優勝候補と考えられていたペスカドーラ町田が苦境に立たされている。オフシーズンに手術を行ったピレス・イゴールが復帰を果たすも、本来のパフォーマンスとは程遠く。首位の名古屋オーシャンズとは勝ち点11差と大きく引き離された中で、逆転優勝に向けて大事なこととは――。
辛い時に支えてくれる仲間の存在
初のリーグ制覇に向けてストーブリーグで大型補強を敢行したペスカドーラ町田だが、ここまでは苦戦を強いられている。長年の課題だった得点力不足を補うために、ブラジルで数々のタイトルを獲得してきたアウグスト、シュライカー大阪のエースとして活躍し208試合235ゴールという脅威的な数字を残してきたクレパウジ・ヴィニシウスを獲得。しかし10試合を終えて総得点は25ゴールとまだまだ攻撃力は物足りない。
しかしその一方で、一番深刻なのが守備の部分。町田は2014/2015シーズンに最少失点でリーグ戦を戦い終えると、その後も2シーズンを通してリーグ2位の失点数と守備力に定評がある。しかし今シーズンは10試合を終えて33失点は下から6番目。確かにまだ10試合を終えたばかりだが、非常に深刻な数字だ。
失点数増加の1つの要因として、やはりピレス・イゴールのパフォーマンスにある。今オフに、慢性的に痛めていた指の腱の手術を実施。リハビリを経て第5節のFリーグ選抜戦で途中出場を果たした。迎えた第6節の名古屋戦、第7節のヴォスクオーレ仙台戦では先発出場となるが、本来のパフォーマンスとは程遠い内容だった。
特に名古屋との大事な一戦。3-1と2点リードで迎えた19分にピレス・イゴールらしからぬミスが出てしまう。自身のクリアランスに対して室田祐希が処理を誤りボールはゴール方向へ。ピレス・イゴールはボールの処理を迷い、そのままゴールラインを割らせてしまった。
「あのプレーの前に名古屋がバックパスの判定を受けていました。(だからボールに触らずに)外に出てくれと思っていました。でもこっちに転がってきて、次はポストに当たってくれと。でも入ってしまいました」
この場面、本来は何の迷いもなくボールを蹴り出すことが正しい選択のように思う。実際にピレス・イゴールも「安全なプレーはクリア。たとえバックパスになったとしてもクリアです。普段なら迷うことなく蹴り出しますが、あの場面は少し考えてしまって(反応が)遅くなりました」と言う。
さらに「僕は経験がある選手。試合感がなかったとしても絶対にやってはいけないミスです」と肩を落とした。
ピレス・イゴールは、翌日の仙台戦でも2つの失点に大きく影響するミスを犯した。開始早々の37秒、右サイドからゴール前に侵入してきた堀内迪弥に出された斜めのボールに対して、ピレス・イゴールはスライディングを敢行。しかし少しプレーを躊躇した影響からかボールをうまく蹴り出せず、逆にボールは堀内の下へとこぼれて無人のゴールに決められる。
また2-1と逆転して迎えた14分には右サイドに抜け出した荒牧太郎に対して、今度は素早く寄せたが簡単にかわされてしまい、これまた無人のゴールに流し込まれた。試合は7-4で勝利しているものの、優勝を目指していくチームの戦いとは思えない内容だったことは事実だ。
しかしピレス・イゴールに同情の余地はある。約3カ月もプレーをしていなかった状態で、100%のパフォーマンスを出すのは難しい。実際に仙台戦の前半終了間際には堀内の決定的なシュートを肩口で弾き出すなど、チームのピンチを救った場面もあった。そして何よりも、試合感の欠如は試合でしか取り返せない。となれば、ピレス・イゴールの完全復帰まで、チームとして彼を支えていかなければいけないだろう。
ピレス・イゴールは6クラブ共同開催の2連戦を終えた後、自身のツイッターを更新。「特に35歳を過ぎた選手は一度は思ったことがあると思いますが、『なんであんなミスをしてしまったんだろう。。。』『もう引退したほうがいいのかも。。』とネガティブな方向に考えてしてしまい、プレーにも影響することだってあります。」と本音を吐露。
しかし、「そんな中、『戻って来たばっかりなんだから、これから頑張ろう』『イゴールがいつも助けてくれてたんだから今度は僕たちが助けてあげないと』と言ってくれるチーム。。。言葉では表せない嬉しさ、そして感謝の気持ちだけです。辛い時に支えてくれるペスカドーラ町田の人に囲まれてなんて幸せなんだろう」とチームメートの言葉に感謝している。
フットサルはチームスポーツ。たとえ1人の選手のパフォーマンスが悪くても、残りの選手がそれをカバーすることができる。余談ではあるが、筆者は幼い頃からずっと剣道に励んできた。剣道に限らず武道には団体戦があるが、実際の試合は常に相手との一対一のみ。自分の精進が足りなければ相手に敗れる。常に孤独との戦いだ。だからこそフットサルのようなチームスポーツは武道にない美しさを感じる。1つのボールをみんなが繋いでゴールを奪い、みんなで守って失点を防ぐ。当たり前のことだが、それは個人競技にはない美しさだ。
『イゴールがいつも助けてくれてたんだから今度は僕たちが助けてあげないと』
この発言が誰のものかはわからない。しかしチームとしてこの考えを持っていれば、苦境から立ち直れるはず。10試合を終えて首位の名古屋とは勝ち点11差。今シーズンの名古屋が歴代最強といっても過言ではない中、とても、とても大きな差だが、決して追いつけない差ではないはず。初優勝はドラマティックなほどいいものだ。
文・川嶋正隆(SAL編集部)
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