■仮想通貨で財宝探索を呼びかけた会社の社長が雲隠れ
韓国でこの夏、「鬱陵島沖で発見された沈没船に15兆円相当の金塊が積まれている」という情報が駆け巡った。
発表したのは海洋技術会社「シンイルグループ」で、見つかった船は日露戦争の日本海海戦に参加、最後は自沈したバルチック艦隊の「ドミトリー・ドンスコイ号」で、15兆円相当の金塊などが積まれていると報告。同社は引き揚げのために関連会社が発行する仮想通貨への投資を呼びかけ、約９億円を集めたという。
しかし一向に引き揚げは始まらず、金塊があるという証拠も提示されない中、調査にあたったシンイルグループ技術諮問委員は「腐食が激しくて、引き揚げる価値のあるものは今のところない」とコメント。疑問の声も上がるなか、シンイルグループは社名を変え、地元メディアは会長が海外へ雲隠れしたと報じた。さらに会長職を引き継いだ崔氏も「150兆ウォン（15兆円）という文言はマスコミの報道から引用したもので、当社が主張しているものではない」と主張。
疑惑を受け、当局も詐欺の疑いで捜査を開始、今月15日に取締役の男ら２人が逮捕された。当局によると、金塊があるという証拠はなく、引き揚げを行う意思や能力がないと確認したという。
そもそも金塊15兆円分ともなれば、その重量は推定約3200トンにも上る。ドンスコイ号の積載量は6000トン弱だったとされるため、本当にそれだけの余地はあったのか、疑問は容易に湧いてくる。さらに韓国では通貨危機でどん底の1999年、とある建設会社がドンスコイ号を発見したと発表している。しかし引き揚げを目指す途中で会社が破産、投資家が莫大な損失を被った。一部韓国メディアは、この建設会社こそシンイルグループの前身であったと報じているのだ。
■かつて笹川良一氏も巨費を投じて捜索したバルチック艦隊の財宝
長年に渡って日本の財宝伝説を追いかけてきた日本トレジャーハンティング・クラブ代表の八重野充弘氏は「そもそもドンスコイ号は、財宝船としては全く有名じゃない。ただ、バルチック艦隊ではアドミラル・ナヒモフ号という対馬沖に沈んでいる船が型も大きく、戦闘でいつも後方に逃げていたことから、財宝を積んでいたのではないかという説はある」と指摘する。
一説にはナヒモフ号が積んでいたロシアの戦費は１兆円規模といわれており、1980年には日本船舶振興会の故・笹川良一氏が巨費を投じて探索に挑み、「プラチナの延べ棒を発見した」と会見も行っている。しかし八重野氏は「船の科学館に展示されたりもしたが、見たところ、どうもプラチナではなかったようだ」と振り返る。
しかし、韓国で起きたような事件は、日本でも無縁ではない。
終戦後GHQがひそかに接収し運用していたとされる「Ｍ資金」は戦後史を彩る汚職事件や詐欺事件の舞台裏で見え隠れし、多くの詐欺事件にその名が使われた。また、江戸幕府が隠したとされる「徳川埋蔵金」、太平洋戦争中、旧日本軍がフィリピンに隠したとされる「山下財宝」は良く知られており、こうした財宝話を聞きつけた人たちによる違法な発掘は今でも後を絶たず、今年に入ってから日本人４人を含む17人が逮捕され話題となった。
このうち今年１月に男女２人が逮捕された事件では、沈没船の引き揚げや埋蔵金発掘などの架空の投資話で約380人が７億円以上を騙し取られている。
投資詐欺に詳しいヴィクトワール法律事務所の加藤隆太郎弁護士は"沈没船投資"の注意点を３つ挙げる。１つ目は引き上げ作業の工程に沿った具体的な資金の使用プランに確認、２つ目は財宝の総額に対し１口の額が小さい"おいしい話"に対する注意、３つ目は財宝が誰のものになるのか、法律の確認だ。
八重野氏は「特に金や宝石となると、誰しも本能的に憧れるもの。身近なところに話が来ると舞い上がって飛びつく人が多いんじゃないか」と話し、「まず地面を掘ったり海に潜ったりする前に、話の信ぴょう性の確認に十分時間をかけないといけない。それをしないまま発掘に乗り出したり、詐欺に引っかかったりする人があまりにも多い」と指摘、実際に収集や探索によって財宝を見つけ、それによって生計を立てる人は１人もいないというとし、「国内でも実際に見つかった宝物はたくさんあるが、全部"偶然"だ」と断言する。
■「自分の責任の範囲内」「ワクワク感」を大事に
自身も群馬県の赤城山麓に眠るとされている「徳川埋蔵金」を40年以上追い求めてきたという八重野氏。「今もメインのターゲットとしてで、４か所ぐらい掘っている。機械なんて一切使わないで、多い時でも５、６人で、全部手作業。資料を分析して、地元に伝わる話を聞いて、ポイントを絞り、最終的には探知機をかける。こだわりというか、昔の人が隠したのと同じ方法で探るのが基本。そうでないと痕跡を見逃してしまう。そうすればお金もかからないし、そもそもこういうことにお金をかけてはいけない明日にでも出てくるという感覚も何回かはあった。完全に諦めたことはない。今回はダメだったけど、次は、という気持ち。ただ、どこで諦めるかっていうのは難しいところ。あんまり引きずってもいけないしね」と話す。
その上で「欲だけでやった人は、10年、20年でみんな潰れていった。赤城山麓でも詐欺まがいのことはいっぱい起きている。僕のところにも"資金が必要でしょう、出しますよ"という話が来るが、一切お断りしている。やっぱりプレッシャーになるし、自分の責任の範囲内でできることしかやらないことにしている」と強調した。
八重野氏は「誰がいつ、どんな想いで隠したのか。それを考えながら探っている。何百年かを隔てて昔の人との一種のコミュニケーションが成立するようなワクワク感。昔は一山当ててやろうという人が多かったが、最近はそれを感じてくれる若い人も増えてきた。財宝そのもの魅力というよりも、トレジャーハンティングという行為への憧れ、ゲームのような感覚だ。非常に健全になってきたと思う」と指摘、「今も４か所ほどで財宝を探している。差し支えない範囲で言えば徳川埋蔵金の一部、それから山梨県の武田信玄の軍用金。これは年内にもう一度探す」と明かしていた。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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