毎年恒例となっているDDT夏のビッグマッチだが、今年は時期がずれて10月の開催になった。会場はいつものように両国国技館。題して「秋のプロレス文化祭」である。

(「マッスル」名物でもあるスローモーションで闘う2大パンダとササダンゴ。罠で攻撃されたアンドレザは流血も)
(C)DDTプロレスリング
本戦前のアンダーマッチ含め12試合とビッグマッチならではのボリュームとなったが、タイトルマッチはいつもより少ない2つ。第1試合のKO-D6人タッグ選手権とメインのKO-D無差別級選手権だけだった。
ただこれはベルト争い以上にテーマ性、注目ポイントのある試合が並んだということでもある。
たとえばこの日、KO-Dタッグ王者であるMAOはタイトル防衛戦ではなく“大社長”高木三四郎とウェポンランブル形式でシングルマッチ。春先から続いた因縁の決着戦だ。
試合が進むごとに、両者が用意したウェポン(凶器)が投入される試合形式で、MAOは序盤からタンスの角に足の小指をぶつけられて大ダメージ。さらに地下セクシーアイドル「ベッド・イン」の益子寺かおりが登場してバブル時代の香りで試合を混沌とさせる。

(とにかくリング上で物が破壊されまくったウェポンランブル。21歳のMAOが48歳の大社長を下した)
(C)DDTプロレスリング
このルールに長けた大社長は、MAOも所属していた団体内アイドルユニット「NωA」のCD売れ残りもウェポンとして投入。これは精神的な揺さぶりになった。ついには場内ビジョンで携帯番号を晒されてしまう(というウェポン)でKO寸前となったMAO。それでも、モノが散らばったリング上で激しい受け身を取りまくったあげくに、タンスとプラスチックの衣装ケースにダイブするキャノンボール450°で勝利を掴んだ。
試合後には、大社長が「キ××イ」を連発してMAOの新世代のイカれっぷりを賞賛。一方のMAOも大社長に感謝を述べたが、バックステージではスマホが鳴りっぱなし状態になっていたことが発覚する。番号がLINEにひもづいていたため、試合中から激励メッセージも届きまくっていたようだ。
コメント中にも着信があり、取材陣の前でファンとの会話も披露したMAO。「機種変します。SIM変えるしかない」と、この点に関してだけは高木への怒りを露わにしたのだった。
大会場での試合、それどころか全国に生中継されている大会で携帯番号を公開。肉体、精神、そして個人情報をもさらけ出しての闘いで、MAOはDDTのDDTたる部分を継承したと言っていい。
また、この大会には昨今のマット界で飛躍的に知名度を高めているアンドレザ・ジャイアントパンダ(新根室プロレス)も参戦。“煽りパワポ”の使い手スーパー・ササダンゴ・マシンと対戦した。この一戦、リングインするアンドレザに罠を仕掛けて「パンダの中身ぜんぶ抜く」作戦を実施したササダンゴだったが、罠にかかったのは新根室プロレスのサムソン宮本会長だった。
そこで登場したのがジャイアント・ササダンゴ・マシン。ササダンゴの実家であり、自身も専務を務める金型工場・坂井精機が製造したパンダのロボット、いわばメカパンダだ。
アンドレザとジャイアント・ササダンゴ。ともに身長3mの巨体がリングで肉弾戦を展開する光景は圧巻。試合のクライマックスではスローモーションの攻防となり、場内ビジョンにはアンドレザの心象風景が流れる(CV:TKO木下)。そこで明らかになったのは、アンドレザがプロレスの祭典「レッスルマニア」のメインで闘うという目標を持っていることだった。

(ウェポンランブルにも登場したアンドレザ。ヘッドバットを打ち下ろしたが、このあと背中に謎の裂け目が……)
(C)DDTプロレスリング
再びササダンゴが持ち出した罠で流血したアンドレザだったが、最後はメカ、生もろともササダンゴを一蹴。続く高木vsMAO戦にも「スペシャルウェポン」として登場したアンドレザは、連続登場の疲労からか「中身」が抜けそうになるアクシデントに見舞われたもののなんとか生還。都内ビッグマッチ初登場で、観客と視聴者に大きなインパクトを残した。
ベッド・イン、携帯番号公開、パンダ、金型工場とプロレスらしからぬワードが記事に並ぶことになってしまったが、これもDDTらしくはある。プロレスを自由なエンターテインメントとして捉え、その枠を広げてきたのがDDTだ。
来年夏のビッグマッチは7月15日の大田区総合体育館大会。全席無料で開催されるという。「赤字を気にしてたら何もできない。これは赤字じゃなく投資」と語るのは高木大社長。「今のDDTは世間にどんどんプレゼンしていく時期。より多くの人に見てほしい」と狙いを明かした。その前、来年2月には両国国技館で「マッスル」とDDTの2連戦も決まっている。
サイバーエージェントグループに入って1年。安定を手に入れたように見えるDDTだが、だからこそより“世間”に攻め込んでいく姿勢を強めているのだろう。
文・橋本宗洋
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