安倍首相は先月26日、耳慣れない「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉を開始することでトランプ大統領と合意した。
背景にはアメリカは輸入車の関税を2.5%から10倍の25%に引き上げることを検討していることがあり、これが実現すれば日本のメーカーにとっては2兆円余りの関税コスト増となり、利益の半分が吹き飛ぶという試算もあった。今回、日本側が譲歩する形で二国間新協定「TAG」の交渉開始に合意したことで、ひとまず自動車関税引き上げについては当面回避された。一方、アメリカは農産物も標的にしており、特に牛肉に関して大幅な関税引き下げを求めている。TPPに加盟しているオーストラリア産牛肉の関税は将来9%に引き下げられるが、TPPを脱退したアメリカ産牛肉は38.5%という高関税のままでは競争が困難になるため、他の農産品とともにTPP水準まで引き下げるように迫ってくるとみられている。
自動車の関税で脅して、農産品の市場開放を迫るのがトランプ流ディールの狙いなのだろうか。二国間交渉に引きずり込まれたことについて、山梨県の牧場経営者は「自動車産業が大事なのは分かるが、だからといって農業を引き換えにというのはちょっとおかしいと思う」と話している。
首脳会談を終え、トランプ大統領は「私が"日本は我々の思いを受け入れなければならない。巨額の貿易赤字は嫌だ"と言うと、日本はすごい量の防衛装備品を買うことになった」と振り返り、一方、安倍総理は「双方の違いはお互いに尊重しながら、両国の間の貿易を一層促進することによって、ウィンウィンの経済関係を作り上げていくことが必要であり、それが本日の合意であると思う」と述べた。
今回の合意について、"日本がアメリカの圧力に屈した"との見方もあるが、29日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した明治大学の飯田泰之准教授は「貿易交渉での関税引き下げを"負けた"と言うような習慣はやめた方がいいと思う。批判的な論調も多いが、破滅的なことが起きると思っていた人も多い中、決して満点とは言えないが悪くはないと思う。どこの国でも農業の保護は関税から直接補助金に切り替わっていっているが、日本は関税による保護が残っていて、端的に言うと古い。むしろ関税が引き下げられることで、やる気があって、たくさん営農している農家への直接給付に向かうきっかけにすればいいと思う。牛肉に関しても、ファストフードの牛丼はアメリカ産が向いているという業者さんもいる。国産牛はこういうところで、輸入牛はこういうところでと、すみ分けをしながら戦っていく方が日本の農業の将来のためにもいいと思う」と指摘。
「トランプ大統領になってから正規の外交ルートがあまり機能せず、官邸とトランプファミリーでやってきた。それの成果という見方もできると思う。ただ、TAGというのはほとんど初めて出てきたような交渉だ。ここからがまさに経産官僚の腕の見せどころ。どうやってFTAではなく、WTOにも違反しないもので合意していくのか。これは結構難しい。これから先はわからない」。
安倍総理は首脳会談に先立つ25日、国連総会で「日本が米国に対して行ってきた直接投資は85万6000人の雇用を全米各州に生み出した。それこそウィンウィン、そんな関係を私は日米間で続けていきたいと思っている」と述べ、通商分野での日本の経済的貢献を強調。一方、11月に中間選挙を控え、目に見える成果をあげたいトランプ大統領。9月には「貿易赤字の解消のために日本が支払わなければならない対価を伝えた瞬間、シンゾーとの友好関係は終わる」と脅しをかけ、翌日には「日本はオバマ政権の時、『報復されない』と考えていた。しかし私が大統領になってからは逆だ。ディールがまとまらなければ大変なことになると日本は分かっている」とも述べいた。さらに今回、安倍総理との夕食の前に「今夜は安倍総理と防衛と貿易について話し合う。我々は日本を助けてきたのだからもっと相互に助け合う関係を期待したい」とツイートしている。
日本維新の会の足立康史衆議院議員は飯田氏の話を受け「私も基本的には賛成だ。今回の日米協議は良くやったと思う。交渉事に満点はない。当然、政治の二国間関係と経済の二国間関係は完全には切り離されてはいない。農林水産品についてもTPPの水準は守ると言い切ってきたし、自動車は一旦延期することになったので、取るべきものは取れた。さすが安倍政権だ。いつもは軟弱な外務省がとにかくアメリカの言うことを聞けとプレッシャーをかけてきて、経済産業省が頑張る。今、経済産業省の通商交渉に詳しい人たちが官邸にたくさん入っているから、しっかりと通商交渉できたと私は評価している。ただ、激変すると農家がしんどすぎるとか、それを補完する制度がまだできていない、ということで政治が色々と議論している」と評価した。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)