
17日、「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥディの前澤友作社長が突如、Twitter上でプロ野球球団経営に意欲を示した。
千葉県出身で野球の名門・早稲田実業卒の前澤氏は"地元愛"と"スポーツ愛"が強く、自社の拠点を千葉市幕張に置き、2年前には千葉マリンスタジアムの命名権を年間3億1000万円(10年契約)で取得している。そうしたことから、今回の発言は千葉ロッテマリーンズ買収の伏線ではないかという見方もある。


IT企業のプロ野球参入と言えば、2004年、ライブドア社長だった堀江貴文氏が近鉄バッファローズの買収に名乗りを上げて大きな話題を呼んだ。結局この買収劇は失敗に終わったが、堀江氏は東北で新球団「仙台ライブドアフェニックス」設立を目指した。しかし、三木谷浩史社長率いるネット通販大手の楽天が立ちはだかり、仙台を本拠地とする「東北楽天ゴールデンイーグルス」が誕生する。同年にはソフトバンクが200億円でダイエーホークスを買収、そして2011年にDeNAがTBSホールディングスから横浜ベイスターズ株の大半を譲り受け、IT企業を親会社とする3つ目の球団が誕生している。



なぜIT長者たちは球団経営に乗り出すのだろうか。18日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、元千葉ロッテマリーンズの投手で、福岡ソフトバンクホークス取締役も務めた小林至氏、そして元ライブドア球団GMで、堀江氏の片腕として球団買収の実務を担った小島克典氏に話を聞いた。
■球団を買収した企業は業界トップに、買収された球団は黒字経営に
まず、プロ野球の球団を持つことでIT企業が得られるメリットは何なのだろうか。

東京工業大学の柳瀬博一教授は「そもそも初期のプロ野球は、鉄道や新聞社の販促ツールの一つとして出発した。球団買収を仕掛けたIT企業の経営者たちは、テレビ局を買収しようとした人たちでもある。やはり知名度と巨大なリーチを狙った部分があったのだろう。例えば2006年にボーダフォンを買収して携帯事業も手がけるようになったソフトバンクにとっては、全国的な知名度が必要だった。実際、ホークスを持ったことによって年間400~500億円、福岡エリアに限っても100億円規模の広告効果が得られたと孫正義さんが明かしている」と話す。

小島氏は「プロ野球の試合結果は全国のメディアで報道される。場合によっては途中経過も速報されるし、商品名や企業名が基本的にNGのNHKでもチーム名は報じられる。国民の関心事であるのは間違いないし、その宣伝効果は野球ビジネスに携わる人なら誰しも認識している。昭和29年に制定された特別な税法によって、プロ野球の球団は赤字を親会社の宣伝広告費で補填できることになっているし、月曜日を除いて週6試合行われるプロ野球と、水曜日と週末だけのJリーグと比べても違いは大きい」と説明。

小林氏も「ホークス買収前、ソフトバンクの認知度は10%くらいだった。それが球団を持つとなった翌日には100%になった。また、球団を持った企業は結果的に一流会社になっていっている。オリックスも昔は"知る人ぞ知る会社"だったし、ロッテや日本ハムも、決して業界最大手ではなかったが、それぞれトップになった」と指摘した。

他方、IT企業の参入により、球団経営が効率化し、黒字化していった事実も見逃せない。
小林氏は「Amazonはプライム会員に良いコンテンツをじゃんじゃん見せて呼び込み、その先に並べた商品を買ってもらっている。プロ野球の場合もチケット、グッズだけでなく、移動手段、宿泊、飲食、さらに支払手段としてクレジットカード、口座を持ってもらうことにも繋がっていく。そこはプラットフォーマーであるIT企業と非常に親和性が高い」と指摘。

小島氏も「スポーツの魅力の一つは勝ち負けで、勝てば"よし!また来よう"とリピートに繋がるし、財布の紐も緩んで、グッズの売上も増える。球団側もそこを理解しているので、勝ったら100枚限定Tシャツを販売するなど、工夫をしている。DeNAがベイスターズを買収した時、"スマホの課金ゲームで財を成した会社のチームは応援したくない"と、一部のコアなファンが離れてしまったという話もあったが、ベイスターズは立派に運営され、黒字化にも成功している」と説明した。

柳瀬氏は「日本の野球界の場合、球団経営はボロボロだった。ソフトバンクがホークスを買った時期、パ・リーグの球団は全てが赤字経営だった。しかしIT企業がきちんとした経営を行うことで、次第に黒字経営の球団が増え、野球に興味のない女性や子ども楽しめるよう仕掛けを増やし、ファンを増やしていった。当初はIT企業も広告的な狙いが強かったと思うが、今は各球団ともに地元のお客さんをがっちり掴む本来の興行型に変わっていった」とした。
■球界参入は今も「会員制の超高級クラブに入るようなもの」
前澤氏と10年来の親友だというSYホールディングス会長の杉本宏之氏は、「ウキウキして嬉しそうに少年のように目を輝かせて、キャッキャキャッキャ言いながら野球の話をする。"知っている選手を言ってみてよ"と言ったら、"村田兆治、クロマティ、バースと"。"80年代かい!"みたいな(笑)。5年くらい前から、"次はプロ野球しかないよね"というような話はしていた」と明かす。

小島氏も「ZOZOの取り組みは、ここ1、2年で始まったものではない。何年も前から、"いつかは球団を持とう"という、男の野望みたいなものがあったと思う。すでにスタジアムのネーミングライツ契約をしているが、一度は入札で敗れてもいる。つまり、足かけ10年くらい、野球界やスポーツビジネスへの気持ちを持っている方々だと言える。求められる前に第一声をあげたという点はライブドアと似ているが、大阪近鉄が消滅しパ・リーグが6球団から5球団に減ってしまうというタイミングでいきなり手をあげた我々とは状況が違う」と話す。

小林氏は「日本では"お菓子のロッテ"というイメージが強いが、韓国有数の財閥で、国際的にはコングロマリットだ。加えてパ・リーグでは最も古い親会社でもあるので、プライドもある。そこに新興企業が救世主的に入ってくるという見え方になると、腹に据えかねるところもあるだろう。ただ、過去へのリスペクトを持ってくれば、まったく売らないということではないと思う。また、"ドンの一声"みたいなものはもう無いが、今でも球界は保守的なところ。王会長、長嶋さんが作ってきた歴史と伝統を受け継いでいくんだという意識が非常に強い。ある意味、会員制の超高級クラブに入るようなものなので、マナーをどう心得ているかもポイント。キーになる球団にしっかり認めてもらう必要がある」と説明。

その上で、前澤氏が突然Tweetしたことについて「本当に球団が欲しいなら、あのように世論を喚起するやり方は あまりうまいやり方ではない。一般的な企業買収でもマナーがあるように、当事者、キーマンと水面下で話を進めるもの。本来、こうした情報が漏れてくるのは最終段階に入っている場合や、話が潰れてしまった場合だろう」とした。
そんな前澤氏はTwitterで「#ZOZO球団に一言」と、ユーザーに球団運営のアイデアを呼びかけており、「ZOZO Suitで測ったユニフォームだったら面白い」「選手に仮想通貨を投げ銭できるようにしてほしい」など、IT企業らしい意見も多数寄せられている。

現時点で買収か新球団設立かは「シーズン終了後に向けて具体的な計画作りをはじめる」としている前澤氏。果たして次の一手はー。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)







