来年10月の消費税増税で懸念されるのが、軽減税率やレジの入れ替え費用など、小売の現場での混乱だ。さらに消費の落ち込み対策の目玉である「ポイント還元」も、キャッシュレスの対応をしていない零細業者やカードに不慣れな高齢者の間では懸念の声が広がっている。
政府が検討しているポイント還元は、中小の小売店でクレジットカードを使ってキャッシュレス決済をすると後から2%分が還元され、税率が実質8%になる仕組みだ。経産省はこれを機にSuicaやEdyなどの電子マネーも含むキャッシュレス決済の普及を押し進めたい考えだ。15日に開かれた、経産省とカード会社などでつくる「キャッシュレス推進協議会」の創立大会でNTTの鵜浦博夫会長は「いよいよキャッシュレス推進にあたっての機は熟した。キャッシュレスエコノミーの推進は、間違いなく社会コストの効率化につながる」と訴えている。
立憲民主党の枝野代表は「少額の日常の買い物のところでカード決済をいちいちできるのか。なおかつ中小、零細の小売業者がそれに対応できるのか。全く暮らしの足元を見ていない」と批判。「消費税で打撃を受けられると思われるような年金生活者の皆さんがカードを使って決済をするというようなことに慣れていらっしゃるか。その人たちに無理やりカードを作らせるのか」と疑問を呈した。
これについては麻生財務大臣も「田舎の魚屋で買い物をしたことがあるか知らんけど、大体クレジットカードでやっている人はいないからね。はい、8%、10%、還元なんていう話がどれだけうまくいくか」と、課題を認める発言。軽減税率を求めてきた与党・公明党もポイント還元には難色を示し、石田政調会長は「ポイント還元はたくさん買った人の返金額が多くなり、金持ち優遇制度になりかねない。低所得者への現金給付やプレミアム商品券発行を」としている。
■森永卓郎氏「中小企業いじめだ」
20日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した自民党の松本文明衆議院議員は、経産省がまとめた各国のキャッシュレス決済比率(韓国・89.1%、中国・60%、アメリカ・45%、そして日本は18.4%)を挙げ、「世界はキャッシュレスに向かう大きな流れ。しかもこれは2015年の数字なので、韓国は今や90%を超えている。世界からこれだけ観光客が押し寄せる日本の社会で、こんなに不便だと思われるのは得策ではない。今や電車の切符を毎日買っているなんて人はいない。高速道路でも多くの皆さんがETCを利用している。キャッシュレスで決済したいと思った時にできないというのが問題で、もちろん"俺は現金だけだ"という方は現金で決済すればいい」と説明する。
他方、経済アナリストの森永卓郎氏は「これは中小企業いじめ以外の何物でもない。クレジットカードで支払いをされると、飲食店だとカード会社に5%くらい持っていかれる。政府は1年くらいは下げろと言うとしているが、1年経ったら売上が5%売上が下がるということ。しかも入金のタイミングも遅れるので、ただでさえ利幅の少ない中小はみんな潰れてしまう」と指摘。「安倍政権になって、財務省支配だった首相官邸が経産省支配になった。消費増税のどさくさに紛れて経産官僚が自分たちの利権を増やそうとしている」と持論を展開した。
これに対し松本氏は「経産省の意向というわけではない。党の政調会の部会で議員が集まり、欧米と比べて日本のIT化は遅れていて、働き方改革についてもテレワークの整備、行政サービスの効率化も必要だという議論をしている。消費増税にあわせて、必要な機器に対して、国から補助金をドンと出す。レジを新しくするならば3分の2出す」と説明した。
■田中康夫氏「シンプルではない」
さらに森永氏は、増税そのものにも疑問を投げかける。「消費税を社会保障財源に使うのは間違っている。なぜかというと、厚生年金にせよ、健康保険せよ、労使で折半している。ところが消費税は消費者、働く人が払うので、企業は一銭も負担していない。だからすごく不公平だ。日本の大手メーカーは逆に還付を受けている。軽減税率を入れた目的は、新聞を黙らせるため。新聞を軽減税率にしたら全然悪口を書かなくなった」と主張。「税収全体の消費税率の割合をみると、日本はトップクラスだ。世界で最も高い消費税を課しているのが日本だ。また、消費税の税収割合が高いのは、法人税率が低いからだ。前回、消費税を3%引き上げたが、その増収分全てが法人税減税に使われている。社会保障費には一銭も使われていない。日本は世界最大の債権国なんだから、外資なんていらない。"法人税率が高い"と言うなら"お前らみんな出ていけ"と言って外資を出ていかせればいい」と訴えた。
元長野県知事の田中康夫氏は「イギリスでは付加価値税と呼び、基本的なものはゼロで、それ以上のものには税金をかけている。ほぼ全ての食料品やベビーフード、ペットフード、障害者機器、バイクや自転車のヘルメットは税率0%だ。そして医療、教育、福祉などは非課税としている。一方、アルコール、お菓子、外食、毛皮のコートとかは20%。日本の場合、軽減税率が『これはお目こぼしだ。民よ、喜べ』というものだが、日本の増税論者は"イギリスは20%なんだから、日本は10%にしてもまだまだ安い"というが、ならしてみると8%くらいだ」と指摘。
「税金は収入=入口で取るか、支出=出口で取るかしかない。入口がいびつだからせめて支出の出口のところではみんなから広く薄く取りましょうというのが本来の消費税だったが、入口の不公平が改まってないとみんな思っている。税制はシンプルでないといけないと思う。平等ではなく、みんなに公正で、みんなが納得できて、理にかなった(ものでないといけない)。今回のカードで2ポイントだの、それも1年間だけだとか朝三暮四みたいな細かいことを言うのか」。
最後に松本氏は「ポイント還元をやるかやらないかは分からない。ただ、1年後に消費税を上げなければ、消費税を上げるのに10年、20年かかってしまう。それで日本の財政が持つのか。我々は竹下内閣の時に消費税を導入した。直後の参議院議員選挙でボロ負けをした。そういうことを覚悟しても、やるべきことをやるべき時にやるという覚悟が安倍総理に試されている」と語った。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)