フットボールの神様に愛され、世界中のフットボールファンを魅了してきた男、ジネディーヌ・ジダン。彼は現役時代も、指導者になってからも多くの注目を集めてきた。そしてこれからも――。
偉大なカリスマの次なるステージは?
ジダンは2001-02シーズン、レアル・マドリードの選手としてビッグイヤー(UEFAチャンピオンズリーグ優勝チームに授与されるトロフィーの愛称)を掲げた。そして2006年に現役を引退した10年後、2015-16シーズン途中に古巣の監督に就任すると、その年のCL制覇を皮切りにして、2016-17シーズン、2017-18シーズンと3年連続でレアルを欧州の頂点の座へと導いた。
CLとは欧州のクラブにとって何より重要なタイトルであり、“欧州最強”の称号を手にした選手や監督、そしてクラブは、そのシーズンの象徴のような扱いを受ける。だからこの3年間は、レアルの、いや“ジダンのシーズン”だった。そんなタイミングでの辞任のニュースは、衝撃的なものとして伝えられた。
CL3連覇からわずか5日後、ジダンは2年半に渡って指揮したクラブを電撃辞任したのだ。
2001年当時、ジダンをユヴェントスからレアルに引き抜いたフロレンティーノ・ペレス会長が、2009年に会長職に復帰すると、ジダンをクラブのアンバサダーに招き入れた。そのペレス会長からすれば、誰よりも信頼するジダンの続投を望んでいたに違いない。だからこそ、彼の辞任に際してこんな言葉を残した。
「できるならずっと私のそばにいてほしいと思っていて説得をしたかったが、彼の意思を尊重したい。私たちにできることは、彼が何かを決断したときに、それを受け入れて理解することだけだ」
今もなお、レアルの“枕詞”として使われる「ロス・ガラクティコス(銀河系軍団)」の名は、ペレス会長と選手時代のジダンが築き上げたものだった。こうして、銀河系軍団の“第2章”は、幕を閉じた。
ジダンを取り巻く話題は「次はどこに行くのか」と続く。世間では今、こんな去就話が持ち上がっている。プレミアリーグのビッグクラブ、マンチェスター・ユナイテッドの監督に就任するのではないか――。
8月に開幕した新シーズン、ジョゼ・モウリーニョ監督が率いるマンチェスター・Uは、ここまで4試合で2勝2敗と低空飛行。第2節は2シーズン前にプレミアリーグに昇格したばかりのブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンに2-3、第3節はトテナム・ホットスパーに0-3と連敗を喫したことで、モウリーニョの解任説がささやかれるようになり、それと同時にジダンの新任説が浮上している。
強豪クラブであればあるほど、結果が出なくて即座に解任されるというのはよくある話。その意味でジダンの新監督就任は現実的であるという一方で、そこからチームが復調して続投するというのもまた、よくある話。正直なところ、監督の進退問題というのは非常に未知数なものだといえる。
予想サイトの『SUPERCHOICE』では、「ジダンは今年中にマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任する?」というテーマが設定されているが、「就任する」が2.38倍、「就任しない」が1.60倍というように(9月10日12時現在)、フットボールファンはこの話題にも冷静だ。どちらかといえば、就任しない確率の方が高いだろう。
ただし、マンチェスター・Uのファンとしては、ぜひ実現してほしいと熱望しているかもしれない。
プレミアリーグで最多13回の優勝を誇るマンシェスター・Uは、アレックス・ファーガソンが勇退した2012-13シーズンから5年間も、優勝はおろか、リーグのトップ3に入ったのは昨シーズンの1度だけ(それも、優勝したマンチェスター・シティに大差をつけられての準優勝)。CLにいたっては、2007-08シーズンから10年もの間、栄冠を手にしていない。
プレミアリーグの前身時代から数えて、リーグ制覇20回を誇るファーガソンは、27年という超長期政権を築いた。だからこそクラブは、名将の幻影を追うように、この6年で4人も監督が交代してきた。モウリーニョは確かに優れた指揮官だが、人心掌握に長けたファーガソンのように人情味があるタイプではない。
その意味で、選手からもファンからも愛されるジダンは、マンチェスター・Uの監督として適任という見方ができる。モウリーニョがレアルの監督時代、ジダンは彼の下でヘッドコーチとしてサポートした過去もある。マンチェスター・Uの24代目の監督に就任すれば、再び栄光の時代を築けるかもしれない。
ジダンは本当に稀有な存在だ。選手としてワールドカップもCLも制覇して、監督としてもタイトルに恵まれた。トップチームの指導歴がないまま、レアル・マドリードという世界屈指のビッグクラブの監督に抜擢され、世間の懐疑的な声をものともせずに、この3年間でフットボールファンをまたも魅了してみせた。
「勝ち続けるイメージが持てないとき、望んだものがイメージできないときは、変化をすることが必要だ」
そう言って、レアルを去ったジダン。この偉大なカリスマが次に表舞台に現れるのは、果たして――。
文・本田好伸(SAL編集部)
写真・アフロ
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