「孫正義2.0が始まっている」公募価格割れのソフトバンクなど、重なる懸念に“元側近”が反論
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 バブル期のNTTを超える、過去最大の2兆6000万円を調達となったソフトバンクの上場。しかし初値から売り出し価格1500円を下回り、終値も売り出し価格を15%下回る1282円となった。

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 上場前にネガティブなニュースが相次いだことも災いした。サウジアラビア政府と組んでIoTやAI事業への投資を目的とした巨大ファンドを設立したが、そのサウジ政府に批判的な記者が殺害された事件が起きてしまった。また、今月には通信設備の一部で使用していた中国通信大手「ファーウェイ」製品を日本政府が排除する方針を示したほか、大規模な通信障害も発生。さらにはヤフーと組んだQRコード決済「PayPay」の通信障害やクレジットカードの不正利用も起きた。

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 そんなソフトバンクが上場した目的は、親会社であるソフトバンクグループによる投資加速のための資金調達だ。孫正義会長が7月に「AIを制した者が未来を制する」と述べていたように、これまでも配車サービス「Uber」に投資し、カーシェアリングや自動運転技術の開発を進めているほか、人間そっくりな動きをするロボットの開発で知られる「ボストン・ダイナミクス社」を買収するなどしてきた。

 19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では孫氏の元"側近"として知られるソフトバンク元社長室長の嶋聡氏に話を聞いた。

■携帯電話会社で培った営業力、技術力で新しいことをやる

 マーケットが冷めていた理由について、法政大学大学院の真壁昭夫教授は「株式投資は長期の成長性を買うもので、ソフトバンクの場合は長期の成長性が見込みづらい状況だった」との見解を示している。

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 まず、売り出し価格を割り込むという市場の評価について嶋氏は「今回上場したソフトバンクというのは携帯電話事業の会社。今、通信障害の問題、ファーウェイの問題、そして首相官邸に料金を4割下げろと言われている問題の"3重苦"を抱えている。また、携帯電話の利用者が急増するわけでもないので、これから株価が何倍にもなるわけではない。スティーブ・ジョブズが携帯電話を再定義し、電話もできるコンピューター・iPhoneを発表した。そこからライフスタイルが代わり、様々な事業が産まれたが、ある意味では一巡した。15%という差は大きいといえば大きいが、投資家の皆さんが冷静に対処された結果だと思っている。ただ、社会インフラになっているし、ちゃんとキャッシュフローがあるので安定している。宮内謙社長も今後2、3年くらいは75円の配当を維持すると言っている。つまり、1500円の5%にあたるし、1282円だったら6%。利回りが年間5%という金融商品というのはあまりない。むしろ買い時だ。預金から株へと資産運用を考える人にはピッタリ。問題はこの先、どういうふうに株価を上げていくかだ」と指摘する。

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 さらに「ソフトバンクの携帯電話事業は、もとはと言えば12年前に1兆7500億円で買収したボーダフォンだ。それを約7兆円で上場させたわけだから、事業再生としては大成功。さらにこれまでソフトバンクの株を全部持っていた持株会社であるソフトバンクグループが2兆6000億円を手に入れた。これからは脱通信になっていくと思う。AT&Tという会社がメディア企業などをどんどん買収して、メディアに変わっていったように、新しい稼ぎ分野を探すことになると思う。今まで携帯電話会社で培った営業力、技術力で新しいことをやる」と話した。

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 これに対し、スマートニュースメディア研究所所長の瀬尾傑氏も「利回りがいいということで株を買った方も多いだろうが、携帯電話会社の利益をソフトバンクグループに献上していく形になっている。本来、利益は投資に使わないといけないと思うが、その見通しが立っていないのではないか。また、利益をもたらしているのは利用者なのに、料金が高すぎる。これは決して良いことではないし、それをイノベーションによって変えていかなければいけないのではないか」と指摘する。

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 嶋氏は「それはコスト削減の努力をしていないという人の意見だ。売上からコストを引いたものが利益だから、コスト削減を一生懸命やっていれば利益は出る。経営管理能力の無い人は批判するかもしれないが、今までも価格破壊はずっとやってきた。また、成熟産業はどんどんキャッシュを生む牛=キャッシュカウ。それを育てたら、次は将来伸びる可能性があるところに投資して全体を伸ばすというのが経営戦略のイロハだ」と反論。「実体のある経営をしていれば問題ない。この低金利なので、キャッシュを借りようと思えばいくらでも借りられるし、AIは何倍も伸びる可能性がある。ちなみにソフトバンクグループの株価は今8000円くらいだが、2008年のリーマンショックの時には700円を切った。645円になった時、みんな真っ青になっていたが、孫正義は『(645だから)大化の改新か』と言っていた」と話した。

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 これに対し、ジャーナリストの堀潤氏が、海外勢に席巻されているIT業界の中で、日本企業であるソフトバンクには期待がかかるが、経営も含め、若手の活用はどうなるのかと尋ねると、嶋氏は「携帯電話料金の収入が4割下がれば、4割の社員を異動させることになる。携帯ではない事業に挑戦させ、そこから新しい人が出てくると思う」と答えた。

■「今、"孫正義2.0"が始まっている」

 嶋氏が説明する通り、ソフトバンクグループは10兆円規模のファンドを立ち上げ、67社に投資してきた。AIを活用している投資先としては、周辺環境・企業数などから新拠点を選定するシェアオフィス運営会社、保険の加入前査定を3日から3時間に短縮したデジタル保険マーケットプレイス、車載カメラなどの3D空間認識力を向上させる画像プラットフォームなどがある。

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 「AIを制する者がビジネスを制する。データを制する者がAIを制する。たとえばWeWorkは"ユニコーン"と言われていて、上場すれば1000億円以上になる。そこに8700億円投資することで、一挙に世界一の技術になり、プラットフォームとしてデファクトスタンダードになりうる。人口1位の中国では中国版Uberと言われる滴滴出行にも5800億円投資しているし、2位のインド、3位のアメリカ、4位のインドネシアでも、それぞれのライドシェア企業に投資している。今まで最大の情報端末はスマホ=GAFAだったが、今後はそれが自動車になっていく。そこでビッグデータを全て押さえるということで、ソフトバンク・トヨタ連合を作った」(嶋氏)。

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 これに対しても瀬尾氏は「孫さんは"競争だ競争だ"といって電波オークションのことも盛んに訴えてきたが、イーモバイルが手に入ったらあまり言わなくなった。東日本大震災後しばらくは太陽光発電の話をしていたが最近では余り語らなくなった。いつも調子良く看板を掲げるが、上手くいかなくなったりすると、飽きちゃう部分があると思う。また、自身でもタイムマシン経営だと言っているが、10年先を行っているアメリカからビジネスモデルを持ってくれば、未来からやってきのと同じような経営ができるんだと言っている。今もそれは変わっていないと思うし、ソフトバンクが新しいテクノロジーを作ったことは一度もない。確かに新技術の導入について、リスクテイカーとしての才能はあるが、本当の意味で時代を変えるテクノロジーを作ったことはない。孫さんには本当の意味でのイノベーションを起こしてほしい」と指摘した。

 嶋氏は「確かに孫は自分で発明はしないし、パラダイムシフトの方向性を読んで、それに賭けてきたと言っていた。しかし孫と付き合ってきた人間として、大体7手、8手先を見ていると思う。たとえば今年の始めにトヨタとソフトバンクが提携するなんて考えていた人はいないと思う。GAFAに勝つつもりでやっていると思うし、来年の早い時期には2兆6000億円を使って、新しい戦略に基づくビックリするようなことをすると思う。また、ファーウェイ問題もある中、我々はアメリカだけではなく中国とも付き合っていかなければいけない。その両方とうまくやることができるのが孫正義。アリババのジャック・マーもソフトバンクの取締役だ。買収したARMでは中長期的な研究もやっているので、そこは期待していただければ。今、"孫正義2.0"が始まっている」との見方を示した。

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 今年2月、「私は300年間成長し続けられるような会社を作りたい。そういう組織モデルを作りたい」と語った孫会長。果たして次なる一手はー。


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