ともにNHK朝ドラヒロインを務めた土屋太鳳、芳根京子がダブル主演する映画『累-かさね-』が9月7日より公開された。顔に大きな傷があり容姿に劣等感を抱いているが、天才的な演技力を持つ“累(かさね)”と、恵まれた美しい容姿を持つが女優として花開かない“ニナ”。美貌と才能というお互いの欲望が一致した二人は、キスした相手の顔を奪うことができるという口紅を使って顔を入れ替える決意をする。
土屋は“ニナ”、芳根は“累”役だが、キスした瞬間、顔だけが入れ替わった相手を演じることになるため、一人が二役で、二人で一役を務めることになり高い演技力が求められている。さらに、欲望、嫉妬心をむき出しにした二人のバトルシーンも見どころだ。土屋と芳根に、撮影でのエピソードや、相手に奪いたいぐらい羨ましい部分はあるのか、また、SNSについて話を聞いた。
■バチバチシーンの後は、ハグして「ごめん!」
――ダブル主演で、お二人ともダークヒロインを熱演されていてすごい迫力でした。お二人は「花子とアン」で共演されていますが、絡みのある共演は今回が初めてですね。今作での共演がわかったときの感想、お互いの印象について聞かせてください。
芳根京子(以下、芳根):「はじめまして」ではなかったのですが、ちゃんとお話させていただくのも今回がはじめてでした。だから、こういう二人で戦っていく役というのがわかった時は、すごくうれしかったです。実際に共演すると、太鳳ちゃんはイメージのままで、小柄だけどすごくパワーがある方。今回も劇中のあのダンスができるのってやっぱり太鳳ちゃんだけだなってすごく思いました。エネルギーを放つ太鳳ちゃんがものすごくかっこよくて、ほんとにご一緒できてよかったなと思っています。
土屋太鳳(以下、土屋):いや~…(喜びをかみしめて)、今日はよく寝れそう! きょんちゃん(=芳根)は、私が拝見したお芝居の役柄は結構おとなしかったり、はかなげな感じだったのですけど、実際にお会いすると、エネルギッシュ。なんていうんだろう…パワーがある、爆発力のある方だなっていう風に思いました。お芝居で、例えば笑い声でも、私が予想していなかったところから感情がポーンと飛んでくるという感じで、こうくると思っていたら、あ、こっちだ!というように。パワフルで、私もとても元気をもらいました。
――共演といっても、二人は利用しあい、対立する役柄。バトルシーンが多くて、土屋さんは細いヒールで芳根さんの背中を踏みつけたりと、激しい絡みが多かったです。実際の撮影中の雰囲気はいかがでしたか?
土屋:雰囲気は、ものすごく悪かったです(笑)。
芳根:もう、バッチバチでした(笑)。
土屋:(笑)…と、いうことは全然なかったよね。このような難しい関係を演じると、距離ができるということもあると思うんですけど、今回は一人二役、二人一役。私は、今回は、きょんちゃんが理論型の人であろうが憑依型の人であろうが、ちゃんとコミュニケ―ションを取りたいと思っていたので、強いシーンほど、カットの声がかかった瞬間に「ごめんね!」って言ってきょんちゃんをハグしたり。きょんちゃんからも「全然大丈夫」ってハグしてもらったりしていました。
そのぐらいしないと、演技でも人って傷つくんですよね。ちゃんと「きょんちゃんは、“累”じゃないよ」という風に役から戻して、太鳳もきょんちゃんに戻してもらいました。そうしていたからこそ、演技についても「こうしたほうがいいかな、累だったらどうやる?」という風にちゃんと会話ができたのかなと思います。
――コミュニケーションをしっかりとって、お二人で乗り越えたのですね。それぞれ演じられた役は、口紅をつけた瞬間に同じ熱量のまま相手役とスイッチする、背中あわせのような演技が必要だったかと思います。実際に、演じられる際にはどういった工夫をされていたのでしょうか?
芳根:言葉でのコミュニケーションもしていましたが、お互いに“感じとっている”という印象のほうが強かった気がします。相手を見て、どういう風に演じるのか見て、このまま太鳳ちゃんから“ニナ”を受け取ろう。私もこのまま“累”をうまく渡せたら、というように。お互いの役の受け渡しです。
今回の役が、なかなか言葉にあらわせないような複雑な感情がたくさん詰まっていたので、それをお互い、心と心で受け取りあった印象がすごくありました。
■相手から奪いたいところは、「輪郭」「ダンス力」
――これまで、さわやかで明るい役が多かったお二人ですが、今回は今までのイメージを裏切るようなドロドロとした欲望や嫉妬心、劣等感や優越感をもった役柄でした。役とご自身との共通点はありましたか?
土屋:共感したのは、累の「自分じゃない誰かになれたら幸せだろうな」っていう感情。あと、ニナの「結局は自分が自分であることが大切」と思った部分にすごく共感しました。
芳根:コンプレックスや、自分に足りないところって、誰もが感じたことがある感情だと思います。累の場合は顔の傷だったり、ニナの場合は演技、というものが作品ではありましたが、その思いについて、視野を広げて考えた時にものすごく共感できました。こういう顔、スタイル、能力がほしいって思うのはすごく人間らしい感情。二人とも、純粋な女の子なんだなと思いました。
――作品は、口紅で相手の顔を奪うことができるということですが、お互いに、相手のここを自分のものにしたい、良いなと思う部分はありますか?それはどこでしょうか?
土屋:きょんちゃんの顔のすっきりとした輪郭が好きです。でも、私がもらっちゃうと申し訳ないので、素敵だなといつも思うだけにしています。きょんちゃんは、そのままでいてほしいです。
芳根:太鳳ちゃんのダンスは、やっぱり太鳳ちゃんにしかできないと思います。でも、太鳳ちゃんのダンス力を私がいただいても、太鳳ちゃんの身体の造りだからかっこいいというのがあると思うので、全部くださいとは言わないから、そのダンス力をちょっと分けてほしいです(笑)。
土屋:一緒に踊ろう。
■嫉妬、羨ましい気持ちには努力するしかない
――今作では相手から欲しいものを奪う、という行動に出ていました。お二人とも、嫉妬心を持つことも、そもそも少ないのではとは思うのですが、相手にコンプレックスや嫉妬心を抱いた時は、どう対処されていますか?
土屋:いえ、(嫉妬心を持つことは)全然あります。でも、こういうお仕事させていただいていて、自分が闘っている、必死になっている姿を見てもらえる立場にいるのはすごくありがたいことだと思っています。
私は仕事で苦しいとかしんどいということがあったとしても、役で苦しいということを伝えるときは、自分がもっと苦しまないと届かないと思うし、その頑張りを見てもらえる職業につけたということは、恵まれていると思っています。人に言えないようなコンプレックスや、こうなったらいいのにという細かいことはたくさんあるけど、それはしっかり自分の中で闘っていくべきだと思っています。
――芳根さんはいかがでしょう?
芳根:私は、羨ましいと思うような何かがあったとしても、その何かがない自分が、自分だと思っています。あとは、自分の努力。それこそ、太鳳ちゃんのダンス力がほしいと言ったけれど、それは私がやってこなかったから。身につけようと思うのなら、本当にほしくて、この人のここいいなと思うのなら、そこは私の頑張り。今からでも何でも、努力をして、そうすればできることだと思うんです。
でも、それを持っていない自分も責めるってことは絶対にしません。それは個性だと思うから。いちいち比較して、くらっていたら、自分じゃなくなっちゃう気がして。だから私は、吸収したいと思うことは全力で努力していこうと思っています。
――映画『累-かさね-』の完成披露試写会、イベントも終えましたが、観客からの感想、反響はいかがでしょうか?
土屋:「すごい、なんとも言えない気持ちになった」とか「泣きました」「考えさせられた」とかいう感想が多かったです。演じているときは片想いのような気持ちなんです。このシーンでこういう想いを入れたけど、ちゃんと届くのかなと。感想を送っていただいたときに、届いたんだな、良かったと安心します。末永く愛してもらえる作品になったらいいなとすごく思っています。
芳根:お声はたくさんいただいて、コメントや感想でいただくものは全部読んでいます。「(ダークな役が)イメージにない分、見ごたえがあった」という感想は純粋にうれしかったですね。「もう一度作品を観に行きたい」というお声もうれしかったです。でもここからだと思うので、9月7日の公開がすぎてから、本腰を入れて、普段は怖くてしないんですけど、調べてみようと思っています(笑)。今回演じたことは、今の自分の全力だったから。それぐらい心強く!と思っています。
――完成披露イベントでは芳根さんが涙を見せていましたね。あの後お二人で話をしたりも?
芳根:太鳳ちゃんから連絡いただきました。うれしかったです。
土屋:こちらこそです。そういうのって大事じゃないですか。感情がでるってやっぱりそこまで頑張っているからだと思うんです。私はきょんちゃんのことを家族だと思っていて。(役を演じる上で)どこか自分を削っているところがあると思うので、もし辛くなったら、離れていても助けに行くよっていうことを伝えました。
■ブログは手紙を書くような気持ちで
――アメブロをお二人ともされていて、SNSでご自身の思いを素直に発信されているという印象です。芳根さんは、『累-かさね-』での演技や、作品についての想いも綴っていただいていました。SNSはご自分にとってどんな存在ですか?
土屋:私はブログをはじめた当初は、それしか仕事がないぐらいだったので、お手紙を書くような気持ちで書いていて、それが今も続いている感じです。ドラマ「まれ」のとき、すごく苦しかったときに、ファンの方が「迷わなければ迷路からは出られない。だから迷っていいんだ」ということを書いてくださって、その言葉に救われたことがあります。今もたくさんのコメントをいただいているのですが、パワーをもらっています。あと、私が、この時こう思ったということを細かく書くことによって、“自分は必死になっていいんだ”ということが伝わったらいいなと思います。
芳根:私もアメブロは、事務所にはいってすぐにはじめたんです。去年までずっと毎日更新するっていうのを心がけてやっていました。だから、デビューしてからのことが全部詰まっているんです。迷ったときはブログを読み返すと、こう悩んでいたんだ、とか。今は乗り越えたよ、とか。日記じゃないですが自分と向き合うことができています。感情も、言葉にすることで自分の中で整理したいという思いもあります。
私たちは役を通して皆さんとお会いする機会が多いと思うのですが、ブログはありのままの自分を出せる場所。この撮影のときにどう思っていたか、伝えたいことを素直に書こうって思っています。
以前は毎日、細かく更新していましたが、今は時間があるときにゆっくり書きたいので、一回一回がすごく長いものになってしまうけど、応援してくださる方は、すごく嬉しいと言ってくださる方もいて。経験していく中でステップアップしたいと思っているので、ブログも、私の中でステップアップできているのかなと思いました。
――お二人のご活躍をこれからも応援しています!ありがとうございました。