FリーグU-23選抜に選ばれるなど将来の日本代表候補として期待されていた阿部恭也。しかし2015年に突如として現役を引退しサラリーマンに。その中で彼の中でぬぐい切れなかったフットサルへの思い。苦労の末に掴んだFリーグへの再挑戦で、彼はどんな思いを持ってピッチに立っているのだろうか――。
Fリーグに戻る気はなかった
4月9日にエスポラーダ北海道が2018/2019シーズンの新加入選手を発表した。7名のフレッシュな選手に加えて、1人だけ懐かしい名前がそこにはあった。阿部恭也。2014/2015シーズンを最後に現役を引退した25歳が再びFリーグの舞台に戻ってきたのだ。
函館出身の阿部は2011年に、旭川実業高等学校サッカー部からエスポラーダ北海道に入団。北海学園大学に通いながらプレーヤーとして文武両道を実践していた。ゲームメイク力に秀でており、FリーグU-23選抜でもプレーするなど将来有望な若手として活躍していた。
日本代表候補とまでいわれた彼だったが、大学卒業という人生のターニングポイントの中で導き出した答えは“現役引退”だった。
「フットサルを続けたい気持ちはありました。ただ、フットサル業界のセカンドキャリアや注目度、将来を考えると別の道もあるのではないかと考え、社会人としての道を選びました」
Fリーグの舞台に「戻る気はない」と、新たな道での活躍を誓った阿部は、旅行代理店に入社。団体の営業などを行い、修学旅行の添乗員として飛び回っていた。
順風満々な日々だったが、どこかでフットサルへの思いを断ち切れないでいたことも事実。AbemaTVでFリーグの試合を見るたびに「僕ならこうする、僕が(ピッチに)立っていたらどうだったんだろう」という思いが強くなり、自分の中でFリーグへの思いは「正直に消えていない」と感じていたようだ。
また、U-23選抜でともに汗を流した齋藤巧一(名古屋オーシャンズ)や内村俊太(湘南ベルマーレ)らは日本代表としても活躍。加藤未渚実やかつてのチームメートである堀米将太(ともにシュライカー大阪)もFリーグの舞台で評価を高めている。さらに中学生の頃から一緒にプレーしていた三浦拓が湘南ベルマーレから北海道に加入。同じく中学時代をともにした田辺陸もバサジィ大分から復帰し、そういった仲間たちともう一度Fリーグの舞台に戻りたいとの思いが強くなった。
そこからはチームやスポンサーの協力の下、阿部はFリーグ復帰を掴む。勤めていた旅行代理店を退職し、スポンサーから就職のサポートをしてもらい、北海道に再入団することとなった。
「チームのスポンサーや監督には本当に迷惑をかけて、戻る環境を作ってもらいました。一度辞めた身としては、仕事と並行してしっかりやらなければいけないなと強く感じています」
心機一転、Fリーグに戻ってきた阿部だが、やはり3年のブランクは大きいようだ。小野寺隆彦監督も「フィジカル部分はまだまだ」と不満を口に。しかし「(2ndセットで用いている)クアトロの戦術を非常に理解していて、バランスを整えてくれる」とバランサーとしての対応力を評価した。実際に阿部は、4人の連動した動きが必要となるクアトロの戦術の中で、ほかの3人の動きに合わせるのがうまい。ほかの選手が攻め込んでいる場合は相手のカウンターに備えたポジショニングを取るなど危機管理能力が高い。かと思えば3人目の動き、4人目の動きとしてスペースに顔を出して攻撃に厚みを加える。まさに“チームの頭脳”として攻守をオーガナイズしているのだ。
そんな阿部は、ピッチ外でもバランサーとしての力を発揮しているようだ。今季の北海道は上述したように8名の新加入のうち阿部を除くほとんどの選手が“フットサル1年生”。フットサル独特の動きなど難しさがある中で「監督やコーチが若手に伝えたいことのパイプ役でもあると思っています」と語る。
「ガツガツと周りにいうことはないですが、メッセージのあるパスやトラップから学んで欲しいです。これまでは僕がインプットしてばかりだったので、チームとしてアウトプットしなければいけない年代だと感じています」
ここまで下馬評を覆して6位に位置する北海道にとって、そういった若い選手たちの成長なくして、さらなる上位進出はない。その中で、ピッチ内外でバランサーとして活躍する阿部の復帰は、チームにとって最高の補強といえる。阿部自身のパフォーマンスも上がってくれば……。今後の北海道はおもしろい存在になる。
文・川嶋正隆(SAL編集部)
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