2004年、当時のブッシュ政権を強烈にこき下ろして世界中で大ヒットした映画『華氏911』のマイケル・ムーア監督による新作『華氏119』がまもなく日本でも公開される。26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、司会進行の小川彩佳アナが、アメリカ在住のコラムニスト・町山智浩氏と、アメリカ政治が専門の前嶋和弘・上智大学教授に話を聞いた。
「この映画でいくつかのことを提案した。その目的は狂気に満ちた状況を終わらせて、元の方向性に戻るためで、それは皆にとってより良い国にするためのものだ」。ムーア監督がそう話す同作は、トランプ大統領への批判を全面に打ち出すというよりも、むしろオバマ前大統領やヒラリー・クリントン氏らの民主党の"ダメっぷり"を描いている。これまでのように、渦中の人を自ら直撃するスタイルの作品を期待した人は肩透かしを食らうかもしれないが、作品の裏にはアメリカを思う彼の強い願いが込められているようだ。
町山氏によると、民主党支持者のムーア監督は、来月6日に迫った中間選挙を睨み「民主党の票を変えたい」という制作意図があると分析する。「映画の中でも指摘されているが、ヒラリーが実はウォール街の金融業者や大企業からものすごい額の献金を受けていて、彼らの方に寄っている人なんだと言っている」。
そんなムーア監督が民主党主流派に代わって意識しているのが「若い力」なのだという。小川アナも、フロリダ州で起きた銃乱射事件をきっかけに80万人ともいわれる参加者を集めた高校生デモのシーンが印象に残ったと話す。町山氏は「ものすごく重要なシーンで、年齢が若い人ほど反共和党・民主党支持が多い。具体的な理由は銃の問題だ。フロリダで銃撃を受けた若者たちが今回の選挙では18歳になり、選挙権を持つ。(次の大統領選挙がある)2020年になれば、さらに若い世代が民主党に投票すると言われている」と話す。
さらに町山氏は、この映画でも描かれる、ムーア監督の出身地で、自動車大手GMの城下町として知られるミシガン州のフリント市の問題に注目する。五大湖沿岸に位置し、かつては鉄鋼や自動車産業、化学工業が盛んな地域だったが、いまや"忘れ去られた地域"、"ラストベルト"("錆びついた地域")とも呼ばれる。「"とにかくフリントを救え"というのが彼自身のテーマでもあり、フリントからアメリカ、世界を見るという姿勢を崩さない。ここに住む貧しい労働者ないしは中産階級以下の労働者の立場で俺は映画を作り続けるんだと。だから必ずボロボロの格好をしている」。
2011年、そんなミシガン州の知事に就任したのがリック・スナイダー氏だ。パソコンメーカー「ゲートウェイ」の元重役で、トランプ大統領と同じくビジネス界で活躍してきた人物だ。町山氏は「トランプとまったく同じで、ビジネスと同じように政治をすれば成功するんだ、というのが売り文句。利益第一主義で、赤字が出ることはやらないので福祉ができなくなる。それまで公共事業だった水道を民営化、五大湖から引っ張ってきていた水を、近くにあるフリント川という汚い川から引っ張ってくることにした。さらに水道管も安い鉛ものにしてしまったため、子どもたちに鉛障害が出た」。映画ではこうした事態を市当局が隠ぺいしていたことも明らかにしている。
前嶋氏も、本作について「民主党派の人たちに投票所に行かせる映画。明らかなプロバガンダ」と話す。
「トランプさんとムーアさんがそっくりだなと思った。要するに、"人々の間にいる人"だと。そして2人ともユーモアがある。トランプさんの側近のバノンさんは"ムーアというのは政治的には全く違うけれども素晴らしいやつだ"と言っていたし、おそらくトランプさんもムーアさんもお互いのことをそう思っていて、分かり合っている気がする。分極化したアメリカには"トランプ・ワールド"と"ムーア・ワールド"がある」。
ムーア監督が意識する中間選挙について、CNNの世論調査では、野党の民主党が54%、与党の共和党が41%という情勢となっている。
前嶋氏は「これだけ見ると民主党が圧倒的だが、決してシンプルではない。一般論として、大統領に対しての"疲れ"というのがあり、中間選挙で大統領の政党が議席を伸ばしたのは1934年以降、3回しかない。また、今年は制度的な問題もある。たまたま上院で民主党の改選が多く、改選議席35のうち28を取らなければ多数派にならない。さらに、トランプさんは"選挙に行かない人の政党が一番強い"と言っている。世論調査で"選挙に行きますか"と聞かれれば"行かないけど行く"と答える人が多い。アメリカの中間選挙は大統領選挙に比べて驚くほど投票率が低く。だからこそ若者に火をつければ、結果は変わるかもしれない」との見方を示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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