10月6日、タイ・バンコクで開催された格闘技イベント「ONE Championship:KINGDOM OF HEROES」に参戦した青木真也が、ライト級の実力者エブ・ティンに57秒肩固めで完勝した。
ライト級王座次期挑戦者の権利をかけたトップランカー同士の対戦、今回の相手、29歳のマレーシア系ニュージーランド人、ティンも長らくONEの激戦を戦い抜いてきたアジア屈指の総合格闘家のひとりだ。
1R開始から軽快なステップから右ハイを放つティンの奇襲を冷静に見ながら、青木は冷静に低い姿勢からロープ際でタックル左足をとる。一方のティンもクビを取ろうとするが、巻き込むようにテイクダウンに成功。青木はサイドポジションから跨ぐようにマウントを取るとマウントからポジションをずらしながら肩固め、片足を抜いてさらに極めるとティンが失神し試合はあっという間に決した。
1分を切る電光石火の完璧な勝利を見せた青木。今回の勝利はただ単に青木個人の勝利というだけでなく、アジア最高峰のリングで苦戦が目立つ日本人ファイターへ「どのようにONEで戦い、勝利するか」というお手本ともいえる戦い方だったともいえるだろう。
9月22日のジャカルタ大会では、ストロー級王者、内藤のび太(内藤禎貴)がフィリピンのジョシュア・パシオに判定で敗れタイトルから陥落。5ラウンドを通して、ほとんどのラウンドを寝技で圧倒した内藤に負けがつき、日本国内のファイターを中心にネット上で、ONEのジャッジに対し不信感をよせるコメントが相次いだ。
その際に青木は公式ツイッター上で「この判定はありえる。テイクダウンしただけだと評価されなくてパスガードしてポジション取らないとイーブンだと解釈される。グラップラーは策を考えないといけないよね。」とONEの独特ともいえる採点基準を分析しながら冷静に回答していた。このコメントに対しても2012年からONEに参戦し、ルールを知りサバイブしてきた青木の言葉に対して納得の声と、やはり腑に落ちないという声に真っ二つに分かれていた。
その2週間後に見せてくれた青木の戦い方は、賛否意見が分かれたONEルールの解釈を、ファイターが身をもって行った答え合わせともいえる。日頃から口にしている「ぶっ倒せばいい」と身も蓋もない「ONE攻略法」、その本質をついた戦いぶりは「グラップラー不利の不可解ルール」という、外野の声を黙らすだけの説得力のあるものだったといえる。
「上をとっただけだと評価されない」「パスガードしてポジションを取らないと」「(その上で)相手を完全にキメる」・・・その言葉をなぞりながらティンとの対戦をもう一度見ると、発言そのままに勝利という形で体現して見せたのだからアッパレというほかない。
試合後の青木も実に心を揺さぶるものがあった。リング上でアナウンサーが試合を振り返る解説コメントを求めると、質問を振り切って日本語でマイクに向けて叫んだ。
「みんなが怖いように、俺も試合するのは怖えんだよ! でもみんながその怖さに打ち勝っているように俺もその怖さに打ち勝って戦ってんだよ!」毎回緊張感溢れるアジアの最高峰で戦い続けるプレッシャー、孤高の一匹狼が勝利したからこそ見せたナイーブな一面。それは同じく怖さに立ち向かうファイターたちへの力強いエールにも感じられた。
青木真也は今回の勝利でライト級王座次期挑戦者の権利を獲得した。相手はタイトルを奪われたフィリピン人の元王者エドゥアルド・フォラヤンと成長著しいシンガポールの新鋭・アミール・カーンの勝者になる模様だ。今年に入り圧倒的な勝利で3連勝と好調を維持しているだけに、近いうちのタイトル挑戦への期待したいところだ。