「#MeToo運動」の主導者ともいわれるイタリア人女性のアーシア・アルジェントさん（42）について、年下の男性俳優への性的暴行で訴えられた過去があると米メディアが報じた。
性的被害について勇気を持って声を上げ、世界に広まるMeToo運動のきっかけを作った人物の疑惑が、ムーブメントに冷水を浴びせかねない事態を引き起こしている。22日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、そんなMeToo運動の現状について考えた。
■本人は「事実無根の報道」
「1997年、21歳の時に私はハーヴェイ・ワインスタインさんにパーティの名目で呼び出され性的な関係を強要された。その時は女優として潰されることが怖くて言い出すことができなかった」。去年10月、アルジェントさんはハリウッドの大物プロデューサーだったワインスタインさんからの性的暴行を告発した。
ワインスタインさんはその後、複数の女性に対する性的暴行などの罪で訴追され、アルジェントさんは今年のカンヌ映画祭で「ハーヴェイ・ワインスタインが再びここで歓迎を受けることは永遠にないだろう」とスピーチ、その様子は大きく報じられた。
20日付のニューヨーク・タイムズによると、アルジェントさんはワインスタインさんを告発した直後の昨年11月、男性俳優のジミー・ベネットさんに「カリフォルニア州のホテルでアルジェントさんに性的暴行を加えられ、トラウマになった」と訴えられたという。２人は2004年の映画『サラ、いつわりの祈り』で初共演、その９年後、アルジェントさんは当時17歳だったベネットさんにホテルで無理やり酒を飲ませ、ベッドに押し倒して性交渉を強要したという。結局、両者は約4200万円の和解金の支払いで合意、今年４月からは支払いも始まっているとしている。
この報道に対しアルジェントさんは21日、代理人を通じて「事実無根の報道にショックを受けている。性的関係はない」と声明を発表、ベネットさんとは長らく友人関係にあるだけで、誤りだと反論。和解金に関しても、困窮していたベネットさんが法外な金銭を突然要求してきたため、自身の元恋人で人気シェフだったアンソニー・ボーディンさんが２人の関係に悪評が広がることを懸念し、支払いに応じたと説明している。
■MeToo運動を巡る報道の問題点とは
今回の報道を受けての社会の反応について、スタジオでは様々な意見が出された。
まず、宮澤エマは「絶対的な立場の人の下で働いていた人が、仕事がもらえなくなるかもしれないという中で告発に踏み切ったことで、声を上げることができるんだということ、それによって抑止になるということが運動の目的だったはず。映画や演劇以外のところで、職場などでのセクシャル・ハラスメントや性的暴行問題 について話せる環境、きちんと罰せられる環境づくりに発展していった。現時点で事実関係ははっきりしないが、男性が声を上げていたという自体は運動がうまく行っているということの表れなのではないか」と話した。
パックンも宮澤の意見に同意、「ワインスタインさんの弁護士は、アルジェントさんについて"偽善者だ、矛盾している"という内容のコメントを発表したが、運動の創始者とされるタラナ・バークは"被害者も完璧ではないし、アルジェントに関する報道が事実だったとしても、それがMeToo運動の証明にもなる"と言っている。やはり運動の失速につながってしまうのはもったいない」とした。
一方、REINAは「アメリカでは、運動のリーダーがこんなことになってしまったことで、偽善者だった、ブレーキがかかるんではないかと言われている。しかし、アルジェントやアリッサ・ミラノやローズ・マッゴーワンなどがリーダーとされているのは、そもそもメディアが持ち上げたから。それなのに、何か問題が起こると批判して落とす。そのプロセスこそ問題があるし、Metoo運動に抱いてきた違和感でもある。本来、この運動は全ての人のためにあるものだ」と指摘した。
慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は「マスメディアや視聴者は、個別の問題点より、全体のストーリーを期待する。運動のきっかけになった人が問題になってしまうと、物語全体への裏切りだと感じて、勝手に盛り上がったり、勝手に失望したりする」とコメントした。
■「女性中心の運動」「推定有罪」MeToo運動が内包する問題点とは
MeToo運動は、著名コメディアンのビル・コスビー被告に下った有罪判決や、映画界の巨匠ロマン・ポランスキー監督の映画芸術科学アカデミーの会員資格剥奪と追放、米企業の幹部や従業員193人の解雇・辞職とインテルのブライアン・クルザニッチCEO（当時）の辞任など、世界に大きな影響を与えた。議論は、そんなMeToo運動そのものが持つ課題に及んだ。
REINAは「もしアルジェントとベネットの性別が逆だったとしたら、事実かどうかに関係なく、今以上に大きな問題になっていたと思う」と指摘する。
「私も21歳のときに、今振り返れば性的暴行だなという体験をした。ただ、当時も５年後も、全くそうだとは気が付かなかったし、誰に相談すればいいのかもわからなかった。MeToo運動によって企業の人事ポリシーが変わるなどのインパクトはあったが、どんどん歪んでいっているようにも感じる。たとえばアヴィタル・ロネルというニューヨーク大学の女性教員が大学院生に告発され、有罪になった。しかしこれに対しフェミニストの活動家たちが攻撃した。女性も加害者になる、ということが受け入れられないなど、運動が女性中心の、違った方向に進んでしまっているのではないか。また、ジェームズ・ガンという男性プロデューサーが、性的な冗談を交えた10年前のTweetが原因でプロジェクトから外されるということが起きた。被害者・加害者が誰で、それを誰が告発したのか、そして誰が検証するのかということすらもわからなくなってしまっていて、もはや"指を指されたらクビ"という怖い社会になりつつある。この状況でアルジェントの問題が事実だったとなれば、強い揺り戻しが起き、女性たちの状況はむしろ今よりも酷い状況になってしまうのではないか」。
パックンも「それが今のMeToo運動の弱点だと思う。息苦しい世の中になりつつあるのは間違いない。男性の言い分は聞いてもらえず、女性の証言だけが信用され、"推定有罪"になっているケースもあるかもしれない。運動によって世の中が少しずつ良い方向に進んでいるのも確かだが、行き過ぎもあるし、揺り戻しもあると思う」と話した。
若新は「罪の軽重は一旦横に置いて考えれば、殺人の罪でも３回裁判が受けられる権利がある。被害者はたとえ身内を殺されたとしても、犯人を殴りに行くことは許されない。そして、罪を犯しても反省し、復活の機会が与えられる。それが法治国家だ。それに対し、今のMeToo運動は反省や共存より、排除の流れに行き過ぎた感がある。被害者がいきなりブログに書いて、それによって加害者とされる人が仕事を失うこともある。それにスカッとした人もいると思うが、誰もが罪を犯す可能性もある時に、反省・復活するシステムが必要だ。それが運動=ムーブメントの弱点でもあると思う。つまり、事実の精査などもないまま、空気感や世論で決まって行ってしまうこと。MeToo運動の目的に本当に社会に根付かせるのなら、必ず何らかの形で制度化する必要がある。そうなれば、言い出しっぺの人がどうであろうが、関係なくなる。それをしないまま、ムーブメントに頼り続ければ、同じようなことは繰り返される」と指摘した。
これまで1500人以上の性犯罪の加害者と加害者と関わってきた精神保健福祉士で社会福祉士の斉藤章佳氏は「私たち自身が当事者意識を持つこと。女性も男性も加害者性を認識することが本質的に重要だ。加害者に対するメディアでのバッシングを見ていると、再発防止という観点が足りない。痴漢にしてもその他の性暴力にしても被害者の９割は泣き寝入り。性被害を言葉にするのには恐怖心がある。それを社会の中で払拭し、しっかり受け止められるようなシステムを作らなければいけない」とコメントしていた。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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