「“スペインの至宝”イニエスタがヴィッセル神戸へ!」
「超イケメンの“神の子”フェルナンド・トーレスがサガン鳥栖へ!」
この夏、フットボールファン大興奮の大型移籍が日本中をざわつかせている。
彼らに共通するのは、ビッグネームというのはもちろんのことだが、そもそも、移籍してくるとは誰も予想していなかったということ。だからこそ、そのインパクトは想像以上のものとなった。
規模は違うが、Fリーグの名古屋オーシャンズでプレーする星翔太もそうだ。
星翔太は己の限界を超えられるか
「星翔太選手、退団のお知らせ」
2018年2月21日、バルドラール浦安のHPに掲載されたリリースが、フットサル界を騒がせた。
浦安のキャプテンであり、チームの技術・戦術面でもリーダーとして引っ張る絶対的な存在だった。地域リーグ時代のFUGA MEGURO(現フウガドールすみだ)で日本一となって、鳴り物入りでFリーグに加入してから、浦安とともにあった。レベルアップのために2年間のスペイン挑戦も経験したが、やはり浦安に戻ってきた。自他ともに認める日本のトップ選手が浦安を去るとは誰も考えなかった。
「だからですよ」
星はいう。誰も退団すると思わなかったからこそ、星のもとに他チームからオファーが届くことはなかった。だからこそ、「一度クラブをやめないことには、進めない」と、退団を決意したのだ。
では星はなぜ、移籍を望んだのか。浦安で築いた地位は確固たるものであり、自分の居場所に不満があるとは思えない。32歳になり、その場所に留まるという選択は、何もおかしなものではないだろう。
だが――。
星の中に「自分自身をさらに磨きたい」という、抑えられない欲求が芽生えていた。今年2月、日本代表として戦ったAFCアジア選手権で、「自分はまだ足りない、もっと上手くなれる」と感じた。ただそのためには、今の場所に留まっていては成長できない。だから星は、移籍先が決まっていないまま浦安を去った。
結果から考えれば、名古屋以上に星が満足できる環境は国内にはない。彼自身、海外移籍も視野に入れていたが、Fリーグで唯一の完全プロクラブからのオファーは願ってもないものだった。
「名古屋は選手としてフットサルに集中できる環境で、スタッフも含めプロフェッショナルな人がそろっている。一人の選手として、より上を目指していく中では、改めてもっともいい環境だと感じました」
もうピークだろう。いや、まだピークじゃない。星は誰もが認める選手でありながら、年齢を踏まえた彼への評価は分かれる。だが、星自身は雑音に振り回されることなく、新しい環境で愚直に己を磨き出した。
「最初はきつかったですね。外国人選手も日本人も質の高い選手が多くて、強度の高さには驚きました」
それでも、加入から1カ月ほどして慣れてくると、星は変化を見せはじめた。浦安時代は、ゴールに近い位置でプレーして得点につなげる本来のピヴォのプレースタイルだけではなく、サイドでチャンスを広げるアラや、守備で強さを出し、バランスを見ながら攻撃の起点にもなるフィクソなど、すべてのポジションでプレーして、チームが円滑に戦えることを優先した。
しかし今は、ピヴォに専念して、再びゴールに近い位置でプレーできるようになった。クラブからは「シーズンで30ゴールに絡む」というタスクを課せられたという。決して簡単な数字ではないが、今の星を見ていれば、それが難しい数字ではないことも、容易に想像できるだろう。
「あと1カ月くらいすれば体にも変化が出てくると思う。そうすればもっといいプレーができる」
ピークは周囲が決めるものでなければ、自分自身で決めつけるものでもない。確約された地位を捨てて挑む新天地で、星は己の限界を超えていけるのか――。