前評判が高かった湘南ベルマーレだが、ここまでは苦戦を強いられている。そんなチームと同様に開幕からプレッシャーを感じてプレーしてきたキャプテンの刈込真人。悩み、苦しんだ先に見つけ出した答えとは――。
重責の中で苦しむ湘南のマジシャン
昨シーズンのFリーグで大いに注目を浴びたのは、湘南ベルマーレだろう。毎シーズン下位に低迷していたチームが、リーグ戦で3位に入りクラブ史上初のプレーオフに進出。そのプレーオフでは、駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場を埋め尽くしたサポーターが応援する中で、準決勝まで勝ち進んだ。そこでペスカドーラ町田に敗れたが、彼らの戦いはベルマーレサポーターだけでなく、多くの人たちの心に残った。
そして迎えた今シーズン、リーグ優勝に与えられる「AFCフットサルクラブ選手権」への出場権獲得を目指してスタート。飛躍のシーズンに期待がかかる――。ところが、開幕戦のバルドラール戦で痛恨の敗戦を喫すると、その後も波に乗れず。第7節を終えた時点で2勝2分け3敗と黒星が先行した。
チームが苦しむ中、それ以上に大きな苦しみを味わってきた選手がいる。今シーズンからキャプテンを任された刈込真人だ。“湘南のマジシャン”の異名を持つ刈込は、クールプレーヤー。ゲームキャプテンを長く務めてきたが、叱咤激励でチームを引っ張るのではなく、冷静沈着にプレーして結果を残し、時折見せるスーパープレーで観客の心をつかんできた。
そんな彼が、今シーズンからチームのキャプテンとして新たな重責を背負うこととなった。しかしキャプテンは「小、中、高で一度もやったことがない」。未知の経験であり「わからないことに対するプレッシャー」が大きいようだ。さらに、上記にもあるようにチームは大きな期待を受けて今シーズンの開幕を迎えたが結果を出せず「去年以上の結果を残すプレッシャー」、「結果が出せないプレッシャー」を感じて日々を過ごしていた。
多くのプレッシャーを感じながらプレーしていた刈込。第8節の立川・府中アスレティックFC戦の試合中に、これまで堪えてきた感情がついに爆発してしまった。
「普段は抑えて蓋をするタイプですが、あの時は感情が出てしまいました」と反省を口にしながらも、「個人的には、あそこで毒素を出せたというか、自分の中のターニングポイントになりました」と明かす。また、チームとしても「一気に危機感を持って立川・府中戦に臨みました。あの試合で、チームとしても何か変わったように感じます」と手応えを感じる。
その言葉通り、チームは翌第9節のフウガドールすみだ戦で躍動感あふれるプレーを見せて5-3で勝利し、今季初の連勝を手にした。刈込も3-2と1点差に詰め寄られた27分に「矢澤(大夢)選手の弱点をビデオで見ていてイメージ通り」の美しいループシュートでネットを揺らした。ゴール後、サポーター席に向かってガッツポーズを見せ、そこには吹っ切れた表情の笑顔があった。
この2試合を通してチームは上昇気流に乗ることができたように思う。それと同時に刈込自身にも大きな心境の変化があった。
「これまでは個人的にもチーム内にも、おごりのようなものがあったのかなと。緩みからほころびができてくるので、そこは上の選手たちが言っていかないといけません。練習から厳しく、僕も言わなければいけないですし、言ったからには自分でもやらなければいけません」
これまでのようにプレーで引っ張るだけではなく、キャプテンとして「言うべきことは言う」。苦しみ抜いた末に導かれた答えだ。
そんな刈込が目指すキャプテン像は、長くサッカー日本代表のキャプテンを務めてきたMF長谷部誠。クレバーなプレースタイルという部分では、刈込に似ている面もある。しかし長谷部は、9年間も日本代表のキャプテンを務めてきた。彼を目標とするのであれば、おとなしいままでは物足りない。そういう意味でも、今回の心境の変化は刈込の成長にとって大きなターニングポイントになるだろう。
徐々に手応えが強まりつつある中、次節は2年前のチャンピオンであるシュライカー大阪とのアウェーゲーム。「勝ち続けている中で、次の大阪戦で負けるともったいない。この雰囲気を続けて、大阪戦でも見せられるように」と刈込は指摘する。
「でも、これからの湘南ベルマーレを期待して見てもらいたいです」
湘南と、刈込の逆襲はこれから始まる。
文・川嶋正隆(SAL編集部)
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