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 「これも全て、オヤジのおかげやと思います。オヤジ、ありがとう……」

 11月12日に後楽園ホールで行われたスペインのアビゲイル・メディナとのWBC世界スーパーバンタム級暫定王座戦で、12ラウンドの末に判定でメディナを下し、暫定王者ながら2階級制覇を成し遂げた亀田家の三男・和毅が、直後のインタビューで声を詰まらせた。感謝を述べた相手は他でもない。リングサイドの最前列で3年ぶりとなった息子の世界戦を見守り、時折声を張り上げて叱咤激励するなど、12ラウンドを共に戦った父・史郎氏だった。

 この和毅の勝利により、史郎氏は3兄弟で2階級制覇を果たした息子たちの父となった。同時にこれは「3人とも世界チャンピオンに育て上げる」ことを自分や家族に課した約20年前からの夢が、「3兄弟そろって2階級制覇」という最高の形で結実した瞬間でもあった。

 「他の誰かの下でボクシングやっとったら、息子たちは誰も世界チャンピオンにはなっていない。それは100%保証する」

 この一戦を4日後に控えた8日夜、都内でインタビューに応じた史郎氏は、そう証言、断言していた。史郎氏はなぜ、そのように言い切ることができるのか? その理由を本人、そして次男・大毅に聞いた。

 「そもそも興毅は格闘技が嫌いで、泣きながら空手の練習に通っていた。大毅だってずっと空手をやめたいと漏らしていた。もし空手を始めていなければ、ボクシングはおろか、彼らは絶対に周囲に影響されて悪くなっていたよ。俺らのところは西成(大阪府大阪市)やで。ホンマ、当時は無茶苦茶悪かったんやから。自分らが少しだけテレビに出始めた頃、皆がよう喧嘩を売りに来て、自分が追い払っていたわ(笑)。俺は自信をつけさせたり、モチベーションやアドレナリンを高めたりすることに関しては、悪いけど天下一品やと思っている。世界でもトップ3に入るね」

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 この父の話を聞いた大毅は「オヤジ、すごいな」と笑顔を浮かべると、次のように続けた。

 「でも真面目な話、そうやと思う。普通のトレーナーは、なかなかそこまで(選手を)持っていけないから。今から教えるのと、ゼロから教えるのでもワケが違う。その違いを分かります? 親父は自分たち3兄弟をゼロから世界チャンピオンに育て上げた。一般的なトレーナーは、高校や大学、さらに海外にまで足を運んで、何百という選手を吟味して、ある程度芽が出た選手を選んで育てる。それでもその大半は世界チャンピオンになることだって叶わない。それがオヤジは“自分のもとに生まれてきた3人”を育て、3人とも世界チャンピオンにしてみせた。そういった意味では、自分の中ではトップ3じゃなくて1位やね。何にしても現実になったんやから、それは素直にスゴイことやと思う」

 「一人の変なオッサンが勝手に夢を見て、意気込んでたワケや。まるで星一徹の世界のように」と大毅が述懐したように、史郎氏の教えは厳しかったというが、一家の心は一度も離散することなく、ボクシングを通じてより強固な絆に結ばれていった。家族という前提もあるが、父は多感な年頃の男三兄弟をどのようにコントロールし、導いてきたのか。そこには片親だった史郎氏の苦労もあった。

 「朝のランニングに付き合ってから仕事へ行って、また帰ってきてから一緒に練習。子供たちが風呂に入っているときにメシを作って……。そうして全部子どもたちのことを見守ってきた。今まで全部、家族みんなでやってきた。父親としての背中はずっと見せてきたつもり。昨日今日、言い聞かせようとしても分かることじゃない。だから子供たちがオレに逆らったことは一度もないよ」

 現在、大阪で共に暮らす父と娘の姫月さん以外、家族は離れ離れだが、一つ屋根の下の時代を支えた思い出の味があると大毅は明かしてくれた。それは亀田家特性の「ちゃんこ鍋」だ。

 「オヤジがそんな生活してたら、のんびり手の込んだご飯なんかは作れない。だから、ちゃんこ。ごはんをガサーっと入れて、塩、しょうゆ、カレー、キムチ……それで1週間の食事が終わり。毎日がちゃんこでも、オヤジが少しずつ変化をつけてくるから飽きたことはないよ。それはそれで、日々変化の連続やで(笑)」

 ちなみに史郎氏はちゃんこ鍋について「練習もするし、育ち盛りやから栄養も考えなアカンけど、一品ずつ作っている時間はない。野菜と肉をがばっと入れれば栄養もあるし、洗い物も少ない。だから、ほぼ毎日ちゃんこ。それだけじゃ補えない部分は青汁にプロテインを入れてな」と昨日のことのように振り返っている。

 そんな日々において、食卓で鍋を囲む家族の時間は、ボクシングにとって貴重なコミュニケーションとなり、プラスに働いた。「毎日がボクシングの話。ご飯を食べながら練習や試合のビデオを見て、明日はああしてみよう、こうしてみよう。そんな話ばかり」とは大毅。しかしそれが、和毅がWBO世界バンタム級王者になったことを受け、史郎氏が大阪に戻った2013年頃から変わり始めたという。

 「僕ら兄弟はトントンと試合に負けるようになった――」

 父や兄弟と共に駆け抜けた24年目のターニングポイントに言及すると「ボクシングの会話が圧倒的に減った。さらにオヤジが大阪に帰ってからというもの、僕ら兄弟は日々、今を生きていくことに必死になって牙を剥き、虚勢を張ってしまった」と苦しかった当時の本音も明かした。  

 そんな環境、状況の変化を乗り越えて、3兄弟で一番下の弟・和毅が、暫定王者ながら二人の兄に続いて2階級制覇を成し遂げた。父のもとを巣立ち、メキシコでの武者修行を経て一回りも二回りも大きくなった和毅だが、今でも練習や試合、さらには対戦相手のビデオを史郎氏に送り、アドバイスを求めることがあるという。そして今回の勝利後、家族の声援が苦しい時の後押しになったこと。さらには涙で声を詰まらせ、父に述べた今までの感謝の言葉に繋がっている。

 「他の誰かの下でボクシングやっとったら、息子たちは誰も世界チャンピオンにはなっていない。それは100%保証する」

 100%かどうかは定かではないが、父・史郎氏の言葉を裏付ける家族の絆があることは確か。そして奇しくも同じ日、長男・興毅は2度目となる引退を宣言した。ボクシング一家・亀田家の物語は第二章に突入した。

(C)AbemaTV


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