■日経報道の衝撃
18日の日本経済新聞に「中国、サイバー選挙介入か」という衝撃の見出しが躍った。
記事では、中国がサイバー攻撃技術の開発に乗り出したという疑惑が浮上、すでに先月29日のカンボジア総選挙では"予行演習"も実施済みだと伝えている。それによると、アメリカに住むカンボジアの野党関係者のもとに届いた不審なメールを調査したところ、発信元は中国のサイバー戦部隊が拠点を置く海南島で、メールを開くとウィルスに感染、機密情報が抜き取られることが判明したというのだ。海南島のサーバーからは選挙管理委員会や野党関係者などへのアクセス履歴も確認された。また、1月のカンボジアの下院選では、攻撃ソフトの一部に中国語が使われ、中国のキーボードの使用も確認されたという。こうした動きが選挙に与えた影響は不明だが、結果は中国と友好的なフン・セン首相が率いる与党「人民党」が圧勝、全議席を獲得するという極端なものになっており、アメリカ、EUなどが公正な選挙ではなかったとする声明を発表している。
さらに同紙は、中国共産党と距離を置く蔡英文氏が総統を務める台湾の地方選挙への介入、さらには来年のインドネシア大統領選挙、フィリピン中間選挙への介入を懸念する声があることも報じている。
■数千人のハッカー抱える部隊も
そんな中国が手本にしているのが、ロシアの手法だ。不正に得た機密情報をもとにSNSなどを使って敵対勢力を中傷する情報や偽情報を流して有権者の心理を操作、選挙結果に影響を及ぼすのだという。トランプ大統領が勝利した2016年のアメリカ大統領選挙でも、大量の偽ニュースを流すなどして、世論操作を試みたという疑いが持たれている。
トランプ大統領も18日、「ロシアの介入だけに目を奪われている愚か者たちは別の方向、中国にも目を向けるべきだ」とツイート。翌日にはボルトン大統領補佐官が「ロシアと同様に中国、イラン、北朝鮮の介入についても十分な懸念がある」とABCの番組で発言。秋の中間選挙にロシアや中国が介入することを懸念しているとみられている。
株式会社ラックが作成した防衛基盤整備協会提供の資料によると、中国軍にはサイバー攻撃に関する組織として、数千人のハッカーを抱え直接的なサイバー攻撃を行う「61398部隊」、防衛・宇宙・通信分野を中心にメール攻撃を仕掛ける「61486部隊」そして海南島を拠点にしたサイバー戦の専用部隊「陸水信号部隊」の3つが存在しており、2007年以降、欧米諸国に対するサイバー攻撃を行っているのだという。2013年5月には、ニューヨークタイムズが中国のサイバー部隊が115のアメリカ企業や組織を攻撃したと報じている。
■「中国のサイバー攻撃は事実だろう」
中国政治に詳しい、『週刊現代』の近藤大介編集次長は「ホワイトハウスでオバマ大統領と習近平国家主席が会談した際、サイバー攻撃をやめるよう促したところ、大ゲンカになったという。海南島には海軍の軍事基地もあり、サイバー攻撃の拠点となっているので、可能性は大いにある。ただ習近平体制になり、人民解放軍が外国人と接触すると逮捕される法律ができているし、完全に裏を取るのは難しい」と話す。
『アゴラ』編集長の新田哲史氏は「陸水信号部隊については2010年にアメリカの研究機関が報告書を出していて、1100人規模でアメリカや台湾の軍事施設を標的に活動していると言われている。カンボジアの問題も発信元が海南島ということなので、仮に同じ部隊がやっていたとすると、2010年当時よりも技術的に拡充している可能性がある」と話す。」
慶応大学SFC研究所上席所員の部谷直亮氏は「アメリカの諜報機関などが発信源を調べた結果、中国から来ていることが分かった。中国の利益になるような情報を持っていっており、それが実際に活用されていることから見ると、サイバー攻撃を仕掛けているのは事実だろう。ただ、気をつけないといけないのは、中国政府だけではなく、"ネット右翼"のような、愛国的な集団が勝手にやっている場合もあるし、それらを軍が連携している場合もある」とした。
■沖縄世論を反米に誘導も?
アメリカのセキュリティ企業がホームページ上で公開している、サイバー攻撃をリアルタイムで可視化した地図を見ると、今も世界のあちこちで攻撃が行われている事がわかる。部谷氏は「もちろん遠隔操作によって第三国を経由して攻撃している可能性もあるが、まさにリアルタイムの新しい戦争が起きている」と話す。今や選挙結果へも影響を与えるサイバー攻撃を、日本は対岸の火事として眺めているだけで大丈夫なのだろうか。陸上自衛隊が九州・沖縄を防衛する西部方面隊に、サイバー攻撃対策本部を新設するという報道もある。
新田氏は間もなく行われる沖縄県知事選や自民党総裁選への攻撃を懸念していると話す。「今回の日経新聞の記事では、介入の対象に日本は入っていなかった。ただ、これは遠慮して書かなかったのではないか。沖縄県知事選でも可能性は十分あり得ると思う。外洋に出ていくのが長期的な国家目標である中国からすれば、米軍基地反対運動が盛り上がり、翁長知事の後継勢力に県政を担ってもらった方がいい」。
部谷氏も「県知事選挙で勝てなくても、沖縄のナショナリズムを煽って反本土・反米的にし、本土と分断させようという思惑もあると思う」と指摘した。
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