日本のメディアは危険地帯に赴くジャーナリストを守ろうとしてきたか？安田純平さん拘束事件を巡る報道に残された課題 | 国内 | ABEMA TIMES

　25日、内戦下のシリアで2015年６月に行方不明になり、解放されたフリージャーナリストの安田純平さんが帰国した。メディアを席巻しているのは、身代金、そしてインターネットを中心に盛り上がる"自己責任論"についての議論だ。ジャーナリストの堀潤氏は、そんな状況に警鐘を鳴らす。

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　３年前、AFP、AP、ブルームバーグ、ロイターといった国際メディアやジャーナリズム団体が、危険地帯で取材活動を行うフリーランスの記者やカメラマンのための原則を共同で示しました。応急手当の知識や医療保険への加入、防弾チョッキなどの装備の確保、そして事前の情報収集や危険性の検討などを呼びかけるものですが、それらを主体的に提供するよう、報道機関に求めてもいるんです。翻って日本のメディアはどうでしょうか。"良い映像を撮ってきたら買うよ"、というだけの関係性になっていないでしょうか？

　そう考えると、安田さんの自己責任について議論するよりも、フリーのジャーナリストを育て、守り、そして発信の場を確保するための取り組みを連帯してやることを議論すべきではないかと思います。同じく３年前、新潟県のジャーナリストがパスポートの自主返納を求められたときも、現地で報道することの意義などを論じることなく、"渡航禁止の地域なんだから当たり前"、というような論調になってはいかなったでしょうか。今回の解放に至る過程においても、結局は安田さんの周知のジャーナリスト仲間たちが３年以上にわたって地道に活動してきただけでした。

　だから日本のメディアは自分たちでガイドラインのようなものを作ることを真剣に考えるべきですし、もう少し物事を前に進めるための問題設定をすべきです。そうでなければ、"帰ってきて良かった。でも、行くべきじゃなかったんじゃないか"という話をし、そして飽きたら次の話題に移る、ということがまた繰り返されることになってしまいます。

　さて、その「自己責任論」についてですが、イラク人質事件の時、政治サイドから「自己責任」という言葉が出て、週刊誌や新聞までもがその議論に火を付け、いつしかこうした事件が起こる度に自己責任を問うパターンが定着してしまいました。しかし、そもそも在外邦人を守るのが国の役割です。

　一方で、簡単に"自己責任だ"という批判が流布してしまう背景には、おそらく、日本人には良くも悪くも"お上の言うことならそんなに間違いはないだろうし、きっと国民のことを思ってくれてるはずだ"というマインドがあるのではないでしょうか。でも、その結果として先の戦争では多くの犠牲者を生んでしまいました。それでも未だ官公庁や企業発の情報が１面を飾りやすく、スタンダードになってしまっているので、それを疑い検証し、別の情報を持ってきた人があまり大切にされない。

　例えばアメリカでは、国家機密に相当するような情報がウィキリークスを通して漏洩されました。しかし、その情報があったからこそ、イラクからの撤退の話や今後の軍のあり方についての議論もできた。だからこそ情報をリークして罪に問われたチェルシー・マニング元上等兵に対する市民社会からの支援の運動も起き、減刑にも至ったわけです。

　一方で日本では、それがもたらした結果よりも、掟を破ることを重く捉えがちで、"知らされなかったリスク"についてはあまり敏感ではないように思います。尖閣ビデオ流出のケースでも、現状を伝える意味ではとても必要な情報だったと思いますが、当時のメディアや市民社会は、それがもたらした結果についてさほど議論せず、単に"内部情報は漏らしちゃだめだよね"という話だけで終わらせてしまわなかったでしょうか。

　ですから、安田さんがジャーナリストだったということについても自覚をしたほうがいいと思います。シリアは遠い国だし、日本人に関係がない、わざわざ行く必要なんて無かった、と考えて安田さんの救出活動を非難しているのであれば、それは大間違いです。アメリカやロシアとの関係もある中で、中東情勢において日本がどのような役回りを演じるのかは、非常に重要なこと。人道的な観点でも、貧困、飢餓などの問題に先進国が関心を払うのは当たり前のことです。シリア情勢についても、穏健な民主運動が過激な反政府勢力であるかのように、誤った伝わり方をしていることが少なくありません。そんなとき、ジャーナリストが現地で取材した内容が大切な判断材料になっていきます。

　今後メディアに求められるのは、今述べてきたことのほか、安田さんがこの３年間で見聞きして、持ち帰ってきたことを丁寧に伝え、それを元に議論する場を提供することだと思います。（10月25日、談）

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