昨シーズンに日本人最多となる45ゴールをマークした渡邉知晃。エースストライカーへと登りつめたが、今シーズンはもどかしい気持ちを抱えてプレーをする。世界的な名選手リオネル・メッシをも超える決定率を誇った彼が感じるもどかしさとは――。
ゴールを獲る自信は誰よりもある
今シーズンからアリーナ立川立飛にホームアリーナを移した立川・府中アスレティックFCが、フウガドールすみだとの東京ダービーで移転後初勝利を飾った。フットサルの試合としては珍しく終盤までゴールレスの中、ホームサポーターに歓喜をもたらしたのは渡邉知晃の一撃だった。
ホームでの勝利が欲しい立川・府中は試合終盤にFP内田隼太をGKに置いたパワープレーを開始。皆本晃を底辺に置いた[1-2-2]の形を敷き、渡邉は相手陣内の左サイドの最奥に陣取る。
「晃とは目で合図していましたし、あいつなら出してくれると思っていました」
その言葉通り、残り35秒で皆本から針の穴を通すようなスルーパスが通る。渡邉は左足のダイレクトで蹴り込むとこれが決勝点となった。
渡邉はこれで5試合5ゴール。しかし彼を知る人ならば少々物足りなさを感じるだろう。自身初となる得点王に輝いた昨シーズンは、33試合の出場で歴代の日本人で最多となる45ゴールをマークし、得点率は1.36。単純に比較はできないが、サッカー界を見てみると2011-12シーズンにバルセロナのリオネルメッシが、リーガエスパニョーラでシーズン最多得点を記録した時は37試合50ゴールの得点率1.35。つまり昨シーズンの渡邉は、あのメッシをも上回る日本人だった。
今シーズンのパフォーマンスについて渡邉自身も「1試合1点ペースですが、確かにもう少し取らないと厳しいかなと感じています」と、満足はしていない。しかし、渡邉のゴール数は彼だけの責任ではないことも事実だ。
もともと渡邉は、ロシアワールドカップで大活躍したキリアン・ムバッペのような爆発的なスピードがあるわけではなく、ハリー・ケインのようなずば抜けた決定力があるわけでもない。
AbemaTVで浸透してきた「フラペチーノ・ボレー」といったボレー精度は彼の武器だが、一番はポジショニングのうまさ。ゴールを獲るために最適な場所へと動き、味方からボールをうまく引き出して仕留める。しかし、そういった動きだけではゴールを獲ることは難しく、味方からのパスも重要なファクター。言い換えれば味方に生かされる選手だ。
「昨年はいいセットで戦わせてもらいました。阿吽の呼吸でできるセットだったからこそ、あれだけ僕にボールが集まりました」と渡邉が言うように、昨年は皆本晃、完山徹一、柴田祐輔との素晴らしいコンビネーションからゴールを量産してきた。冒頭の決勝ゴールのシーンも「昨年、一番アシストしてくれた晃からのボール」だった。
しかし今シーズンは、柴田を筆頭に数名の主力選手が退団。代わりに若い選手たちが加入するなど、チームは血の入れ替えを行った。さらにチームは2つのセットのパワーバランスを均等にすることを選択。渡邉は一番の理解者である皆本とは別のセットとなり、内田隼太、マルキーニョ、完山徹一との組み合わせで戦っている。その中で「(昨年とは違うセットの組み合わせの中で)自分へのボールの集まりは昨年と違います」と新たな戦い方に難しさを感じているようだ。
しかし「今シーズンに関しては若手の成長なくして、上位に食い込むことはありません」と、チームの成長のためにこのセットでの戦いを受け入れる。それは昨シーズンの苦い思いがあるから。自身が爆発的なゴール数を記録したにもかかわらず、立川・府中はリーグ戦を6位で終えてプレーオフ出場にわずかに届かなかった。「チームが勝てない悔しさを味わった」からこそ、若手を含めたチームとしての成長がリーグ優勝に向けて大事なことだという。
その目標達成に向けて渡邉は「チャンス数の増加」を課題にあげた。
「チャンスを外しているのであれば僕の問題ですが、今はチャンスの数自体が少ないです。ゴールを獲る自信は誰よりもあるので、正直に言うとパスさえ出てくればというもどかしい気持ちがあります」
若手が成長しチーム力が上がれば、当然チャンスが増えてくる。そうなれば昨年と同等以上にゴールが取れるというのだからなんとも頼もしい。
そんな立川・府中はこのホーム初勝利でリーグ戦2連勝。若い選手が入ったからこそ、勝利という結果が何よりも良い影響を与えてくれる。そんな中、次節はホームのアリーナ立川立飛で今シーズン最初の6クラブ共同開催が行われる。
「今2連勝していている中で4連勝できれば乗っていけます。それだけに大事な2連戦になります」
その大事な2連戦で、渡邉はどういった活躍を見せてくれるのだろうか。“メッシを越える”彼のゴールに期待したい。
文・川嶋正隆(SAL編集部)
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