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 「この女性だ、と。雰囲気が明るくて、笑顔が可愛い方で」。

 "自分は幸せ"、そう信じていた頃に思いを馳せる都内在住の会社員、山本雄介さん(仮名、42)。「デート商法」でマンションを購入させられたとして、現在係争中だ。21日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、婚活サイトを利用する中高年を中心に被害が増えているという「デート商法」を取材した。

■定型文ばかりだった返信に変化が

 ことの始まりは2012年。婚活サイトで自分のプロフィールを閲覧してくれたA子さんにメールを送ったことだった。27歳、「人情に厚く、出会いが少ない」というA子さんの自己紹介に惹かれた。「人情に厚い方って素敵ですよね。自分のことだけでなく、他の人のことでも感動できることってとても大切だと思います」。2日後、A子さんから「返事が遅くなってごめんなさい!また連絡もらえますか?」という内容の返信があった。

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 「車を購入したので夜のドライブにハマっています」

 「こんばんは!返信ありがとうございます!初めてのメールなので少し緊張します。山本さんは年の差は気にしませんか?私は落ち着いて話せる年上の人がいいので気になりません。返信待っています!」

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 当時36歳、結婚相手を探していた山本さんの猛アピールに、当初は定型文ばかりだったA子さんの返信に変化が見られ始めた。

 「お返事いただけてとても嬉しいです。年の差に関しては、自分自身の年齢が気になってきているので、A子さんのように気にならないと言っていただけると安心します」

 「今からご飯作ります。今日は、てんぷら蕎麦!ではでは」

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 やり取りをするようになって2週間後、2人は都内の喫茶店で初めて顔を合わせた。このときのことを、山本さんは「フォーマルなワンピースで来られていたので、しっかりされた方なのかなという印象だった」と振り返る。

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 東京タワーに出かけ、食事を楽しむなど、2人で過ごすうちに山本さんのA子さんに対する思いは募っていった。「階段でちょっと手を支えるくらいはあったけど、ずっと握りっぱなしとかはない。今後もこの人ともうちょっと親密になれたらという気持ちだった」。2人の付き合いは、あくまでもプラトニックなものだった。

■物件を見ず、言われるがまま契約書にサイン

 5度目のデートで、A子さんは自身の仕事が不動産関係であることを明かした。7回目に会った時、A子さんはパンフレットを作り、マンション投資のメリットを説明してくれたという、「『不動産投資のそういう(解説)本とかあるから、もし良かったら貸してあげるよ』という感じで(本を)借りた」。そして物件を見ず、言われるがまま契約書にサインした。

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 「もう相手を信頼する状態で、"じゃあ任せるよ"みたいな感じで。これが落ち着いてから告白しようというのがあったので…」。

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 契約したのは、足立区にある2700万円のマンションだった。28平米の1K、設備は標準並みで最寄駅から徒歩8分。支払いは月々約10万円の35年ローンだ。

 するとそれ以後、A子さんの態度が急変する。「毎日やり取りしていたのが、2日おきとか3日おきとかになってきたので、"あれ?ひょっとしてこれはマズかったかな"という不安が出てきた。調べていくと、やっぱりちょっとマズいかもと」。

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 A子さんの名前を検索したところ、山本さん同様に恋愛感情を抱き、マンションを買わされたという"被害者の会"の掲示板を見つけた。意を決し消費者問題を専門にする弁護団に相談すると、同時期に被害を訴え出た男性が12人もいることがわかった。山本さんたちはA子さんらを相手取り、集団訴訟をすることを決意する。被告はマンション販売会社、A子さんが所属する売買仲介業者、そして融資元の銀行だ。マンション販売という目的を隠して近づき、恋愛感情を利用して高額な商品を売りつけた行為が消費者契約法違反に当たるとし、合計2億円の損害賠償請求訴訟を起こした。

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 2014年12月、原告側弁護人の平澤慎一弁護士は会見を開き「同じ勧誘会社、同じ系列ではないかと思われる勧誘会社、同じ勧誘者。それから売主も同じ会社が出てくる。それと複数関わる銀行が出てくる実態が分かった」と説明した。

■A子さん側「三十歳を過ぎた大の大人が…」

 消費者契約法は、不当な勧誘による契約を取り消せることなどを定めた法律だ。しかし恋愛感情は目に見えないものであるため、違法性を立証するのは困難だという。山本さんの訴訟相手3者のうち、販売会社は和解に応じてるものの、裁判は係争中。原告は増え、被害者は合計26人に膨れ上がった。平澤弁護士によると、被告側は「被害者側が勘違いしているだけ「勧誘した側は恋愛感情を持つような関係にはなっていない」と主張、訴訟でもここが争点になっているのだという。

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 今回、番組ではA子さんにも話を聞いた。担当弁護士からの回答書には、A子さんのコメントとして「三十歳を過ぎた大の大人が恋愛感情とは関係なく御自身の判断で投資用マンションを購入されたものと認識しています。もし投資を始めたことを後悔していたとしても、私のせいで投資用マンションを購入させられたという趣旨のご主張には戸惑いを禁じ得ません。」と書かれていた。

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 A子さん側の弁護士も「肉体的な接触も無く、数回食事を共にした程度のA子との恋愛・結婚を強く意識して、A子との関係の維持発展のために投資用マンションを購入するなどということは、明らかに経験則に反するものであると思料します」としている。

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 山本さんは現在、購入したマンションで賃貸経営を行っているが、家賃収入は月7万5000円で赤字。不動産物件を鑑定するファンハウス代表の國井義博氏は「購入額の2700万円は明らかに高い。2000万円くらいではないか。いくら新築とはいっても。35年で金利3%の支払いであれば、総支払額は5000万円くらいになる。投資としては失敗してしまっている」と指摘した。

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 おカネよりも大事なものを傷つけられたと感じている山本さん。「後悔しかないが、相手の方が明らかに上手だったんだなと。自暴自棄だ。やる気も起きないし、人と関わるのも怖いし。もし結婚とかになったとしてもできない。もう多分、無理だ」と心情を吐露した。山本さんたちによる第1次集団訴訟は今年6月に結審し、12月に東京地裁で判決が言い渡される予定だ。

■デート商法の"4段方式"とは

 山本さんのような被害相談の件数は、全国で年間400件に上っているという。消費者問題に詳しい大高友一弁護士は「少ないという印象を持たれる方もいるかもしれないが、これは実際に相談に行った方が少ないからだ。山本さんも勇気を出して訴えたが、普通は好きになった人に騙されたことを恥ずかしく思ってしまう。おそらく今の件数は氷山の一角で、この10倍程度の被害があるかもしれない」と話す。

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 大高弁護士によると、デート商法には「カモを見つける」「チャットやデートで恋心を湧き立たせつつ年収を把握」「なるべく消費者自らの意思で購入させる」「クーリングオフ期間の8日を見送ったらトンズラ」という、"4段方式"と呼ばれるメソッドがあるという。「うまく意気投合するように持ち込んで関係を作ってから、弱みにつけ込み、クロージングに持っていく。肝は"付き合えるかもしれない"または"付き合っている"と感じさせ、"この人のためだったら契約してもいいかな"と思わせるころ。マニュアルも用意されていて、決まった手口をあちこちで使っている。まともな会社はやらないが、非常に儲かるので、悪質な業者がいる」。

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 山本さんが食いついてしまった最初のやりとりについて、恋愛学の専門家だという早稲田大学の森川友義教授は「"投網漁法"といって、何十通、何百通と同じ文面のメールを撒く。その中から引っかかりそうな人を手繰り寄せる。そして素っ気ないメールで自分に興味があるかどうかを探り、食いついたと感じると内容のあるメールを返す。これは婚活サイトにおけるテクニックの一つだ」と指摘した。

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 被害の増加を受け、今年、消費者契約法は改正された。就職や容姿などについて不安を煽ることや、恋愛感情を悪用したデート商法を不当な勧誘と定め、社会生活上の経験が乏しく互いに恋愛感情を抱いていると信じてしまった場合には契約を取り消せると定義された。しかし、今回の改正に懐疑的な意見もある。平澤弁護士は「"社会生活上の経験が乏しいこと"という言葉はいらない。解釈を広めに取らないと、デート商法の被害の回復ができなくなると思う」との考えを示した。

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 大高弁護士は「"買ってくれなければ関係が破綻するかもしれない"ということを匂わせ売りつける、ということが要件になっている。デート商法と言われるも行為の中でも悪質で典型的なものを取り締まろうとしている。恋愛関係に乏しい人ばかりがひっかかるわけではなくて、みんながつけ込まれる可能性がある。こういう商法があると広く知ってもらうことが重要だ。おかしいと思ったら消費生活センターに相談するなど、アクションを起こしてもらいたい」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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