10.21DDT両国大会で男色ディーノを下し、KO-D無差別級王者となった“カリスマ”佐々木大輔が初防衛戦を迎える。

(11月14日の会見で佐々木はベルト、高梨は総選挙の賞金をかけることが決定)
その舞台は11月25日の後楽園ホール大会。挑戦者は今年の「ドラマティック総選挙」で個人部門1位になった高梨将弘だ。今年の総選挙では、中間発表で伊藤麻希が独走していたものの、最後の最後で高梨が大逆転。それだけファンからの支持が熱いものだったと言えるだろう。高梨は所属ユニット「酒呑童子」もユニット部門1位に輝いている。
普段は名バイプレイヤーといった存在、技巧派タイプの高梨だが、今年7月の自主興行などここぞという場面でファンの感情を見事に掴んでみせる。大会前半の試合でも変わらぬテンションできっちり役目をこなすプロとしての姿勢も、観客からの評価に繋がっているはずだ。名脇役が「脇役で終わりたくない」と奮起する姿にこそファンは感情移入する。それが今年の総選挙だった。そんな高梨と佐々木は旧知の仲。タッグを組んだこともあり、レスラーとしてのタイプも近い。いや近かったと言うべきか。
前哨戦でのタッグ対決はフォールを奪い、奪われで互角。記者会見では酒癖の暴露など不毛な罵り合いに終始した結果、高梨は総選挙の賞金100万円をこの試合にかけることに。
いきなり「私は酒なんか飲んだことないので」とあからさまな嘘を佐々木が言えば、高梨も禁酒を宣言。その1分後には壇上で飲み始める始末で、そういう意味では呼吸が合っているとも言える。とはいえ“民意”を得て挑戦する今回のタイトルマッチは、高梨にとって一世一代の大勝負だ。
迎え撃つ佐々木にも思うところはある。今回は総選挙1位になったが、高梨は“名脇役”ポジション。佐々木はチャンピオンであり、ディーノ戦の前にも言っていたように「最前線で体を張ってきた」。そのプライドがあるから、佐々木は高梨に対し「もうだいぶ差がついちまってるぞ」と挑発する。試合に向けて話を聞くと、佐々木はこう言った。
「(高梨が)前半戦の試合でも頑張ってる? 頑張ってねえから前半戦しか出番がねえんだ。それがアイツの実力なんだよ」
総選挙の時だけきれいごと言って、同情買いやがって、と高梨を斬って捨てる佐々木。「たまに主役になる名脇役っていうポジションを変えようとしなかった」、「どっかであきらめたんじゃないか」とも。
「俺は隙あらば上に行こうと思ってやってきたし、実際そうしてきた。でも向こうはチャンスで前に出なかった。その差だよ」
かつてはタッグを組み、“脇役”だった2人が掴んだ後楽園メインのタイトルマッチ。エモーショナルなシチュエーションなのだが、佐々木は分かりやすい感動、分かりやすい「いい試合」を嫌う。
「義務教育を受けて育ったようなレスラーは嫌だからな」、「強くてかっこいいレスラーなんて目指したことがない」という佐々木。参考にするのは過去のプロレス、レスラーではない。見てきた映画や聴いてきた音楽が佐々木の“養分”なのだ。ハッピーエンドだけがいい映画ではないし、盛り上がる曲、泣ける曲だけが名曲ではない。そんな価値観をプロレスにも持ち込もうとしている。
「もっとワケ分かんないことをしてやりたい。プロレスファンの感受性の幅に挑んでいかないとな」
試合を「作品」と言う選手は多い。ただ佐々木が作ろうとしているのは単なる“名作”ではないのだ。それが両国だろうと後楽園のメインだろうと“問題作”を見せつける気満々なのである。
文・橋本宗洋


