女子レスリングのパイオニアで、一昨年にプロMMAデビューした山本美憂が、プロとして初の連勝を飾った。
(一夜明け会見での美憂。連戦で「勝ちグセ」をつけることはKIDさんのアドバイスでもあった)
舞台は9月30日の「RIZIN.13」さいたまスーパーアリーナ大会。美憂は7月大会にも出場、石岡沙織に勝利しており、試合間隔は短いものの、自ら出場を志願したという。
それは、がんと闘っていた弟、山本“KID”徳郁さんにエールを送るため。KIDさんは無念にも9月18日に亡くなったが、美憂が欠場することはなかった。モチベーションは「天国の弟にいい報告を」に変わった。悲しみに浸ることよりも闘うことを選んだとも言える。
実際、リング上での美憂はファイター以外の何者でもなかった。序盤からアグレッシブにタックルを仕掛け、テイクダウンに成功。そこからパンチを浴びせていく。
対戦相手のアンディ・ウィンはデビュー2戦目に一本負けを喫した選手。下からの関節技への対処が課題だった美憂だが、今回はしっかりとトップキープしながらウィンに有効な反撃を許さない。
パスガードやコーナーに押し込んで攻める場面もあった美憂だが、まずはポジションを最優先にした闘いのため派手な見せ場はなかった。試合終了間際の腕ひしぎ十字固めもタイムアップ。
言ってみれば“非情”に徹し、勝ちにこだわった“勝負師”としての試合だった。試合終了のゴングが鳴ると涙を見せ、セコンドについた息子アーセンと抱き合うと泣き崩れた美憂。しかし判定3-0の勝利には納得せず「グラウンドばっかりでごめんなさい。アンディ選手が強くて、自分が得意なところでやるしかなかった」と語っている。
翌日の一夜明け会見でも「勝ちグセをつけるという意味ではよかった」と試合を振り返りながら、内容には満足していないようだった美憂。試合前は数多く作られたKIDの追悼VTRを見ることなく、勝つことに集中していたという。
美憂はあくまでも“KIDの姉”ではなく、“成長過程のプロフェッショナルファイター”としてリングに上がったということだろう。
選手として成長すること、課題を克服し、勝負に勝つこと。何よりもそれを優先させた美憂。アスリート一家に生まれ育った者としての矜持がそこにあったと言えるのではないか。感傷抜きで勝負にこだわったからこそ、天国のKIDさんに勝利を届けることもできたのだ。