予定を大幅に超え、2時間40分にも及んだ安田純平さんの会見。2日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では会見から見えてきた3月4か月に及ぶ拘束生活と解放の背景について専門家に話を聞いた。

 安田さんの証言によると、拘束当初の2015年6月29日から半年間にわたって監禁されていたのは、一戸建ての空き家だったという。「深夜に一戸建ての民家に移動させられた。おそらく空き家だったような建物で、7月下旬に彼らから"日本政府に金を要求する"と言われた。この時点で正式に人質であると言われた。通訳からは"組織名は言わなくても日本側は金を払うだろうか"みたいなことを言われたり、日本側とやりとりをしているということを言われた」。

 そこではイエメン人1人を含む、シリア人5人が監禁されていたといい、日本側との交渉のためなのか、個人情報などを書かされたという。その中の1枚が先日公開された「払ったらいけない」「断固無視しろ」など、身代金の支払い拒否とも読めるメッセージが込められていた妻宛ての手紙だという。この頃の待遇はそれほど厳しいものではなかったようで、安田さんは「彼らからは"ゲストである"と聞かされていて、部屋にはテレビがあり、衛星放送の番組を見ることができた。衣類と本とノートを渡され、日本語で日記を書いても良いと言われた」と振り返っている。食事では鶏肉やスイーツが提供されることもあったという。こうしたことについて安田さんは「紳士的な組織であったということを最終的に伝えてもらいたい。だからテレビもあるし、日記も書かせるし食事もよいものを渡す」と推測している。

 しかし彼らは日本政府との交渉が途切れたと思われる状況になると苛立ちはじめ、安田さんに対して時折暴力を振るうようになったという。そして交渉を有利に運ぶ目的だったのか、台本を渡され動画の撮影を命じられる。2016年3月17日に公開された動画で安田さんは「私は安田純平です。きょうは私の誕生日です」、2か月後には「助けてください、これが最後のチャンスです」と書かれた紙を持った写真が撮影された。それでも「動画の撮影が終わった後からはまた対応が良くなって、1日2日の食事の間に毎日おやつを持ってくるようになった。スイーツであるとか、インスタントラーメンを作って持ってきたりとか」と話した。

 当時のイドリブ県周辺の情勢について、シリア情勢の専門家である東京外国語大学の青山弘之教授は「イドリブ県の反体制武装集団はトルコが支援している勢力、サウジアラビアが支援している勢力、カタールが支援している勢力など、複数に分かれていたが、2015年3月にはアルカイダ系、アルカイダ系ではないイスラム過激派、イスラム国系など、過激派組織が一つになった。しかし内部抗争もあり非常に流動的で危険な情勢ではあったことは確かだ。私も毎日情勢をチェックしていたが、情報を追うのが精一杯で、次の一歩というのが考えられないくらいだった」と説明した。

 その上で、拘束当初の安田さんに対する紳士的ともいえる対応について「シリアでは他所から来た人を大切にするというおもてなしの精神が強いので、人質に対してもそういう情けがあったのではないかと推察される。一方で(待遇の悪化は)安田さんもおっしゃっていたように、日本政府の対応が悪くなった腹いせの可能性もあるし、アルカイダと常に行動を共にしている過激派のトルキスタン系集団や惨忍なISの系列など、安田さんの身柄が色々な集団の手に渡っていたという証拠なのではないか」と推測した。

 実際、日本では安田さんを拘束したのは"ヌスラ戦線とみられる組織"と報道されていたものの、安田さん自身は自分を拘束している組織が何なのかは分からなかったという。「ヌスラであると言ったり、アフラール・シャームであると言ったり、イスラム国であると言っていた」。また、一緒に捕まっていた人たちが、「ヌスラ戦線」の兵士と名乗るなど、報道とは違う実態も明らかになっている。

■解放の背後に、トルコ政府との関係性を重んじる反政府勢力の思惑も?

 その後、待遇は急速に悪くなり、「ジャバル・ザウイーヤ」の巨大収容施設に移動した後は足も伸ばせないような扇風機付きの幅1.5mの独房に1年8か月間も監禁されたという。身動きもできず、水浴びもさせてもらえないまでにエスカレートしたため、劣悪な環境に抵抗しようと20日間も食事を拒否し、一時衰弱たこともあったとしている。ここでは別の組織であるムジャヒディン軍の外国人を尋問している声や、尋問に対し"シリア軍の兵士である"と答える声が聞こえたこともあったという。

 安田さんは施設をさらに転々とし、また動画の撮影を命じられる。7月6日に公開された動画は「私は安田純平です。 2015年6月22日にこの国に来ました。私は元気です」と話していたが、同月31日に公開された動画では「私の名前はウマルです。韓国人です。今日の日付は2018年7月25日。とてもひどい環境にいます。今すぐ助けてください」と話している。安田さんは「7月25日、ウマル、韓国人というのも、やはり彼ら側から求められたもので、日付と名前と国籍、それから非常に環境が悪い状態にいる、助けて欲しいとすべて日本語で言えと言われた」と明かした。

 青山教授は「ムジャヒディン軍はヌスラ戦線に忠誠を誓っている組織。安田さんが拘束していた組織がムジャヒディン軍に対して尋問しているとすると、やはり相手はヌスラ戦線ではない。ヌスラ戦線に拘束されていた時期もあるかもしれないが、戦況によって違う組織になる。特に2016年以降、ヌスラ戦線は2度も名前を変えている。何度も施設を変えられているのも、複数の集団が安田さんの金銭的価値に目をつけ、別々の組織に拘束されていたと推察される。会見の中で、ザーウィヤ山という900mくらいの山に行き、5階建ての建物の留め置かれた話があったが、この地方には5階建ての建物はあまりない。周辺の一番大きい都市だとマアッラト・ヌウマーン市だが、ここにも色んな支配勢力がいたが、2017年以降はヌスラ戦線ではなく、いわゆるアルカイダが支配するようになった。窓の南側に遺跡が見えたと話していたが、イドリブ県の真ん中くらいに遺跡があり、それが南の方に見えたということはザーウィヤ山ではないところだったことが分かる。独房についても、そういう部屋を新しく作るはずはなく、シリア政府の支配下の時に拘置所として使われた施設を運用しているとしていたと考えると、場所も推測できる」と分析した。

 そして先月、解放の時が訪れる。「10月22日の夜に民家に移されて、翌日23日朝、今からトルコに行くからと言われて車に乗せられ、また移動していって車が止まり、 彼らが何かやりとりをした後に車から降ろされて別の車に乗せられた。その車の中で、英語で"もう大丈夫だから"と。"お前はもう安全な状況である"と言われた。彼らはトルコ人だと言った。入管施設に入れられたが、入管施設の100mくらい手前になって目隠しを外されて、"お前はこれで解放されたんだ"ということを言われた」。

 青山教授は「おそらく、交渉というよりも、シリア情勢の中で、"人質ビジネス"としての彼の商品価値が下がったということだろ。今年に入り、イドリブの戦況を中心として、シリア情勢はロシアとアサド政権側に有利に働いていて、反体制側は戦い続けても勝てないと誰が見ても分かる状態になった。そんな中で、反体制側を支援していたトルコは反体制側が大敗しないよう調整をしていた。最近ではイドリブで活動している反体制側の中でも、アルカイダのような暴力集団は出ていってもらうことで合意をした。その時に人質は足手まといになってしまうので放出している。また、トルコとしては勝てないと分かっていても残りたい人たちに対して、自分たちが占領している地域で治安活動や警察活動を担うような、いわば"きちんとした反体制派"になってもらいたい。その場合、信頼の観点からも人質ビジネスから足を洗ってもらう必要がある。そこで反体制派はトルコにとって都合の良い存在になるために、善意を見せる意味で人質を解放している」と、安田さん解放の背景にあると考えられる事情を説明した。

■「価値がある会見だった」

 会見の冒頭、「今回、私の解放に向けてご尽力頂いたみなさん、ご心配頂いた皆さんにお詫びしますとともに、深く感謝申し上げたいと思う。本当にありがとうございます。私自身の行動によって、日本政府が当事者にされてしまった点について、大変申し訳ないと思っている。何が起こったのか、可能な限り説明することが私の責任であると思っている」と謝罪と感謝の気持ちを述べた。

 そして、会見の質疑応答の最初の質問も、やはり「自己責任」の問題についてだった。安田さんは「私自身の行動によって日本政府並びに多くの皆様にご迷惑をおかけしたということもあるので、 私自身に対して批判があるのは当然のことであると考えている。何があったのかということも含めてみなさまに批判いただき、検証いただくのは当然であると思っているので、そのことについて私の側から疑問というのはない」と自身への批判について言及。さらに「紛争地のような場所に行く以上は当然自己責任であるという風に考えている。そこによって自分の身に対して起きるものについては、はっきり言って自業自得として考えている。今回、外務省の対応について、国として行政として、やるべきこと、できることというのをやっていただいたと解釈している」と話した。

 その上で、危険な戦場にジャーナリストが行くことについては「紛争地、非常に厳しい場所であっても、現地の情報を取りに行く人は絶対に必要だというのが私の考え。現地の人が流すものと、外部の人間がそこで見て流す、見るものというのは見方も変わる。当事国の人なりが入ってみるというのが必要だと思うし、その国がそこで紛争を行っていなくても、そこから難民が出てくるとか、いろんなことが巡り巡って我々日本に影響があったりするものなので、直接軍隊を送ってるとかいうことでなくても、地球上で紛争なりが起きている場所があれば見に行く、現地に入るジャーナリストの存在というのは絶対的に必要だというのが私の考えだ」と訴えた。

 自身も2012年から5回シリア国内で取材を重ね、拘束直前の安田さんとトルコで会ったというジャーナリストの桜木武史さんは、今回の会見について「安田さんらしい。自分の経験したことを淡々と話すことが、今できる可能な限りの責任じゃないかなと思った」と指摘。「リスクは高い仕事で、シリアでは実際誘拐もある。もし仮に安田さんのように誘拐されていたらと思うと、また現場に行くのは躊躇してしまう。安田さんは強い。ニュースで流れる映像と、実際に現場に足を運んで味わう空気感とか、人と直接話して一人ひとりから話を聞くことの積み重ねは大切。リスクを冒して戦場に飛び込んで、彼らと打ち解けて彼らの心の内とかを話してくれたのを聞いたりするというレポートは大切だなと思う」と話す。

 元経産官僚の宇佐美典也氏は「こんなメチャクチャな人いるか?と思っていたし、日本全国にもそう思っている人はたくさんいたと思う。でも、安田さんの人生を賭けた会見を見て、彼が守り、示そうとしたのは戦場ジャーナリズムそのものだと思った。一方で、ジャーナリストであれば全てが許されるかといえばそうではなく、自分にも軽率な部分があり、拘束されたのもミスだった。だから批判されるのもあたり前だとも話していた。ジャーナリストというのは自己責任だし、だからこそ助けるなというメッセージも出してきたと。ただ、人命保護の義務がある日本政府が自己責任だと言うのは別問題なんだと。すごく理論的にも整理されていたし、ジャーナリストとしての成果も出した、素晴らしい会見だったと思う」と話した上で、「人質というのが完全にビジネスになっていて、安田さんも人身売買市場で売買されていたかもしれないと思うと、市場原理が働いていることに驚いた」とした。

 青山教授も「安田さんの話を反体制派やシリア情勢の動きとすり合わせていくと、色々なことが克明に見えてくる。わからなかったことがすごく浮き彫りになった。その意味で価値があるものだ」とし、「危険地での取材は必要ないという答えはあり得ないと思う。ただ、観光ではないので、踏まなくてはいけない手続きがあるということ。もう一つは、ジャーナリストの方たちが持ってくるニュースソースを適切に広めるようなメディアがないと、それも観光で終わってしまう。安田さんが持ち帰った非常に貴重な情報をマスメディアがきちんと検証し、報道できなかったら無駄になってしまう。シリアを研究している人間として、そうしたことにメディアや日本の方には関心を持ってほしいと思う」と話した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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