「官と民がお互いを知らなかった」産業革新投資機構が空中分解、元官僚から見た“官民ファンド”の問題点
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  国内最大のいわゆる"官民ファンド"が、発足からわずか3か月足らずで空中分解の様相を呈している。

 「もはや経産省との信頼関係を回復するのは困難」。10日の記者会見でこうで述べ、辞任を表明した産業革新投資機構(JIC)の田中正明社長(元三菱UFJフィナンシャルグループ副社長)に賛同、「報酬の問題だけではなく、広範な事項について後から覆されるリスクが高いガバナンス実態になっていることが露呈した」と指摘した経営共創基盤CEOの冨山和彦氏などの取締役8名も一斉に辞任を表明した。

 そもそもJICとは、経産省が95%、そして民間が5%を出資して9月に設立された、有望なベンチャー企業に投資する"官民ファンドだ。税金に加え、政府保証で借り入れた資金など、約2兆円の公的資金を運用、次世代産業を育成すると共に、投資先が成長した場合は株式を売却して利益をあげるという狙いがあった。

 対立の発端は朝日新聞の「官民ファンド高額報酬案 産業革新投資機構 年収1億円超も」という報道だった。

 9月下旬には最大で1億円を超える報酬を書面で提示した経産省がこの報道後に態度を一変させ、金額を撤回。経産省関係者によると、11月24日の会談で嶋田事務次官は「両者が納得できるように知恵を出していきたい」とし、「報酬を3150万円に減額する」「資金の運用益から成功報酬は出さない」という2点を新条件として提示したという。これに納得しなかった田中氏は、2時間が経過した頃「お前ら信用ならん」と発言「申し訳ないけど、帰られると次はないですよ」と述べた嶋田次官に、田中氏が「もういい」と突っぱね、交渉が決裂したという。

 この報酬額はJICの取締役会で正式に決議されたものだったことから、田中氏は会見で「書面にて約束した契約を後日、一方的に破棄し、さらには取締役会の議決を恣意的に無視するという行為は、日本が法治国家ではないということを示している」と怒りを露わにした。

 騒動を受け、世耕経済産業大臣は10日、「経産省の方針が急に変更になったというわけではない。ただ、最終段階になって、国の資産をベースに運営されているという中で、やはり国民世論が納得する一定の水準はあるだろうと」と説明している。

 15日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した経産省OBで政策アナリストの石川和男氏は「田中社長に会見にシンパシーを感じる。田中社長をはじめ、他の人も税金を預かって失敗すれば批判される。そういうリスクを取った方に1億円というのは、そんなにおかしな話だとは思わない。世耕大臣が記者会見で世論と言っていたが、世論を忖度しすぎだ。そもそも、官と民の常識が違うのに、お互いがお互いを知らなかった。また、官僚にも言わせないとダメだ。田中社長と同じくらい、担当課長、担当局長、官房長にきちんと言わせた方がよくなると思う」と話す。

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 また、元大蔵官僚で経済学者の高橋洋一氏は「民の人は即断即決で、全部自分に任せろというパターンだ。そうでなければ、こういう投資業はやりにくい。一方、官というのは手続きなので、時間がかかるのが当たり前。田中さんとしては、社長として来たのに"自由にできないの?"という話がすごく多かったんだと思う」と推測。

 その一方、田中氏が「書面で約束した契約を一方的に破棄し、取締役会の議決を恣意的に無視する行為は法治国家ではない」と述べたことに対しては「"書面で約束した"というのは言い過ぎ。公表されている書類を見ると、誰が、いつ、誰に出したのかはっきりしないもので、あくまでも役所ではよくあるメモだ。こんなものを一方的に契約だという田中氏も常識がない」と指摘した。

■世界的に見ても、"官民ファンド"みたいなものはほとんどない

 現在"官民ファンド"は15あり、「A-FIVE(農林水産系ファンド)」(累積赤字64億円)など、9つが損失を抱える見通になっているという。官民ファンドはなぜうまく行かないのだろうか。

 石川氏は「私も入省した頃からこの手の話をやっていたが、今とあまり変わらない。本来は民間でやるべきものだが、銀行の基準で投資できないものがある。でも、日本のためにいいというものがたくさんあるので、そこにちょっと無理して投資するということ。失敗ばかりクローズアップされるが、成功もある。私の記憶が正しければ、ファンドで出資というのは、90年代から突如としてたくさん出てきたやり方だ。それまでは補助金のように単純だったし、金利が高かった時代は、低利融資や無利子融資だった。ただ、役人には"儲ける"という発想がないし、儲かると大蔵省から"税金を突っ込まずに民間でやればいい"と言われる。だから国民には申し訳ないことだし、官僚はろくでもないと言われるかもしれないが、"赤字前提"でやる。しかも自民党の先生方に説明すると、これが意外にウケる」と振り返り、「政府の中にも、儲けて国に還元されれば納税者としてもいいという考え方もあるし、儲からなくても種をまけば20年後には開花するかもしれないという考え方もある」とした。

高橋氏は「ほとんどが出資金を食いつぶしていると思う。3000億円くらい投資して5億円しか返ってこなかったようなのもある。それでも志や夢をすごく言う。そもそも、儲けるのが苦手だから役人になったという人もたくさんいるのに(笑)」とした上で、「そもそも報酬が問題になるということ自体が問題。こういう投資事業においては官が関与するというのはまず無理だ。"民"のファンドだったら何の問題もないのに、民主主義のプロセスがあり、多くの人が納得しないといけない"官"が付くから話がごちゃごちゃになる。世界的に見ても、"官民ファンド"みたいなものはほとんどないし、G7のような先進国ではまずない」と指摘した。

■国会も政治責任をちゃんと果たしてほしい

 前身は「産業再生機構」と「産業革新機構」の2つのファンドであるJIC。これらはダイエーやカネボウの再建を手がけるなど、経営難になった企業を再生する国策的な投資が批判を浴びたことから、投資先の価値を高めてリターンを最大化し、利益をあげるという目的で設立されたのがJICだ。田中社長は当初、「本来なら市場から淘汰されるべきゾンビ企業の延命をすることはまったくない」と宣言し、世耕経済産業大臣も「投資・運用のプロにお任せする」としていた。

 しかし今月、世耕大臣は「国の意向でしっかりと管理したい」と発言したように、田中氏は辞任の理由の一つとして「経産省が関与を強め、国の意向を反映する『官製ファンド』に変化した」ことを挙げている。

 同じく辞任表明した星岳雄・スタンフォード大学教授は「業績が悪いため淘汰されるべき企業を救済するなら経済成長は低下する。JICがゾンビの救済機関になろうとしている時、社外取締役に留まる理由はない」と経産省の介入を批判。保田彩子・カリフォルニア大学教授も「政府関与のリスクは機関投資家を敬遠させ、JICの信用力を致命的に落とす」とコメントしている。

 官僚出身の取締役2名を除く9名全員が辞任を表明し、事実上の休止状態に追い込まれたJIC。世耕大臣は11日「経営が実質的に不在という12月に予算要求というのは、ふさわしくないと考えている」と述べ、追加出資として予算要求していた1600億円を全額取り下げる方針を明らかにした。また、組織の立て直しに向けて、JIC連絡室を設置し、糟谷官房長に室長を兼務させる方針だが、火中の栗を拾う民間企業出身者を探すのは難しく、難航が予想されている。JICは今後、どうしていけばいいのだろうか。

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 石川氏は「民間のファンド、あるいはバリバリの金融機関からこんな所にくる人はいないと思う。あえて公募制にして、挑戦したいという人に来てもらいたい。潰すのは現実的ではないので、何らかの条件をつけて公募をしてみて、それでもダメだったら、経産省が指名をする。また、もうファンドという言葉を止めて、"補助金拠出機構"みたいな、補助金交付だと思ってやった方がいい。または"ちょっとリスクの高い夢に乗っちゃう"というノリでやらないとできない。次の投資案件からプロに任せるというのを止めて、政府の思いで人を選んで、"こういう所に投資をする"とはっきり言った方がいい」と話す。

 「"官民ファンド"なんだから、官と民を半分ずつ入れ、一人だけに責任を負わせないよう、委員会制にして合議制にしないと。また、予算措置と法律は国会を通る。官にも提案した責任はあるが、最終的に我々の血税の使い途は政治が決める。特に与党の先生方にも政策に興味を持って、ちゃんと議論し、政治責任をちゃんと果たしてほしい」。

 高橋氏は「2つの機構も時限措置だったので、止めていれば良かった。違う目的で組織を作って、もう1回、もう1回とやっていったので変になった。政策的に目的があるなら、時限的にやってそれで終わり。これが最も簡単だ。もし投資したいなら、政策投資銀行でちょこっとやればいい。なぜ新しく作ってやらないといけないのかさっぱり分からない。また、投資の成功の確率を上げるなんて無理なことは考えない方がいい。簡単に儲かるなら誰でもできる。この手の話は自分の金でやるのが基本。人の金でやろうというのがダメ。公募で民間から来る人には"スケベ心"があると思う。1億、2億もらえるような人は自分でファンドを集められるし、それが集められないような人に来てもらっては困る」と訴えた。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)


▶次回『みのもんたのよるバズ!』は22日(土)夜8時から生放送

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