DDT秋の大一番、10月21日に行なわれる両国国技館大会のメインイベントが、男色ディーノvs佐々木大輔のKO-D無差別級選手権試合に決まった。
(KO-D無差別級王座返り咲きを果たしたディーノは会心の表情)
(C)DDTプロレスリング/宮木和佳子
この王座戦、すでに挑戦者はKING OF DDTトーナメントを制した佐々木に決まっており、9.23後楽園ホール大会で両国進出をかけたタイトルマッチがサバイバル3WAY形式で実施された。
ここで対戦したのが、王者・里村明衣子と挑戦者の男色ディーノ、入江茂弘。今年4月にベルトを巻き、ディーノがプロデューサーを務めるDDTの体制を批判してきたのが入江だ。ディーノはその入江から「いつでもどこでも挑戦権」を使った不意打ちで王座強奪。その後ディーノを下し、里村が女性初の王者となっている。
三すくみの因縁を一気に片付けるべく組まれた、この3WAY。敵対しあいつつ共闘する場面もあり、敵味方、2対1の局面が目まぐるしく入れ替わる展開となった。
その中で、いつものように真っ向勝負を貫いたのが里村だ。体格面での不利をものともしない闘いを見せ、またディーノ、入江も容赦ない攻撃を繰り出していった。
まず脱落したのは入江。ディーノのリップロックに捕まり、ダメージを負ったところで里村が追撃のスコーピオ・ライジングがクリーンヒットする。さらにディーノがゲイ道クラッチで抑え込んだ。
そしてディーノvs里村、1対1の闘いはディーノの勝利に。垂直落下式ブレーンバスターから里村が得意とするデスバレーボム、そして男色ドライバーへとつないだ攻撃は普段のイメージとは違うシビアなもの。試合後、里村も「両国に出たいと言う気持ちの差」を認めるほどだった。
(「マジ卍」での前哨戦、佐々木はディーノに股間を掴まれてもノーダメージ)
(C)DDTプロレスリング
試合を終えると、3選手はそれぞれ握手。激闘を経て、遺恨は清算された形だ。そして新たに生まれたのが、10.21両国に向けた王者・ディーノと挑戦者・佐々木の対立である。
初期からDDTを牽引してきたディーノは、両国国技館のメインに立つことの重みを知る選手だ。そしてその舞台を「夢」という言葉で表現してきた。しかし佐々木は「俺は夢とか語るヤツが嫌いなんだよ」。リング上で過去の言葉を引用されても「そんなこと言った覚えはないぞ。昨日のことだって覚えてないんだ」。
ハードコアマッチで葛西純に勝った経験もあり、常に命知らずにして無軌道な闘いぶりを見せてきたのが佐々木だ。ディーノとのやり取りでも分かるようにコメントもまた無軌道、不規則。まったくもってまとまりがなく何一つ普通ではないからこそ、佐々木は“カリスマ”と呼ばれる。
ディーノはAbemaTVでの番組の司会など一般メディアでの露出も多く、DDTの象徴、アイコンと呼ばれてきた。いわばこの試合は“アイコンvsカリスマ”の激突だ。
ただし、佐々木はディーノがDDTの象徴と呼ばれていることに「吐き気がする」という。なぜなら「いま第一線で体張ってんのは俺だし、俺ら(ユニット)DAMNATIONだろ」。
ここ数年のDDTで佐々木率いるDAMNATIONはシングル、タッグ、6人タッグと常にトップ戦線で闘ってきた。KING OF DDTは3年連続でDAMNATIONの選手が優勝している。一方、今のディーノは前半戦で観客を笑わせるのが主な“仕事”ということになる。“アイコン対カリスマ”は、知名度の高いディーノに現場の大黒柱たる佐々木が牙をむくというリアルな構図でもあるのだ。
(まず前哨戦を制したのは佐々木。試合後のコメントは「勃起」「キャバクラ」といった言葉が飛び交う相変わらずの無軌道ぶり)
(C)DDTプロレスリング
もちろんディーノにも、前半戦で観客を笑わせてきた仕事ぶりへのプライドがあるはずだ。また佐々木の存在感を認めているからこそ「この闘いは必然」だと捉えているし「正直、佐々木大輔は脅威。だから潰します」と言う。
「夢」という言葉を好んで使うように、ディーノにはロマンチストの部分がある。心情をさらけ出して泣かせ、自分も泣くことをためらわないのだ。
対する佐々木はめったに本音を言わないし、言ったとしてもすぐに不規則発言で覆い隠す。どちらが厄介で複雑かといえば、現時点では佐々木。だからディーノにとっても難敵になりうる。
9月25日の「DDT LIVE! マジ卍」では、さっそく前哨戦が行なわれている。ディーノ&葛西純&大石真翔vs佐々木&高尾蒼馬&遠藤哲哉の6人タッグマッチだ。試合は佐々木がクロス・フェースロックで大石に勝利。その結果以上に衝撃的だったのは、股間を執拗に狙う“男色殺法”を佐々木がディフェンス、もしくはノーダメージで切り抜けてしまったことだ。
「ディーノ、お前の男色殺法はとっくに見切ってんだ。勃起しねえんだよ」と佐々木。敗れたディーノは「次はバキバキにしてやる」と誓ったのだった。
両国国技館のメインにつながる流れ、そのポイントが「股間を攻撃されて気持ちよくなるか、ならないか」になってしまったわけだが、はたしてこの展開が続くのか否か。この2人だけに、次の前哨戦ではすっかり忘れて別の攻防を繰り広げる可能性もある。
(9.23後楽園での3WAY王座戦。男子選手相手に激しいファイトスタイルを貫いた里村にも大歓声が送られた)
(C)DDTプロレスリング/宮木和佳子
そもそも男色殺法は基本的にセクハラの類であり、嫌だからこそダメージになるはずで「バキバキ」も何もないはずなのだが。このカードが決まってしまった以上、主催者も我々もその程度のデタラメさには耐えるしかない。
しかし考えてみればディーノは“ゲイレスラー”であり、DAMNATIONのスローガンは「群れない、媚びない、結婚しない」だ。どこかの議員に《彼らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです》と批判されそうな対戦と言えなくもない。
まあそれはともかく何か世の中の役に立ちそうなこと、偉そうなものなどに目もくれずやってきたのが“文化系プロレス”DDTなのは間違いない。10.21両国大会のサブタイトルは「秋のプロレス文化祭」だ。生産性にとらわれない多様さを肯定するのが“文化”というものだろう。ディーノと佐々木には、とことんデタラメなドラマを見せてほしい。
文・橋本宗洋