
京都府南丹市が精神科医の香山リカさんの講演会を中止した問題で、26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に本人が生出演、胸中を語った。
南丹市によると、講演会は自治体などで開催する「子育てフェスタ」の一環として9月に企画され、「子どもの心を豊かにはぐくむために-精神科医からのアドバイス」というテーマで行われる予定だった。しかし開催10日前の11月14日、市役所を訪れた中年男性が「香山氏をよく思わない人が行くかもしれない。大音量を出す車が来たり、イベント会場で暴力を振るわれ、ケガ人が出たら大変だろう」などと発言。さらに翌15日には「日の丸の服を着て行ってもいいか」「香山氏がどんな人か知っとるんか。講師としてふさわしくない」など、いずれも男性の声による電話が5件も寄せられたという。
市によると、電話は威圧的ではなかったものの、警備などとの兼ね合いから南丹署に相談。香山氏によると19日に代理店から「右翼団体のような人たちが街宣車で行くと言っている。お子さんも来るから危ないという説明を受けたので、中止を決定した」という旨の連絡が入った。市は22日になり、公式サイトで中止を発表した。
香山氏によれば、ある政治団体が抗議を行ったことをFacebook上に報告しているほか、連絡先も公開しているという。番組ではこの団体に電話取材を試みたが、放送までに回答を得ることはできなかった。
弁護士法人「プラム綜合法律事務所」の梅澤康二弁護士は、「講師を変更したという点では業務に支障が生じたといえるかもしれない。しかし、対応した市が威圧的対応と捉えておらず、抗議をした人も危険行為を起こすことを示唆してはいないので、これだけでは威力業務妨害・脅迫行為にはあたらないと考えられる」見解を示している。

香山氏は「私は精神科医だが、言論人として人権、憲法、反原発について時々発言すると"反日だ"とか"売国奴だ"と言われる。しかし、今回の講演のテーマはそれらとは関係ない。だから講演の内容とは関係なく、私のことが嫌いというか、面白くなかったんだろう。愉快なことではないけれど、"あんな人呼ぶな"とか、"あんな人の話は聞きたくない"というような市民の意見や抗議は"表現の自由"の範囲だし、いいと思う。でも"大音量の車が行くかもしれない"というのは明らかな脅し。市は"注意喚起"と表現しているらしいが、それが理由で中止したのだから、結局は脅されたということだと思う。警察に被害届を出すとか、刑事告訴をすべき案件なんじゃないかと思う。100件の電話があっても実は10人くらいがやっていたとか、1人が何回もメールを送るケースが多いということは調査によっても分かっている。そんなにクレームを恐れることはないとか、こういう対応をすればしのげる、といったことを行政の人たちにもちゃんと学習してもらいたい」と話す。

そんな香山氏は一昨年、右派団体のデモに対して中指を立てて抗議の声を上げる姿がネット上で拡散された。また、"ネット右翼"と呼ばれる人たちとTwitter上で過激なやり取りをしたりすることでも知られており。香山氏にTwitterのアカウントをブロックされたと主張する人たちからは「対話拒否の女王」とも呼ばれている。
香山氏は「(中指を立てる姿については)私の後ろには親子の在日の方がいらっしゃった。それなのに"出て行け"とか、もっと酷いことを言っていたので、それに抗議をしたというもの。それが民族派右翼と名乗っている人になぜ恨まれるのかわからない。私は対話をしている方だと思うし、"街宣右翼よくやった、おかげで香山が行かなくなった、感謝する"というようなコメントも理解できない」と反論。
「ネット上の議論でも、建設的なケースになることはある。資料を渡すと本当に読んでくれる人もたまにいる。そうでない人は、正しいことが何かを知りたいのではなく、相手を叩き潰したいだけ。私が"差別はいけない"と言うと、"誰かからおカネをもらって言っているだろう"とか、"何かの利権で言っているだろう"というふうに考える。だからそこは叱ってやめさせるしかない。ただ、希望があると思ったのは、ネット上に"怖い"とか"やめてよかった"だけではなくて、"やっぱり言論の自由を侵害するような行為は許せない""市の対応はこれでよかったのか""応援している"という声もたくさんあったことだ」。
■乙武洋匡氏&夏野剛氏「言論弾圧とは言えないのでは」
香山氏の講演が中止になるのは今回2度目。昨年は作家の百田尚樹氏も妨害予告を受け、一橋大学での講演が中止に追い込まれている。

この問題を取材している月刊『創』の篠田博之編集長は「政治がテーマだったら主催者側ももうちょっと構えていたと思うが、今回は子育てがテーマだったので、抗議に驚き、慌てたのだと思う。だから言論の自由の問題だというところまで考えが至っておらず、単にゴタゴタしたり安全が懸念されたりするのが嫌で中止を決めてしまったのだろう。攻める側もそれをわかっているから香山さん本人ではなく主催者を攻撃する。問題は、こういうケースが"成功事例"になり、どんどん起こること。広まれば広まるほど萎縮する風潮が出てくるし、大した抗議もないのに、止めておこうという心理が出てきてしまう」と指摘。

自身も過去にイベントを主催した際、右翼団体が押しかけてきたことがあるといい、「スキルも必要だし簡単ではない。ちゃんと議論ができる場合もあるが、相手が最初から潰すのが目的なら何を言ってもダメ。でも、右の人たちも、こういう事態はまずいと考えて欲しい。右であれ左あれ、こういう形で言論の自由が奪われちゃいけない。いずれ右の人にも跳ね返ってくることを自覚してほしい」と訴えた。

議論を受け、ウーマンラッシュアワーの村本大輔は「僕が『朝まで生テレビ!』に出るときには、テレビ朝日に街宣車が来た。沖縄に行ったときもそうだった。やっぱり色んな立場の人がいるし、僕のためにクレームの電話を対応してくれる人たちがいることを思うと、萎縮してしまう気持もなんとなくわかる。やはり脅迫するような人は捕まえたりすべきだ」と話す。

一方、作家の乙武洋匡氏は「杉田水脈議員の論文の問題で『新潮45』が休刊を決めたことに対し、抗議デモが言論弾圧であるという批判も巻き起こった。しかし、デモは行政の圧力ではないし、休刊に追い込むような強制力もない。だから新潮社には"デモが来ようが私たちは言論で戦い続ける"という選択肢が残されていたはずだ。それでも休刊を決めたのだから、あれは言論弾圧と言えないと思う。今回に関しても、市が警察と連携するなどして、"抗議はご意見として拝聴するが、それでも私たちはこの人の話を市民に伝えたい"という意思を貫くことは可能だったと思う。ちょっと折れるのが早かったのではないか。開催のために、何か手立てがとれなかったのか」と指摘。

慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授も「僕もネットで"授業に乗り込んで銃殺してやる"という殺人予告を受けたことがある。でも、ちゃんと警察が守ってくれた。今回の問題も、これで守れなかったら警察の意味がない。言ってる方は本気ではないと思う。本気だったら黙ってやってくるはずだ。また、香山さん本人にではなく、周りの人に言っているというのが、いつもの手。テレビ番組でも同様のことが起きる。タレントが気に入らないと、関係ないのにスポンサーに電話をする人がいて、スポンサーはとばっちりを食うのは嫌だからと広告代理店に相談する。そうすると代理店とテレビ局が慮ってタレントを番組から下ろす。いちいちクレームに対応していたら、どんな講演会もできなくなる。誰も敵の居ない人というのは、逆に大したことは言っていない人。多様な意見がある中で合意形成していくのが民主主義の社会だし、全員が同じ意見だとしたらそれは気持ち悪い世界だ。違いがあるということを許容していくカルチャーを作るためにも、市には頑張ってほしかった」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)








