11月25日のDDT後楽園ホール大会は「ドラマティック総選挙」の結果を受けてのマッチメイクとなった。

(初防衛を果たした佐々木は高梨と手を組もうと要求。断られると「仮マネージャーにしてやろうと思っただけだ」)
(C)DDTプロレスリング
メインイベントはKO-D無差別級選手権。王者・佐々木大輔に総選挙個人部門1位の高梨将弘が挑んだ。10.21両国国技館大会で男色ディーノを下して新王者となった佐々木は、これが初防衛戦だ。
普段の高梨は“技巧派かつユーモラスな面もある名脇役”といったポジション。大きなチャンスが回ってくることは少ないが、着実にファンの信頼を勝ち取り、それが総選挙で大爆発した。
しかし佐々木から見れば、総選挙で目立つのは普段から頑張っていないからだということになる。チャンスに恵まれないのには理由があるというわけだ。曰く「(高梨は)前半戦の試合でも頑張ってるんじゃなく、頑張ってないから前半戦にしか試合が組まれないんだ」。
かつてはタッグを組んだこともあり、似たようなポジションだった2人。しかしここ数年、シングルでもユニット・DAMNATIONでもトップ戦線で活躍してきた佐々木は「もうだいぶ差がついてる」と言う。高梨はその差を埋めるためにこそ奮闘し、ファンはそこに感情移入したのだ。

(高梨は盟友KUDOの必殺技ダイビング・ダブルニーを繰り出すも自爆)
(C)DDTプロレスリング
序盤は佐々木が足、高梨が腕を狙う展開。切り返しに次ぐ切り返しで、場内を緊張感が支配する。しかし今の2人は“職人肌”というだけでは終わらない選手だ。佐々木は客席の高梨にコーナーからエルボードロップでダイブ。高梨は「高梨将弘、70kg!」と叫んでからの串刺しドロップキックを見せた。これはもう一つの主戦場である我闘雲舞のさくらえみオマージュ。今年ついに総選挙ユニット部門で1位になった「酒呑童子」のKUDOが使うニードロップも繰り出した。
大一番で、これまでの自分と深く関わった仲間たちを意識して闘う。そういう高梨の気持ちの込め方が、ファンの心を掴み、揺さぶる。
「今日だけは高梨に栄光を」
そんな雰囲気が会場には満ちていた。最大の必殺技であるタカタニックがカウント2で返された時に観客から出た声は、どよめきというより悲鳴だった。
思いのすべてを試合に詰め込み、佐々木の必殺技であるクロスオーバー・フェースロックも切り返した高梨。そして最後に待っていたのは佐々木式ウラカンラナだった。挑戦者に出し尽くさせた上で、王者はフィニッシュのカードを残していた。それは受けて立つものとしての貫録、トップ戦線で闘い続けてきた人間だからこその試合運びだったのかもしれない。
「アイツ(高梨)にも覚悟はあるだろうけど、まだ人間として生きようとしてるだろ。プロレス人生しかかけてないんだ。俺は佐々木大輔としての人生かけてる。その差だよ」
試合後、初防衛に成功したチャンピオンはそう語っている。以前、インタビューした際に佐々木が言っていたのは「30歳をすぎたくらいから“余生”だと思って生きてる」ということ。だから“職人肌”を脱して言いたいことをいい、やりたいことをやり、リングでもハードコアマッチをはじめ無鉄砲な姿が目立つようになったのだ。
もちろん、高梨の力を認めていないわけではないはずで、だからこそ引き上げていった高梨を呼びとめて共闘をアピールしてもいる。
が、握手を求めた手を払われると態度が一変。いや、むしろこうなることを見越していたのか。両国でディーノを棺桶に叩き込んだように、佐々木はいかにもな感動やハッピーエンドを嫌う。

(試合後、同じDAMNATIONの遠藤哲哉がD王優勝宣言。詰め寄られた佐々木は思わずこの表情)
(C)DDTプロレスリング
次回の防衛戦は2月17日の両国大会が予定されており、12.1新宿大会から始まるリーグ戦「D王グランプリ」の優勝者と対戦することになっている(佐々木が優勝した場合は挑戦者を指名)。が、佐々木は「今日はちょっとだけ機嫌いいから」と、年明け早々、1月3日の後楽園大会「マジ卍超(スーパー)」でもタイトルマッチを行なうと宣言した。対戦相手はD王の闘いも見つつ、佐々木が決めるという。
さらに、誕生日を迎えたばかりの佐々木は、DAMNATIONメンバーと誕生パーティーを開催するとも。「金ならあるんだ」というその軍資金は、タイトルマッチにかけられていた高梨の総選挙の賞金100万円だ。使い道はというと「おっパブ行くぞ!」とのこと。
「俺たちは群れない、媚びない、誕生パーティーはおっパブで!」
これで後楽園大会を締めてしまうのだから“カリスマ”のあだ名はダテではないといったところ。しかも、高梨だけでなくファンの思いも託された総選挙の賞金でおっパブである。極悪非道、愉快犯。笑っていいのか怒るべきなのか。ヒールというよりはヴィラン。「俺の言うことなんかまともに聞いてんじゃねえ」と主張する、タチの悪いチャンピオンがDDTを引っかき回している。
文・橋本宗洋
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