11月25日のDDT後楽園ホール大会で、伊藤麻希vs竹下幸之介という超・異色カードが実現した。これは伊藤がDDT総選挙で3位、竹下が13位と「選抜入り」したことでマッチメイクされたもの。

(「俺の前で中指を立てたらへし折る」と竹下に言われていた伊藤だが、もちろん臆せず中指)
(C)DDTプロレスリング
竹下は現在のDDTを代表する選手の一人で、KO-D無差別級王座の最多防衛記録を持つ。パワー、スピード、テクニックといった要素に加え、幼少期からのプロレスオタクであり知識や“プロレス頭”も並大抵ではない。
対する伊藤はアイドルからプロレスに挑戦。エリート的な要素はまったくないと言っていい。男子vs女子という以上に差がある組み合わせだった。
だが竹下は、試合前の会見で「同い年のライバル候補」と伊藤を評価。自分独自のスタイルで成り上がり、団体(東京女子プロレス)を盛り上げようという姿勢に共鳴していたようだ。1.4東京女子プロレス後楽園大会のメインで山下実優への王座挑戦が決まっている伊藤にとって、この竹下戦は成長する大チャンスでもあった。
ただ、竹下は伊藤を認めているからこそ容赦しなかった。伊藤は序盤のバックブリーカーからブンブンと振り回され、さながら軽めのウェイト器具といった扱いだ。
伊藤が反撃を見せる場面もあったものの、対格差に加えダメージもあって逆エビ固めは不充分な体勢に。ダイビング・ヘッドバットも自爆に終わってしまった。そもそも飛距離が足りなかったため、かわした竹下の上に落下してしまい観客からは失笑も。
これまでの伊藤であれば、技の失敗の一つや二つはどうということはなかった。しかし現在は東京女子プロレスの頂点を狙う身だ。一つのミスが命取りになりかねないし、1.4後楽園のメインで失笑が起きたらと思うとぞっとする。

(基本的な技でも。伊藤に決まればド迫力。サイズ、パワー、技の引き出し、あらゆる面で苦しめられた伊藤)
(C)DDTプロレスリング
竹下が伊藤の中指を立てるポーズに「そういう段階じゃない」と忠告した意味もそこにあるのだろう。今の伊藤はチャンピオン=団体のトップを狙う選手なのだ。試合中に中指を立ててきた伊藤だが、竹下はその指を思い切り踏みつけている。
最後は大技を使うこともなく、ヒザ蹴りを叩き込んで竹下がKO勝ち。圧倒的な差を見せつけられた伊藤だが、それでも心も中指も折れていなかった。中指を立てながらマットに崩れ落ち、KOのゴングを聞いたのである。
相手に向かっていく、その気持ちだけは見せた伊藤。しかし竹下はその点についても「スピリットはレスラーなら誰もが持ってるんです。伊藤はその出し方が特異なだけ。もうその段階じゃないでしょう。プラスαで何を身につけるか(が問われている)」。
まったくもって正論、伊藤の現状をズバリと分析していると言っていいだろう。ただ、伊藤は良くも悪くも人の意見を参考にしないというのか、単に「言われたから素直に従う」というタイプではない。腹の底から納得しなければ意見を変えないタイプに見える。ヘタクソであっても回り道であっても自分のやり方でやってきたから総選挙3位、タイトル挑戦者の伊藤がいるのだ。
「これからも誰にだって、何を言われようと中指立てますよ。友だちなんかいなくていい。自分のプロレスを突き進みます」
試合後に伊藤はそう語った。同時に竹下と自分を比較して「自分が運動神経のない女に生まれてきたのを受け入れて、たくさん努力して前に進みます」とも。
以前は「努力はするのが当たり前。人に言うもんじゃない」というスタンスだった伊藤。しかし努力なしで実力がつくはずもない。あくまで隠してきただけ。山下実優との前哨戦や竹下とのシングルで、伊藤はこれまで以上に“むきだし”になっている。それはプロレスラーとして、間違いなくプラスなのだ。
文・橋本宗洋
この記事の画像一覧


