現在のDDTで最も緊張感のある、いや“危険な”とさえ言える組み合わせだ。10月21日の両国国技館大会。「スーパー女子プロ大戦2018」と銘打たれた試合で、赤井沙希は“クビドル”伊藤麻希とタッグを結成する。
(コメント後、記念撮影に応じる赤井と伊藤。この直後、掴み合いに……)
しかも、対戦相手はセンダイガールズの里村明衣子&カサンドラ宮城である。“女子プロレス界の横綱”と、その弟子である業界屈指の個性派。赤井&伊藤にとっては、チャンスにも試練にもなる重要な一戦だ。
それが分かっているだけに、10月12日に行なわれた記者会見でも赤井は神妙な表情。DDTの頂点、KO-D無差別級のベルトも巻いた里村を「尊敬しています」とコメントし、同時に「同じ女性として勇気をもらえました。でもDDTの一員としては(ベルト流出が)悔しかった」とも。リスペクトしつつも敵として全力でぶつかる。そんな決意のこもった言葉だった。
ところが、伊藤は赤井に対し「ハンパなリスペクトがあるから試合で一回も勝てない」とバッサリ。さらに「里村明衣子、ダセエな」と、実績の差を度外視した“暴言”まで吐いた。
(殴りかかろうとする伊藤を制する赤井。伊藤のガッツだけは赤井も認めざるを得なかった)
伊藤は投票期間中のDDT総選挙において、中間発表で個人部門1位をキープしている。その伊藤に里村が目をつけ、伊藤も対戦に乗り気になっていた。里村がKO-D無差別級王座を保持し続け、伊藤が総選挙1位になれば、DDT初となる女性同士のメインでの王座戦が実現することになっていた。
だが、里村は9月の後楽園大会でベルトを奪われてしまう。一方、伊藤はいまだ総選挙暫定1位である。その状況があっての「ダセエ」だったのだ。また「格下に見られるのが気に入らない。伊藤は対等に見ているので勝ちにいきます」と、伊藤はあくまで強気だ。
これに赤井は怒りのコメント。タッグパートナーではあるが「(伊藤は)ギャーギャー叫ぶことでしか爪痕を残せない。それで通用すると思ってるのがナメてる」と容赦ない。赤井はDDTのリングで伊藤と対戦した際、コメントとブログで伊藤の闘いぶりを鋭く批評したこともある。
しかし総選挙トップ快走の自信もあってか「伊藤は伊藤のプロレスで勝ちたい」と聞く耳を持たない“クビドル”。赤井が怒れば怒るほど不敵な笑みを浮かべ「足を引っ張らないで」とまで。コメント後の撮影では、掴み合いの乱闘状態になりかけたところで長身の赤井が伊藤の頭を押さえつけるという場面も。
里村と「対等」とは、伊藤の実績からしてさすがに説得力がない。しかし頭を下げ、胸を借りるつもりで挑んだところで軽くあしらわれておしまいだろう。まして言いたいことを言って、試合で納得させられなければ恥をかくのは伊藤自身だ。
(壇上でのコメント時から、タッグパートナーにもかかわらず微妙な距離感だった2人)
2年足らずのキャリアでも、結果が出せない悔しさは人一倍味わっている伊藤。ましてアイドルとしての足跡も踏まえれば、その覚悟も分かろうというものだ。立ち位置も歌割りも関係なく、自分が頑張れば頑張るほど声援や評価を得られる。そんなプロレスの世界にかける思いは想像に難くない。
とはいえもちろん、真っ当なことを言っているのは赤井である。芸能活動との二足のわらじをはく赤井だが、レスラーデビューの6人タッグ戦で世IV虎(現・世志琥)と対戦、その後もアジャ・コングなど女子プロのメインストリームに挑んできた経歴があるだけに、あくまで真摯な姿勢だ。
まったくもって相容れない赤井と伊藤。しかし赤井はツイッターで伊藤のガッツに関しては認めている。東京女子プロレスの試合もこまめにチェックしている赤井にとっては、伊藤は良くも悪くも気になる選手といったところなのだろう。
そもそも、単に「力を合わせる」だけで里村組を切り崩せるものでもないだろう。タッグパートナー同士が激しく意識しあうことで1+1以上のパワーが生まれるか。“自爆”もあり得るが、それでも爪痕以上の結果を残しにいく姿が見たい。
文・橋本宗洋