世界中のフットボール選手やフットボールファンが「めっちゃうまい」と口をそろえる選手がいる。今年、ヴィッセル神戸に電撃加入して話題を集めた元スペイン代表のアンドレス・イニエスタだ。
ゴールを量産する点取り屋でもなく、ピンチを防ぎまくるGKでもないため、圧倒的な数字を残すタイプではない。しかし彼に注目すれば、試合を動かしているのが誰であり、そのチームの心臓が誰なのかは一目瞭然だろう。イニエスタはずっと、バルセロナの中心選手として、人々の記憶に残るプレーを続けてきた。
フットサルの世界でも、そんな天才的にうまい選手がいる。名古屋オーシャンズの西谷良介だ。
西谷タイプの重要性に気づいた日本フットサル
名古屋オーシャンズの西谷良介は、間違いなくフットサルマスターだ。パスができて、味方を支えて、自分がオトリ役になれて、バランスに優れ、タイミングが絶妙で、キックの種類が多彩で、シュートがうまくて、得点力もある。完璧に思える出で立ちは、170センチ・67キロと思ったよりも小柄で、唯一フィジカルコンタクトが抜きん出ていないことは想像に難しくない。しかし、相手が体をぶつけるより先に勝負を決めることで「できるだけ接触しない」という戦いを選べてしまう。まさにイニエスタのようだ。
大学サッカーからフットサルに転向して、関西リーグのチームからデウソン神戸に加入したのは2008年のこと。和歌山県のサッカー名門校・初芝橋本高校、大学の強豪・大阪体育大学で培ったキャリアは突出しており、当時「Jリーグに一番近いフットサル選手」といわれたこともあった。しかし、派手なドリブラーでも、豪快なストライカーでもないため、一見するとプレーは地味で最初はそのすごさが埋もれがちだった。
一方で、フリーランニングで味方を生かして、的確なパスで試合を組み立てるスタイルは玄人好み。彼のズバ抜けた能力はチームメイトや指揮官に重宝され、また対戦相手も彼のプレーに苦しめられるため、周囲の人々も次第にそのポテンシャルに気がつき始めた。日本フットサルにおけるこの10年は、西谷のすごさを何度も味わいながら、彼のようなプレーヤーが日本に必要だと本当に痛感した10年間だったともいえる。
2013シーズンに初めてベスト5を受賞。西谷がようやく真の意味で認められた瞬間だった。
2009年には新人賞を獲得し、すぐに日本代表にも選ばれたため西谷の名前は知られていたが、それまでは「どこがすごいのか」をあまり理解されていなかったのだ。しかし、その頃から“西谷タイプ”に注目が集まるようになり、それがきっかけで目に見えづらい働きをする選手が評価されるようになった。
自ら「勝負を決めるゴール」を奪える選手に進化した西谷は、2015年からフウガドールすみだで勝敗を司るようになり、2シーズンを過ごした後、今度は名古屋オーシャンズに引き抜かれた。
「去年と比べるとセットが固定されていないですね。だからパスを出した後、もしくはもらうための動きも今までよりも考えています。どんなタイミングで何をすべきか、ピッチに送り出すメンバーや状況を見れば、監督のメッセージもすごく感じるので。一人ひとりの特徴を生かせるようにやっています」
名古屋2年目の今シーズンは、再び“地味で玄人好みの選手”として、リーグ戦ここまでの25試合で無敗という最強クラブにおける圧倒的な安定感の源になっている。名古屋は「誰が出ても同じくらい強い」チームではあるが、それは同時に「最高のつなぎ役がいる」ということも意味している。
西谷はどんなメンバーとの組み合わせであっても、チームに落ち着きと安定、そして機を見て試合を動かすという刺激をもたらしているのだ。得点力にも優れるが、やはり真価を発揮するのはボールを持ったときよりもオフ・ザ・ボール。状況判断に優れ、その時々の最適解を見つけて瞬時に体現してしまうプレーは、「フットサルの教科書」と呼ばれたペドロ・コスタ監督のようでもあり、改めて注目してみると、誰もが真似したくなるプレーヤーであり、多くの選手に「真似してほしくなる」プレーヤーでもある。
しびれるダイレクトパスも勝負を決めるゴールもあるが、どちらかいえば派手さはない。だから注目しないと見逃してしまうかもしれない。しかし注目すれば、そのすごさは一目瞭然。名古屋オーシャンズにこの人あり。見て学べるフットサル選手。西谷良介とは、まるでイニエスタのような上手すぎる選手なのだ。
文・本田好伸(SAL編集部)
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