
「アルムナイ」という言葉をご存知だろうか。「卒業生」「同窓生」を意味し、ビジネスシーンでは「会社を退職したOB・OGの集まり」として認知されつつある。そして今、新たなビジネスチャンスを生む場として企業に注目されている。
とある休日、都内の居酒屋で楽しくお酒を飲み交わす“元社員”たち。参加者は、「元々ベンチャー思考で、30歳というタイミングを機にもう一回組織づくりから学べる所で自分のキャリアをやり直したいと思った」「(新しい会社は)ベンチャーで初めて転職した」とベンチャーに企業に挑戦する人ばかりだ。彼らはなぜ、辞めた会社の同窓会「アルムナイ」にわざわざ顔を出すのか。

近年、国内の転職市場は急拡大。転職を希望する人はここ10年ほどでおよそ2倍となり、以前と比べるとかなり流動的に人材が動いている。
「前職の同僚が仕事をやってくれたり、つながりから色々と仕事になることもある。まさに、以前面倒みてもらっていた上司が発注先の責任者になっている」
「いろんな会社とつながりがあるので、『あの会社いいよ』と紹介して場をつなげることはよくある」

世代の垣根を越えて元社員同士がつながり、新たなビジネスチャンスを作っている。
■卒業生の活躍が“採用力”の向上に
アルムナイは、大手企業の元社員同士でも開催されている。「元物産会」と呼ばれる集まりは、三井物産の元社員たちによるアルムナイ。2011年に発足し、現在その人数は350人以上にのぼる。

「元物産会」発起人のひとり寺田親弘さんは現在、名刺をクラウドで管理するサービス「Sansan」の社長。自身もかつてアルムナイのメンバーで、今でも関係を持ち続けている。
「(三井物産が)初期のユーザーになってくれて、三井物産さんで利用していただいている。立場が変わって三井物産“さん”だったが、それは非常に大きな後押しになったし、そういうきっかけがないと立ち上げ当初はもっと苦しかったと思う」(寺田さん)

今や社員400人を擁する会社の社長を務める寺田さん。今でもアルムナイと関係を持ち続ける理由とは一体何なのか。
「卒業生が活躍しているということは、辞めた人間が活躍しているのではなくて“ここの会社に入った人間はそれだけの実力をつけて社会に羽ばたける”というメッセージになる。優秀な人はそういうメッセージじゃないと引きつけられない時代。採用力をあげるという意味がある」(寺田さん)
■“出戻り社員”が企業を活性化
会社側とアルムナイ(元社員)とをつなぐ、橋渡しのような役割をする企業も登場している。ベンチャー企業・ハッカズークが作ったサービスでは、会社側と元社員がチャット形式で連絡を取り合うことができる。

例えば、会社側が「業務委託の仕事がしたいか」と投げかけると、アルムナイに参加している元社員はそれにチャットで返事をすることができる。このように、退職後も会社側と元社員がつながることで、新たなビジネスチャンスが生まれることが期待されている。
「前職で付き合っていた他の人事や業者にもうちょっと話を聞いてこられると思う」と上司に話すのは、レジェンダでコンサルティング業を行う油原正人さん。油原さんは、実はアルムナイがきっかけで出戻りした社員だ。

「辞めた当初は他の選択肢の方が合理的だと思った。(辞めて)7年の間があるが、その間の経験でやりたいこと、当時やりたかったことに多少能力や経験が追いついてきた。この会社の強みや弱み、どういうことを大事にしているかという価値観も知っているので仕事はやりやすい」(油原さん)
今増えてきているというこのような“出戻り社員”。再び同じ会社に戻るということに対して、上司はどのように思っているのか。
「外を知ってもう一度戻ってくるという人間が増え始めたのは、この1年間。昔うちの仕事をやっていた人間なので、もう一回入って来た時に共通言語がありながらも外の情報がさらに上積みされている。全く新しい方を受け入れるのとはちょっと違う価値があると思う」(油原さんの上司・樋口新さん)

出戻り社員による企業の活性化について、ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏は「面白い。日本では会社は家族のようなイメージがあって、人材教育にも長年をかける終身雇用を前提とする仕組みがあったと思う。一度そこから出るとレールから外れた人、家族を裏切った人のように見られるハードルがあった」と指摘。
一方、企業に求められる寛容さについては、「いろいろな人の退職届を受け取ってきて、やはりぎょっとしたり残念に思ったりする。でも、辞めた後だと上司と部下の関係ではなくなるので、率直な意見を言ってくれて素敵な関係が築けている。広い意味での終身雇用だと思う」と自身の経験から語った。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)



