ニューヨークで開かれている国連総会で演説に立ったトランプ大統領。「私の政権はこの2年で過去のどの政権よりも多くのことを成し遂げた」との自画自賛に、会場からは失笑が漏れ、終了後「あれは笑いを取りにいった」と釈明した。また、2回目の米朝首脳会談に向けた動きが加速する中、金正恩委員長を高く評価しながらも、非核化が実現するまでの制裁維持も明言した。トランプ大統領の思惑とは一体何なのだろうか。26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、国際政治学者の三浦瑠麗氏に話を聞いた。

■「貿易をすれば平和になる」という発想

 演説で飛び出したトランプ大統領の"自画自賛"に、宮澤エマは「失笑が起きると"本当だよ"と言い直して、ちょっと傷付いたような顔をしていた。スピーチの内容はいつも通りだったけど、余裕がない感じに驚いた」、パックンは「お笑い芸人のボケだったら最高だろうが、世界のテーマを話し合う国連を、自慢する場だと勘違いしていたようだ。自分が思っていることと、世界が思っていることはこんなに違うんだと気付いたんだと思う。同盟国も敵に回してしまった」とコメント。さらにREINAは「中間選挙が迫っているのでプレッシャーもあるのだろう。最近の演説ではプロンプターから目を離さず、書かれたものを読んでいて、アドリブもない。笑われた時には"Oh, I didn't expect that. That's OK."と言っていて、大統領が笑われていることへの恥ずかしさと心の痛みがあった」と話した。

 三浦氏はこうした見方に対し、「国内演説と国外演説を混同しているし、トランプさんらしい振る舞い」とした上で、「確かにトランプ政権は国内政治ではいくつかの成果を挙げている。最大の成果は税制改革だし、金委員長と会うことも高い支持を得た。確かに国連総会に集うような外交エリートからの受けがいいわけはないが、そこで気をつけなければいけないのは、アメリカのリベラルと違い、実はヨーロッパのリベラルは米朝会談に期待を抱いたし、それはまだ失せてはいないということ。極右が躍進している欧州では皆さんの信じる"リベラリズム"はかなり減退しているし、そもそも成熟したリベラルが支配する政権を担っている国は今、いくつあるのか。そう考えると、報道のトーンとしては"トランプはひどい"というお題目を言うべきだが、現状から目を背けてはいけない」と説明。

 「理論的に理解しているわけではないだろうし、非常に起源の古いものだが、国際政治の伝統の中にはトランプ大統領のような"貿易をすれば平和になる"という考え方もある。ジョージ・W・ブッシュのような性善説に基づいた"民主化すれば平和になる"という考え方が間違っていることがわかってきたので、それを捨て、性悪説に立って利益を誘導すればいいということだ。リベラルからすれば、あんな抑圧的な政治体制を是認するのかということになるが、中国を抑えるために、北朝鮮に対しても商業的なプレゼンスを確保しておこうという発想に立っている。日本を含めた同盟国に対して脅しをかけているのも、短期的な利益のためにわざとやっていることだ。私は彼のスポークスマンではないが、トランプ大統領のやっていることの裏には、そういうアメリカの国益シフトや戦略があるとみることができる。ただ、これに対し中国はアメリカを必要としない経済圏の構築を中長期的に目指していくだろうし、近視眼的で信頼を損なうよう通商政策は間違っている」。 

■ポイントは北朝鮮の「態度変更」

 「私は6月にシンガポールに赴き、北朝鮮の指導者・金正恩委員長と直接会ってきた。とても生産的な話し合いとなり、朝鮮半島の非核化が両国の望む形だと意見が一致した。もうミサイルもロケットもどの方向にも飛ばされることはなくなり、核実験も停止している。一部の軍事施設は解体もされている」「金委員長がとった行動と勇気に感謝したい。ただ、まだすべきことはいくつも残っている。非核化が実現するまで制裁は引き続き行われる」。トランプ大統領は演説でそう述べて、金正恩委員長との交渉の成果を強調。また、これに先立って、早い段階での米朝首脳会談の可能性も示唆している。

 三浦氏は「中間選挙前なので、国内に向けて"米朝の関係は失敗していない、進展している"ということを強調する必要があった。しかし実際はアメリカが求めている核施設やミサイルの場所などのリストの申告もまだ行われていないので、頭のどこかで"進展していない"ということは分かっていると思う」とした上で、「緊張緩和は平和のためにあるが、核兵器をお互いの国に向けている状態でも平和は可能だ。平和宣言をしていない今、確かに北朝鮮はアメリカにとって敵のカテゴリーに入ってはいるし、"現状変更のために核を持った"というのが日本の認識でもあるが、韓国にも侵攻しない、核兵器を持っても実験や戦争はしないとなれば、アメリカの認識では"現状維持の勢力"という風に変わってくる。同じような認識の変化は1960年代に中国が核実験をした頃にもあった。当時も核兵器を使用した先制攻撃で中国を潰すというプランまで立てていたのに、結果的にはニクソン訪中に至った。核を持っていない時代の中国は危険だったが、核を持った後の中国は危険ではないという具合に、アメリカの認識というのは変わる。つまりトランプ大統領は、北朝鮮の攻撃の意図や政権の体質に注目して、"核の削減は進んでいないが、北朝鮮は韓国やアメリカを攻撃することはない国になった、その"態度変更"を引き出したのは俺たちだ"という成果を強調している。確かに歴代政権の中では、トランプ政権が最も北朝鮮の態度を変えたということもいえる」と説明。

 「NPT体制があり、北朝鮮がルールを破っている中、単純に核保有国として承認することはありえないが、インドに関しては民生分野の原子力協力をしていて、対中国の観点からも仲良くするインセンティブがあり、パキスタンに関して"中国とあまりに近いから"という理由で事実上容認している。金委員長の言うことを聞くのは絶対に嫌だということであれば、初期のソ連に対する"封じ込め"をするしかないが、これはものすごくエネルギーを要するし、北朝鮮の人民にも影響が出る政策だ。韓国も攻撃のリスクに曝されたままだ。だから北朝鮮に関しては"非常に長い非核化のプロセスの最中にある"という認識をこれから数十年続けるということかもしれない」。

■日本は相手に譲り続けるのか、それとも対米自立を高めていくか

 一方、北朝鮮側の思惑について、浅羽祐樹・新潟県立大学教授は「(金委員長は)終戦宣言を経て、経済制裁を緩めて欲しい」という意図があるとし、「トランプ大統領は中間選挙を控えていて交渉タイミングとしても絶妙。金委員長はトランプ大統領ならば交渉できると考えている」との見解を示している。

 三浦氏は「アメリカは申告リストと終戦宣言、平和条約をトレードしようとしている。北朝鮮としては申告リストを出したくはないが、終戦宣言は非常に欲しいし、それに続く平和条約、そして経済援助が欲しい。この状況の中、韓国の文在寅大統領は終戦宣言についてアメリカには"大した意味を持たないから"、北朝鮮には"大丈夫、これはほぼ平和条約みたいなものだから、リスト出してね"と言ってダブルゲームをしている。この文大統領の思惑について、日本では誤解されている。"文大統領は軟弱だ、騙されている"と言う人も多いが、韓国の国防戦略を見てみると、様相が違うことがわかる。核兵器以外の通常戦力なら北朝鮮に圧勝できる見込みがあるので、偶発的な衝突を無くすために38度線付近の非軍事化を進め、ちょっと引いた状態で抑止しようとている。さらに徴兵期間を3か月短縮し、国民の負担を減らしてもいる。その上で軍事費は増大させていて、あと数年で日本を抜くと予測されている。つまり軟弱でもなんでもなく、軍事的に合理的な戦略を取っていて、南北統一も見据えながら、経済開発のおいしいとこ取りできたらいいね、あわよくば日本のお金もきちんと使えたらいいね、ということ」と説明。

 その上で、日本については「韓国のように、"融和して軍拡"という選択肢をなぜか取れない。北朝鮮の核が減れば減るほど、極東におけるアメリカの核兵器も削減され、軍事プレゼンスも下がっていく。もし統一国家になれば、目と鼻の先に中国が来ることになる。これは日本にとっては極めて厳しい状況を生むと思う。もう米中貿易戦争を心配しているどころではない。アメリカからの貿易圧力にも晒され、先進国で最も脆弱な国になっているし、安全保障を最もアメリカに依存して国になっている。その状況をテコに使われて、さらに通商政策で追い詰められる。経済の規模では、対米貿易黒字で日本は世界第2位。そういうことを考えれば、貿易紛争でひたすら依存を続ける結果として相手に譲り続けるのか、それとも対米自立を高めていくか、どちらかしかない」と訴えた。


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