイメージにしていく必要がある」。
そこで「Mリーグと選手は賭博行為とは一切かかわらず、賭博行為への関係が判明した場合、解雇等の厳重な処分を課す」という"ゼロギャンブル宣言"を強調、イメージ向上や環境整備を図っていく。同時に、2022年の北京冬季オリンピックで麻雀が室内競技として採用されるよう、国際麻雀連盟が申請していることを踏まえ、日本の競技レベルを世界水準に高めることも狙う。
■将来的にはシニアリーグやプロリーグ、地方大会も
「8月7日に全プロ雀士対象のドラフトを行い、AbemaTVでも生中継する。10月1日にシーズンが開幕する。7チームで発足したが、本当はフルで8チーム。どこかが参入を表明すれば、トップリーグからスタートできる。M2リーグという下部リーグで入れ替え戦を戦っていく。将来的にはシニアリーグやプロリーグ、地方大会、という風に麻雀の文化を広めていきたい」。
麻雀には自分が打つだけではなく、見るという楽しみ方もある。
藤田は「麻雀は見ていても面白い。スポーツや格闘技を見るのに近い。Mリーグ機構では代表理事という立場でやっているが、AbemaTVとしても新しいコンテンツに育てたいという気持ちがあるので投資をしている」と話す。岡田も「プロによってそれぞれ趣向が違うので、それを見るのも楽しい。麻雀は運もつきものなので、ドキドキする部分もある」と魅力をアピールした。
10月1日に開幕するMリーグは、プロ麻雀の世界を変えることはできるのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)