美しい顔をゆがめ、男たちが疾走し、吠え、血を流す。SABU監督が生み落とした最新作『jam』は、スリリングな内容と高い娯楽性がミックスされた、期待高まる一作だ。出演は青柳翔、町田啓太、鈴木伸之の「劇団EXILE」の面々で、メンバー9名が総出演することでも耳目を集めている。
「ジャムのように混ざり合う」、そう例えられる映画『jam』において、青柳は場末のアイドル演歌歌手の横山田ヒロシとなり、熟女たちの気持ちを手玉に取りながらも、ファンのひとりに監禁されてしまう難役に徹した。ヒロシと交錯する運命をたどるのは、瀕死の重傷を負った彼女のために「何かいいこと」をすれば意識が戻ると信じ続けるタケル(町田)、刑務所送りにされたやくざに復讐心を持ち、単身でアジトに乗り込む狂犬・テツオ(鈴木)のふたり。
異なる道を歩む3人がどう混ざり合い、めぐりゆくのか。SABU監督との取り組みに達成感をにじませた青柳、町田、鈴木の三者に「劇団EXILEのグルーヴ感」あふれる作品として仕上がった『jam』について、語り合ってもらった。
劇団EXILEが全員出る映画なのでとにかく思い切りやりたい
――意外性や新規性を感じるそれぞれの配役について、皆さんご自身はどう思っていましたか?
青柳: ……(町田をちらりと見る)。
町田: じゃあ、僕から(笑)。普段、大体「真面目だね」と言われることが多いんですけど、その印象をSABUさんがすごい誇張してくださって。同時に、ちょっとした変態感や狂気じみた気持ち悪さを持つ、どこか行きすぎたところのあるキャラクターだなと思っていました。今まで自分が演じてきた役の中でもテイストが違いましたし、せっかく劇団EXILEが全員出る映画なので、とにかく思い切りやれたらと臨みました。
――センチュリーからザザッと降りてくる動きにも「思い切り」が表れていました。
町田: そのシーンを撮る前に、青柳さんの倒れ込みのシーンを見たんですよ。結構な勢いで倒れ込んでいて、「青柳さん…気合い入ってるな!」と思って。「じゃあ、僕はヘッドスライディングしますか!」と、SABUさんに言いました。
鈴木: 確かに、「っぽいこと」をしていましたね!
町田: 流石にヘッドスライディングまではできなかったので、三塁打を打ったぐらいのスライディングを見せようかなと(笑)。ちょっとあそこは、遊び心を入れてやっていましたね。
――青柳さんは、気合いが入っていたんですね?
青柳: 楽しみながらやらせてもらいました。面白い台詞が多かったので、それに負けないように、なるべくSABUさんの作風を壊さないように、本気で。自然に見えるようにやったつもりですけど、名前……「横山田ヒロシ」ですからね(笑)。そのインパクトが強すぎて。結果、その名前に助けられた部分もあったり、SABUさんのアイデアに助けられたかなと、振り返ると思います。
圧巻のライブパフォーマンス!
――ライブパフォーマンスも圧巻でした。
青柳: 大丈夫でした?
鈴木: 登場、かっこいいですよね!
町田: うん。あれ、「せり上がってくるんだあ…!」と思って。
青柳: いや、でも、曲名『こんばんは、ありがとう』とか『どっちもどっち』だよ?
町田: (笑)。何のメッセージ性があるんでしたっけ?
青柳:『どっちもどっち』は世界平和。
全員: (笑)。
青柳: 「どっちもどっち、どっちもどっち、どっちもどっち」って繰り返して、最後、「お手つき、おあいこ」ですよ?
全員: (笑)。
青柳:よくこんな歌詞、思いつくなって思いますよね(笑)。
――作詞、SABU監督ですよね。
町田: SABUさんです。
鈴木: 「お手つき、おあいこ」は、やばいですよね(笑)。妙にハマっていたといいますか、モノにしていたというか。青柳さんではなくて、ヒロシを感じましたよ。
青柳: ヒロシ、感じた?
鈴木: ヒロシ、感じました。
青柳: ありがと(笑)。
劇団EXILE全員の個性を引き伸ばしたSABU監督の手腕
――そんな鈴木さんは、暴れる担当とでも言いますか。演じて、いかがでしたか?
鈴木: 今回、台詞が一言もなくて。一切笑わないし、しゃべらないんですよ。刑務所から出てくる設定で、トンカチを振り回すから…本当になかなかできる役じゃないというか、なかなか巡り会う役ではないので、やりがいがありました。とにかく、アクションに集中してやらせてもらったので、撮影は本当に毎日、楽しかったです。
――インする前に、おひとりずつSABU監督と面接のようなお時間があったと伺いました。それぞれ、どのようなお話をされたんですか?
町田: 本当に、何気ない話ばかりをしていました。「どうなりたい」とか気張った話ではなくて、普通の話。僕は1回ごはんも行かせていただいたんですけど、ふんわりとした空気の中で、SABUさんの愛妻家加減をすごく聞いて(笑)。「顔がこんなに怖い感じなのに優しいな」と思って、そのギャップがずっと印象に残っていました。
――何気ない会話の中から、SABU監督は町田さんに合うキャラクターを掴んでいかれたんでしょうか。
町田: たぶん、そういう会話の中から、いろいろなことを引っ張ってくださって、脚本に起こして、僕にタケルというキャラクターを当ててくださったんだろうなと思っています。1~2回しか会っていないのに、僕も含めてですけど、劇団EXILE全員の個性をちょっと引き伸ばしたというか、誇張させたようなキャラクターになっていたので、本当にすごい…流石だな、と思いました。
――町田さんに関して言えば、真面目が誇張されたところが反映されている?
町田: そうなんですかね?別に真面目ではないとは思っているんですけど…気をつけて当たり障りのないようにしゃべるようにしているから。そこがSABUさんの中でちょっと面白かったのか、気持ち悪いと思ったのか…(笑)。だから、こういうキャラクターになったんだろうなって、勝手に思っています。
――青柳さんは『Mr.Long / ミスター・ロン』以来、二度目ですよね。
青柳: はい。だから、俺は面接なかったです。前作でご一緒させてもらったときに食事会があったのと、ベルリン(国際映画祭)でも飲んだりしていたので。
――では、青柳さんのことをSABU監督はよくご存知で。
青柳: わかった上で、俺のことをいじったんでしょうね。SABUさんから直接聞いたわけじゃないのでわからないですけど、いじって、「こういうのをやったら面白いんじゃないか?」って横山田ヒロシができたんじゃないかなと思っています。スタッフさんやSABU監督含め、みんなでヒロシをふざけさせたり、抑えたりしつつ、それでもみんな、やりすぎていくので(笑)。楽しみながら、みんなで「これ、やりすぎかな?」、「え、いいんじゃないですか。いっちゃいましょう」みたいな感じでやっていました。
――監禁された昌子(※筒井真理子演じる)の部屋には夥しい数のヒロシのポスターなどもありました。
青柳: インする前にヒロシのジャケット写真とか、スチール、めちゃくちゃ撮りましたよ!曲名もいっぱいあって、何だっけなあ…。『セザンヌ』とか、『石ころ』とか、映画の中に出てきていない曲がたくさんあるので、『jam2』、『jam3』で披露します。『石ころ』が聴けますよ。
――書きますよ?
青柳: はい。『石ころ』が聴ける日が、もしかしたら来ればいいなと思っていますから(笑)。
町田: (笑)。本当ですか?
青柳: うん。ヒロシ的にはニュー演歌だと思っているから、新しいスタイルの演歌をお届けできればと思います。
町田: 演歌界のマイケル・ジャクソンみたいな?
青柳: そう、そうそう(笑)。
台本に台詞が一切ない!
――では、続いて鈴木さんにも同じことを伺っていいですか?
鈴木: 僕は、SABUさん会議室で30分くらい話をしました。そのときは、SABUさんの作品を観たことがなくて、「どういう作品をやりたいの?」と言われたとき、「『海猿』みたいな作品をやりたいです!」って言って。
町田: 真逆いっちゃったね。
鈴木: はい(笑)。SABU監督と全然違うタイプの作品を言っちゃって。30分、ブワーっと僕がしゃべって、ずっとSABU監督がうなずいて聞いてくれて終わったんですよ。蓋を開けて見てみたら、台本に台詞が一言もなくて(笑)。
青柳: (笑)。
町田: 1回黙らせようと思ったかもね(笑)。
鈴木: 感情も激しいから、「もう無にしちゃおう」みたいな。笑顔も一切ない感じで、となりましたね…。
――でも、すごくいい役ですよね。
鈴木: いい役ですね!自分で言うのもなんですけど、かっこいい役だと思います。
――鈴木さんパートに関して、SABU監督はどういう演出をされたんですか?
鈴木: それが、全然ないんです、本当に。現場でしゃべっていなくて、「おはようございます!」と入って、「ウッス」って蚊の鳴くような声でSABU監督はやって来て。監督、声がすごい小っさくて(笑)。たまに、「用意スタート」の「スタート」が聞こえないときがあったりして。
全員: (笑)。
鈴木: 「用意……(スタートと言っている様子)」、「…言いました?今」、「カット、カット!」みたいな。助監督が「SABUさん、もうちょっと大きい声でお願いします」とか言って…そんな思い出です(笑)。
グルーヴ感も楽しんでももらえたら
――劇団EXILE全員で一緒に作品をやること自体久しぶりですが、改めてご一緒して「こういうところがやりやすかった」などあれば、教えていただけますか?
鈴木: 僕の役は今回、青柳さん、町田さんとの関わりがほぼなかったんです。現場で本当にすれ違うだけだったんですけど、なかなか最近、一緒に現場で会うことがなかったので、それだけでもうれしかったです。
青柳: そうだね。町田とかとは車の中で一緒になるシーンがあったんですけど、誰かが台詞を言い出すと、自然と台詞の練習が始まるんです。俺らは、特に役について「ああだ」「こうだ」と言い合うタイプではないんですけど。そういう風に自然と練習が始まる感じを筒井さんが聞いていて、「そっか、劇団なんだもんね」と言ってくれたんです。舞台を過去何回かやらせてもらったからか、チームワークができていたのかなと思いました。
町田: わかります。そうやって自然発生的に練習するのをSABUさんも聞いていて、「いいねえ、そういうのいいね」とすごく言ってくださいましたし。あとは、自分たちで練習していたら、意味のわからないところで笑いが起きたりしたんです。それも「いいね」と言ってくださって、そのまま本編で「やろう」とやったりもしました。…あ、でも、カットだったと思うんですけど(笑)。
青柳: (笑)。
町田: そこは、劇団ならではだなと思いました。観てくださる方にグルーヴ感も楽しんでいただけたら、と思います。
映画『jam』は12月1日(土)より全国公開中。
取材・文:赤山恭子
撮影:You Ishii
ストーリー
主人公は3人。場末のアイドル演歌歌手・ヒロシ(青柳翔)は、熱烈なファンに支えられ舞台では華やかに輝きながらも、いつも心に空虚感を抱えている。ある日のコンサート終わり、ファンの1人・昌子(筒井真理子)に付きまとわれ、そのまま彼女の暴挙に巻き込まれ、彼女の自宅に監禁されてしまう。一方、大切な彼女が瀕死の重傷を負ってしまい、毎日彼女の意識回復だけを望むタケル(町田啓太)。彼は、“善いこと”貯金をすれば、彼女の意識が戻るのではないかと信じ、毎日必死に生きる。そして、刑期を終え、刑務所からシャバに戻ったテツオ(鈴木伸之)。自分を刑務所送りにしたやくざに復讐を仕掛けるために、やくざ事務所に単身殴り込みをかける。彼らのストーリーが同時間&同じ街で交差し絡み合いながら、それぞれの人生の“因果応報”が巡り巡っていくのだった……。
(C)2018「jam」製作委員会