アスリートは何のために戦うのか――。

 自分のため。家族のため。仲間のため。子どもたちのため。地域のため。理由は様々あるだろう。ただ一つ明確なのは、アスリートは、戦っているからこそアスリートだということだ。

 9月6日3時7分、北海道胆振地方中東部を震源とする大規模な地震が発生した。最大震度は北海道で初めてとなる7を観測して、数十名の死者と700名弱の負傷者、民家や建物の全壊や半壊、各地で土砂崩れや液状化現象が発生し、道内全域が停電するなど被害は広範囲におよんだ。

 その2日後、8日12時15分、大阪に遠征して来たエスポラーダ北海道は、Fリーグ第12節のキックオフを迎えていた。選手はもちろん、全員が被災者である。それでも彼らは、ピッチに立っていた。

「魂を込めて戦おう」と誓った

「(チームの拠点がある札幌周辺では)震度4~5という、今まで体験したことのない揺れを感じて、こちらに来られるかどうか、先行きがどうなるかわからないような状況でした。(中略)ここに来る選手14名の、個人の意思ももちろんですが、ご家族やいろいろな方の理解があって大阪に乗り込んで来ることができました」

 0-1で敗れた試合後、小野寺隆彦監督は記者会見でそう話した。「意地でも勝ちたかった」と続けながら、「どうしてあそこで勝てなかったのかとか、どうしてもっと意地を見せられなかったのかと。すみません……」と、堪えきれずに涙を流した。どんなときも誠実で真摯な振る舞いを見せる監督の涙からは、思いの強さと不甲斐なさ、悔しさがダイレクトに伝わってきた。と同時に、こうも思った。

 自分たちが辛いときに、選手は、チームはどうして戦えるのか、と。

 今回の試合は、全12チームが一堂に会して、3日間で各2節を戦う共同開催だったが、そもそも開催地の大阪も、4日に発生した台風の影響から、未曾有の被害をこうむっていた。各地のインフラが混乱をきたし、関西国際空港は運行停止となり、シュライカー大阪のスタッフの中には、試合当日まで停電と断水状態だったという人もいた。「試合をしている場合じゃないのではないか」と考えてもおかしくはなかった。

 しかし――。

 北海道の高山剛寛はこう話した。

「確かに、試合どころじゃないと考える人もいると思う。でも、僕はここに来て、フットサルができてよかった。フットサルしかできないですし、本当に少しかもしれないですけど、道民に力を与える方法は、フットサルをする姿勢、戦う姿を見せることしかないのかなと。今回も(J SPORTSやAbemaTVの生中継で)放送してくれているので、道民がどれだけ見られているかわからないですけど、少しでも力になれたら」

 北海道は今回、エースの水上玄太や、主軸の鈴木裕太郎など、数名が試合に来られなかった。家族を優先するという判断があったという。孤立化するほど被害の大きかった苫小牧で勤務する母親と、まだ連絡がついていないという選手もいた。そんな中で彼らは「魂を込めて戦おう」と誓いピッチに立った。

 思い起こされるのは、2011年に起きた東日本大震災だ。あの当時、フットサルのトップ選手たちは、東京で開かれていた全日本フットサル選手権の真っただ中だった。大会は被災直後の準々決勝の途中から中止となったが、岩手を拠点とするステラミーゴいわて花巻は、身動きが取れずに会場で一夜を過ごした。

 その後のフットサルは、スポーツは、日本全体は「がんばろう東北」を合言葉に、それぞれができることを考えて行動に移していった。特にスポーツは確かに、被災地に元気や勇気を届ける大きな役割を担った。

 改めて思うのは、アスリートには、アスリートにしかできない役割があるということだ。北海道は大阪で戦った2試合で連敗。奪った得点はわずかに1。その翌週、北海道に戻り旭川で戦ったホームゲームも1-2で敗れ、強い決意とは裏腹に、3連敗を喫してしまった。ただ、そこには確かに意味はあった。

「メンバー14人の平均は22.6歳という若さの中で、北海道の看板を背負うことの意味を伝えて、スポーツは見る人たちに勇気と元気を与えるものだという自覚を持って戦ってくれました」

 小野寺監督は連敗後にそう話した。試合直後には、選手の肩を抱き、手を握る姿もあった。若い選手にとっては特に、人生でなかなか味わうことのできない時間を過ごした経験が今後の糧となるだろう。

 関西国際空港は21日、台風から2週間を経てようやく全面再開にいたった。北海道はいまだに600人以上の避難者が出ているが、インフラは復旧が進み、以前の日常を徐々に取り戻しつつある。ただしそれは、ニュースで知り得る情報でしかない。当事者の辛さや苦労、思いは、当事者にしかわからないこともある。

 だからこそ、選手は戦い続けないといけないのだろう。もちろん、これはアスリートに限ったものではなく、みんながみんな、それぞれにできることをしないといけない。しかし、人々にダイレクトに力を与えられるアスリートは、その意味を理解してピッチに立つことが、何よりの存在価値かもしれない。

 北海道の選手たちは今も、何かを背負って、戦い続けている。

文・本田好伸(SAL編集部)

(C)AbemaTV

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