【インタビュー】32年続く『Mステ』 あのバブリーダンス高校を見つけたテレビ朝日・増田哲英ディレクター「30歳までAD。負け組だった」
“バブリーダンス”で注目を浴びた、大阪・登美丘高校。今年も『全国高等学校ダンス部選手権』が行われ、昨年に引き続き大阪府立登美丘高校が優勝。大会初の2連覇に輝いた。
そんな中、テレビ朝日で放送中の『ミュージックステーション』(毎週金曜・よる8時)はいち早く“高校ダンス部”に注目し、高校ダンス部が人気アーティストの楽曲をパフォーマンスする企画「高校ダンス部×J-POP」を番組内で行うなど、実践的な取り組みを行っている。
さらに、今年9月17日(月・祝)にスペシャル放送される『ミュージックステーション ウルトラFES 2018』では「名曲だらけの踊る10時間生放送!」がコンセプトに。2015年から4年連続で放送され、4回目となる同スペシャルは、嵐、E-girls、三浦大知、星野源、欅坂46ら、豪華アーティストによるダンサブルなステージに期待が集まる。また、番組初のダンスオーディション企画「Mステへの階段 ウルトラオーディション」の優勝者1組も出演予定だ。
2018年の音楽シーンを語るには欠かせないものになっている「ダンス」。今回は『ミュージックステーション』のディレクションをつとめるテレビ朝日・増田哲英ディレクターを直撃。32年続く同番組が視聴者の心をつかみ続けている秘訣や、自身を「負け組」と語る増田ディレクターの番組作りの根底にある思いを語ってもらった。
大学院卒業後テレビ業界へ 30歳までADで「負け組だった」
――まず、増田さんがテレビ朝日に入社された経緯をお聞きできればと思います。就職先として、テレビ業界を選んだ理由は?
増田:学生時代に演劇をやっていたんです。大学は早稲田の理工学部で、ミュージカル研究会という学生劇団に入っていました。当時から、脚本や演出をやりたいと思っていたんですが、どちらかというと役者をやる機会が多く、歌を歌ったり踊ったりしていました。それで、大学院まで進んで、勉強と舞台作りの二足のわらじでやっていたんですが、就職するときになって、「どっちが一生自分にとって楽しいか」と考えたとき、断トツでエンターテイメント作りだったので、そっちで飯を食っていこうと決めて就職活動をして入社しました。
――入社されてからは、どのようなお仕事をされてきたのですか?
増田:入社してからいくつかの番組でADをして、その後はくりぃむしちゅーさんの「シルシルミシル」のディレクターや、「志村&所の戦うお正月」の総合演出を5年ほどやらせてもらいました。あと、ひょんなことから千葉雄大さん主演の『Mr.マックスマン』という特撮ヒーロー映画のシリーズを計3本も監督させてもらったりしました。現在は『ミュージックステーション』と『関ジャム 完全燃SHOW』のディレクターを担当しています。
僕は大学受験で浪人して大学院まで行ったので、3年遅れの25歳でこの業界に入り、そこから5年くらいADをやったので、30歳でまだADだったんです。当時、自分の中ですごい負け組感がありましたね(笑)。
「踊る10時間」コンセプトのヒントは登美丘高校ダンス部から
(▲Mステ“出演権”をかけたダンスオーディション企画「Mステへの階段」)
――今年の『ミュージックステーション ウルトラFES 2018』について教えてください。
増田:今年のテーマは「踊る10時間」で、ダンスナンバーをアーティストの方にたくさん歌って踊っていただくんですが、『グレイテスト・ショーマン』でレティを演じたキアラ・セトルさんと登美丘高校ダンス部さんの共演や、最強振付メドレー、さらに様々な“ミュージカル”がMステのステージでパフォーマンスされたりと、ダンス・スペシャルだからこその企画がいろいろとあり、出演者もトップレベルのアーティストがそろっています。
――番組初の試みであるダンスのオーディション(『ウルトラオーディション』)は、どんなことになりそうですか?
増田:三浦大知さんやE-girlsさんの曲を踊った動画を送ってきてもらって、投票と審査をしているんですが、単独のダンサーもいれば大人数のチームもいて。同じ曲を使っていても構成や振り付けもまったく違うんですよ。同じ曲であっても多種多様のダンスが見られてとても楽しいです。
ダンサー10組が最終審査に選ばれていて、最終審査の模様はAbemaTVで9日よる6時から放送されます。視聴者も参加できる投票機能を使うので、ぜひグランプリ決定の瞬間を見逃さないでいただけたら。
▼【バラステ】Mステ出演者がダンスバトルで決定! 『Mステへの階段 ウルトラオーディション』
9月9日(日) 18:00 ~ 20:00
豪華アーティストと共演できる“出演権”をかけたダンスオーディション企画「Mステへの階段」。グランプリは“生放送”で決定! 果たして栄冠は、どのチームに!?
(※見逃し防止は番組表から「通知を受け取る」がオススメです)
――そもそも「踊る10時間」というコンセプトに決まったのは、どういった経緯だったのでしょうか? 何かヒントがあったのでしょうか?
増田:昨年ブレイクした登美丘高校ダンス部さんの影響がかなり大きいですね。実は、あのバブリーダンスが世に出る前から、僕たちは彼女たちを取材していたんです。昨年の6月にダンスのスペシャルをやったときに、登美丘高校のダンス部さんにE-girlsさんの『Follow Me』を踊ってもらったんですが、めちゃくちゃそろっていて「すげえな、これ」と思っていたら、その後、彼女たちがDCC全国大会(全国高等学校ダンス部選手権)で優勝して、バブリーダンスの動画がネットにアップされてものすごい話題になった。
そんな中、レギュラー回で「ダンススペシャル」と銘打って三浦大知さんとMIYAVIさんのコラボなどと共に、荻野目洋子さんと登美丘高校ダンス部のコラボを放送したんです。さらに同じO.A.のVTR企画で「今高校生ダンス部が踊っているJ-POPランキング」を放送したところ、総合的な視聴率が良く、その後続いた強豪の高校ダンス部を紹介するコーナーも好評でした。そんなこんなで「今年の『ウルトラFES』は“踊る”でいこう!」と決まった感じです。
あと実は、取材で高校のダンス部をいろいろめぐっていた中に、僕の母校・三重高校があったんです。取材したら、まあダンスで青春を謳歌しているわけですよ。そのときは「自分の高校時代は何だったんだろう?」と、本当に自分が情けなくなりましたね(笑)。高校時代を全て受験勉強に費やし、結果浪人して、暗い高校、予備校時代を送った自分としては、キラキラした後輩たちを見て心が洗われました(笑)。
――『Mステ』はInstagramやTwitterなどの発信にも力を入れていますよね。
増田:『Mステ』は若い世代に見てもらう番組という認識があるので、SNSでの発信、拡散というのも狙っています。現在『Mステ』のTwitterはフォロワーが100万人以上いるのですが、テレビ番組のアカウントとしては、フォロワーの多さにおいて日本でナンバーワンだと思っています。番組の見どころを投稿したり、オンエアのあとにオフショットを投稿したり、何かあるたびに活用しています。
MトピⓂ️!
— music station (@Mst_com) August 17, 2018
ガリットチュウ福島さんが弘中アナに大変身?❤️
みなさん!ダブル弘中の写真はこちらです!
まだまだMステは続きます!お楽しみに!#Mステ #ガリットチュウ福島 #弘中綾香 pic.twitter.com/t8tdP29So4
――『Mステ』は32年目になる長寿番組ですが、これだけ長く続いているのは、現在のSNS発信のように、常にターゲット世代に訴える企画を考えているからなのでしょうか?
増田:今の『Mステ』がターゲットとしているのは、10代くらいの子たちとその親世代なんです。出演するアーティストも若い世代だけでなく、最近だと徳永英明さんなど、親世代の心もつかむような、あえて出演アーティストに年齢差をつけています。他にも80年代の曲を10代の子に聴いてもらってランキングをつけてもらうなど、親も子供もどちらも会話しながら楽しめるような企画を大切にしています。
『麗しのコメンテーターに論破されたい』で「変態ディレクター」に?
(▲ 討論M男バラエティ『麗しのコメンテーターに論破されたい』は9月9日(日)よる9時からAbemaGOLDチャンネルで再放送)
――地上波の番組とネットの関係についてもお聞きしたいと思います。増田さんの企画で6月にテレビ朝日とAbemaTVで『麗しのコメンテーターに論破されたい』(※)が放送されましたが、あの番組はかなり攻めた内容でした。
増田:あの番組は地上波でも深夜で、さらにAbemaTVでもやるということで、地上波ゴールデンとは違う新しいものを作りたくて。「怒られてもいいから、ふざけよう」みたいな気持ちでやらせてもらいました。
やってみて思ったのは、みなさん本当にプロだなということ。コメンテーターの一人の山口真由さんのゆっくり話を聞いて全部吸収した上で、「あなたはすべて間違っている」と突きつける論法はすごいなって。受け手の芸人さんたちも軽く性癖的なものをうまく絡ませて楽しみ、しかも複雑な感じで表現してくれた。それを2倍面白くする山里さんの実況力もあって、すごいモノが生まれた。山里さんが収録中「オペラを見ているようだった」とおっしゃったんですが、まさに芸術作品のような凄みがありましたね。
※『麗しのコメンテーターに論破されたい』・・・「インテリな女性陣を思いっきり言い負かしてみたい!」「でも、よってたかってケチョンケチョンに論破されてみたい!」という男性の夢を叶えるべく実現した討論番組。ニューヨーク州弁護士の山口真由、デイトレーダーの若林史江、キャスターの望月理恵らに、岩尾望(フットボールアワー)、永野ら芸人が戦いを挑み、MCは山里亮太(南海キャンディーズ)が担当。
――あの番組の企画は、どういう形で生まれたのでしょうか?
増田:いわゆる地上波の討論番組に「何を足し算できるか」というところで浮かんだのが「言い負かされる快感」でした。僕の中にもそういうのがあるなとどこかで思って(笑)。企画書にしてみたらなぜかすんなり通っちゃったんですね。
もう一つ真面目な企画も考えて同時に出したんですが、こっちが通ったので「そんなことあるんだ」と思いましたし、一緒に考えた作家さんも「え、あっちが通ったんですか?」と驚いていました。
でも、実際思いきりやって、オンエア後には映画『モテキ』や『バクマン。』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』などで知られる大根仁監督がTwitterで絶賛してくださって、すごくうれしかったです。
山里さんも自身のラジオ番組の冒頭で10分くらい僕のことを「変態ディレクターが打ち合わせのときから変態感を出しまくりで……」みたいに語ってくれました(笑)。
――あの番組は、ネットとの連動があったことでより攻めの姿勢で作ることができたところがあったのでしょうか?
増田:もちろんそうですね。テレビって世の中で一番受け身のメディアだと思うんです。リモコンのスイッチを押すだけで画とナレーションとテロップで分かりやすく内容を教えてくれる。それだけに、外で吹く風みたいに誰にでも触れてしまう。その分作り手側が節度を持って遠慮してしまうところもあるんですが、能動的に選択して視聴するネット番組などでは、その自主規制を少し緩めて、攻めることができ、それがネットの良さだと思います。しかし、ただ攻めればいいというものでもなく、ネット番組にはネット番組なりの視聴者の傾向があり『刺さるものと刺さらないもの』があると思います。普段地上波の番組を作っている我々にとっては、そこの感覚を掴むのが命題ですね。
必要なのは“熱量”と「負け組イズム」? 『情熱大陸』をヒントに「嫉妬にまみれたナレーションをつけたら……」
――地上波のTV番組は、やはりたくさんチェックされているんですか?
増田:テレビ朝日や他の局の番組もできるだけ見るようにしていていますね。そういうところで足し算をして企画を思いつくこともあります。以前『嫉妬に身を焦がすBAR』という、芸人さんたちが世の中の勝ち組の人に嫉妬する番組を作ったことがあるんですが、これは『情熱大陸』(TBS系)がヒントになったんです。勝ち組の人を紹介するドキュメントに「でけえ土地もってやがるな、畜生」みたいな嫉妬にまみれたナレーションを付けていったら面白いんじゃないかと。
僕はディレクターになるのも遅くて、特に代表番組もなかっただけに、「負け組感」が強かったんですよ。でも逆に完全敗北することをあえて楽しむ番組を作りたいと思って『嫉妬に身を焦がすBAR』が生まれ、さらにそれに近い発想で『麗しのコメンテーターに論破されたい』も生まれました。「劣等感を快感に」というのが僕の中のテーマですね。
――最後に『Mステ』を含めて、今後どんな番組作りをしていきたいかなど、抱負を教えてください。
増田:『Mステ』は32年続く伝統のある番組です。アーティストの方たちはプロの技術があって、素晴らしいパフォーマンスを披露していただいています。そしてそこに高校ダンス部の子たちが持つような、がむしゃらな「熱量」をうまく融合できたら、と思っています。
テレビ作りでも、必要なのは“熱量”だと僕は思っているんです。熱量を持つことで人の目線が集まり、エンターテイメントになる。今、テレビ離れや「新しい企画が生まれない」というのがよく言われていますが、制約がある中でどう面白いものを生み出せるかがプロの仕事だと強く思います。自分の中にはまだ色々とアイデアがあるし、熱量もある。逆にその範囲が狭いほど「やってやろう」と意欲が湧いてきますね。
今はネット番組にも間口があり、攻めた企画が受け入れられる時代にもなってきていると思うので、バンバン企画を出して、新しいことをやっていきたいです。
――今回は貴重なお話をありがとうございました。今後も増田さんの攻めた企画が楽しみです。
(テキスト:田下愛)
(写真:野原誠治)