DDT総選挙の中間発表で1位をキープ、10.21両国国技館大会にも参戦する伊藤麻希が、大一番を前に大きなインパクトを残した。

(試合後のマイクも感情全開。ここまで“むきだし”なレスラーもなかなかいないのではないか)
(C)DDTプロレスリング
その舞台となったのは、主戦場である東京女子プロレスの福岡・沖学園ドーム大会(10月14日)だ。福岡は伊藤の地元であり、今回はエース・山下実優とともに凱旋マッチとなる。また伊藤にとって福岡は一昨年12月にレスラーデビューした地。対戦相手は山下だった。あれから2年近くが経ち、成長した姿を見せたいところ。
4年前に開催された東京女子プロレスの福岡大会では、伊藤はアイドルグループ・LinQのメンバーとしてオープニングアクトに出演している。昨年夏、伊藤はLinQを卒業。本人によれば「クビ」で、そこから“クビドル”を自称するようになった。

(LinQのライブに加わるとセンターポジションに。声援、紙テープの多さに「福岡に帰ってきて、こんなにファンがいたのかってビックリしましたね。嬉しかった」)
(C)DDTプロレスリング
そんな紆余曲折を経て、今回はレスラーとして試合。ただ大会での最初の出番は、今回もオープニングに登場したLinQのライブに乱入することだった。伊藤は2曲目の「カロリーなんて」(伊藤の初期入場曲でもある)に加わるとポジションの隙を突いてセンターを奪取。
「クビになったグループに応援されるとはな」と運命の皮肉を感じた伊藤だが、バックステージでは「そうは言っても嬉しかった」と本音が。試合での入場時には現在、所属するトキヲイキルのメンバーと「セツナイロ」を披露している。
1回のイベントで2グループでライブ、かつ試合はセミファイナルという大物ポジションとなった伊藤。選手コール時には大量の紙テープが舞った。それはそのまま、伊藤のレスラーとしての2年弱への評価だと言っていい。
試合は瑞希と組み、中島翔子&優宇と対戦。優宇は元シングル王者、中島は初代タッグ王者、瑞希も現タッグ王者とトップ選手に混じっての試合だ。しかし、今の伊藤はその中で見劣りしない闘いを見せることができる。

(伊藤の逆エビ、瑞希のフェースロック競演も。フィニッシュ直前まで互角の勝負だった)
(C)DDTプロレスリング
ドロップキックに逆エビ固め、頭突き、DDTと使う技はシンプル。細かい技術はまだまだかもしれないが、それを補って余りあるのが気合いと自分を信じる力だ。かつてLinQのメンバーとして活動していた土地、「握手会に並ぶファンが2人とかだった」という場所で、「世界一可愛いのは?」、「伊藤ちゃん!」のコール&レスポンスから相手を殴る「世界一可愛いナックル」を叩きつけた。観客の声に「ありがとー!」と返す伊藤はその瞬間、九州一くらいには可愛かった可能性がある。

しかしもちろん、可愛いだけで総選挙暫定1位にはなれない。ダイビングヘッドバッドをかわされ、そこから中島に丸め込まれて試合には敗れた伊藤だが、簡単にへこたれる人間ではないのだ。
マイクを握ると「伊藤が勝つとこ見たかったか?」。続けて「安心しろ、来年も来てやるよ」。そして「そん時までにな、伊藤はくっそ可愛くてくっそ強くてくっそカリスマになってやるから楽しみにしとけよ!」とアピール。単なるカリスマではなく「くっそカリスマ」である。
その一方で観客にも成長を求める。「何のうのうと人の話聞いてんだ。お前らもだよ。次会う時までに何か一つ達成してこい。腹筋30回でも、東大合格でもなんでもいいよ。お互い成長してまた会おう」。あらゆる感情、ドラマを他人事にはさせない伊藤の真骨頂だった。
最後も「世界一可愛いのは?」、「伊藤ちゃん!」からのアカペラで「ウルトラソウル」熱唱。東京女子ファンにはおなじみだが、福岡の初見の観客には相当な衝撃だったのではないか。
インタビュースペースでのコメントでは、負けたことへの反省も口に。「こないだ(タイトルマッチでの対戦を約束したのにベルトを失った)里村明衣子のことダセエって言ったら、今度は自分がダサくなっちまった。でもあきらめない。絶対カリスマになって帰ってくる」。また「今日は勝てるんじゃないかと思いました」という瑞希に「伊藤が目指してるのは150点だから」と自らに高いハードルを課していることも明かした。ちなみに今回の自己採点は150点中「80点」。本人的には低いが、点数だけだと高いように聞こえるというあたりも伊藤らしさか。
生まれ育ち、アイドルとして厳しさも感じた福岡で、伊藤は唯一無二のレスラーとして存在感を見せつけた。LinQとの歌だけではなく、山下と並んで大会そのものの成功を担う「中心」にいた。あらためて、伊藤の代わりはいないことがはっきりと分かった興行だった。
10.21DDT両国では、赤井沙希と組んで里村明衣子&カサンドラ宮城と対戦する。実績の差はあるが、存在感に関してだけは臆する必要など何もない。このまま総選挙1位確定へ突き進めるか。“クビドル”には“クビドル”にしかできない闘いがある。
文・橋本宗洋
この記事の画像一覧

