25日、NYダウの大暴落を受け、2万円を割り込んだ日経平均株価。26日には一時、1万9000円台も割り込んだ。しかし26日、NYダウが史上初めて1000ドルを超える大幅高となると、27日の東京株式市場も今年最大の上げ幅を記録。前日より750円高い2万77円で取引を終えた。
ジェットコースターのような激しい乱高下を見せた株価。そもそも株価暴落の原因はどこにあったのか。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「震源地はアメリカだと思う。政府閉鎖とかFRBとトランプ大統領の関係の悪化とか、政治的な混乱が重なってアメリカで株安が起こった」と説明。それが日本に飛び火したとの見方を示す。
アメリカの混乱を象徴しているのが、トランプ大統領の24日のツイートだ。「我々の経済の唯一の問題はFRBだ。彼らは市場の感覚も持たなければ、貿易戦争、ドル高、国境の壁をめぐる民主党による政府機関の閉鎖についても何も分かっていない」と、日本の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)が金利を上げたことを批判。
21日、ブルームバーグが「トランプ大統領がFRBのパウエル議長の解任を検討している」と報じ、それが市場の不安を煽ったとされている。さらに、米中の貿易戦争、メキシコとの国境の壁建設をめぐる民主党との対立など複合的な原因が重なり、ムニューシン財務長官の解任論まで報じられたところでクリスマスイブの大暴落となった。
しかし、26日のニューヨーク市場で、年末商戦が好調だったこと、ムニューシン財務長官とパウエル議長の解任が否定されるなどして市場に安心感が広がり、史上最大の上げ幅を記録した。
良くも悪くもアメリカ経済の影響を受けやすい日本だが、26日に経団連の会合に出席した安倍総理は「アベノミクスは本日でちょうど6年目を迎える。今月で73カ月連続の景気回復となり、戦後最長に並んだかもしれない」と好景気を強調。さらに、「消費税については来年10月から10%になる。前回8%に引き上げた時には経済に大きな影響が出た。景気の回復基調をより確かなものとできるような賃上げをぜひお願いしたい」と述べた。
アメリカ経済に左右される日本。今回の株価乱高下、そして来年に控える消費増税の先に見えてくる日本経済の今後とは。
■株価急落の“震源地”はアメリカ?
今回の株価の乱高下について、上武大学の田中秀臣教授は「FRBが利上げを決定した段階でアウトが始まったなと。FRBのように機械的に利上げしていくと、実態に比べて上げ過ぎてしまう。雇用や経済成長率はいいが、そういったものを犠牲にしてまで利上げをするという意思をFRBが示した。今回は人災」との見方を示す。
その人災の要因として「パウエルFRB議長が凡庸な人だということ。前任者のイエレンやその前のバーナンキに比べて、まったく経済政策のセンスがない。しかし、指名したのはトランプ大統領で、つまりトランプ大統領の金融政策に対する理解が、少なくとも指名した時点ではなかった。その人的ミスが政策ミスとなって、2人の間で摩擦が起きている」と指摘した。
一方、週刊東洋経済担当部長の山田俊浩氏は「非常にアメリカの影響は大きいし、日本のお金はアメリカを通じて新興国や世界にいく流れがある」としつつ、「今回は19日にソフトバンク上場という大きな需給の悪化要因もあった。ソフトバンクグループと上場したソフトバンクの株価が下がる“ソフトバンクショック”に、アメリカのショックが重なった」と述べた。
田中氏は「FRBが持っている理論はかなり楽観的」と警鐘を鳴らす。
「リーマンショック以降、ユーロ危機やギリシャ経済危機、中国経済の減速など危機の連続。危機対応の経済学が必要だが、FRBは経済に摩擦がない、つまりみんながハッピーであるような経済モデルを元に経済政策を打ち立てている。それには今の金利はまだ低いので、またどんどん上げていく。しかしFRBは今回、政治的なショックをトランプ大統領からくらったので、来年はかなり慎重になると思う」
■田中氏、現段階の政策は「黄色信号を突破して赤信号」
第2次安倍政権がデフレ脱却のために打ち出した、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」というアベノミクス元祖“3本の矢”。株価上昇、雇用拡大、ボーナス史上最高額などの効果をもたらした一方で、目標としていた物価上昇率「2%」は達成できず、消費も落ち込んだままだ。
田中氏は「デフレは事実上脱却したといっていい」と評価する一方、「問題は日本経済の20年間の長期停滞で、傷んでいる部分をリカバリーしないといけない。インフレ目標を2%としているが、今の日本銀行は2%を超えてもまだやるという姿勢。いわば、高速道路を時速80kmでずっと走っているようなもの。しかし、そこに消費増税という岩石を落としたり、ギリシャ危機や中国経済の減速といった強烈な向かい風が吹いたりする。それでもアクセルをふかさずに同じ時速80kmで走っているから減速して、インフレ目標を達成できない。障害物がなくなればそのままいくので、日本政府にはスピートを上げて落ちてきた岩石を砕いてほしい」と指摘する。
さらに、現段階の政策は「黄色信号を突破して赤信号」だと指摘。「金融緩和はキーではなくて、財政政策。消費増税をやめることが大原則。消費税を3%に戻すこともありえる。理屈的には人間が決めることなので、消費税を0%にすることも不可能ではない。それを支えてくれるのは金融政策で、この先どう考えても世界経済情勢は悪くなるか不安定さを増すかしかない。人的な要因はまったく解消しておらず、トランプ氏のキャラに振り回されている。彼が手を出していけなかったのは金融政策。どの国もあまりにも重要なので政府からは独立させているが、トランプ氏は閣僚たちと同じ発想で手を出そうとしている」と危機感をつのらせた。
一方、山田氏は「3本の矢の中で重要なのは成長戦略。アメリカや中国でライドシェアがすごく伸びているが、日本では白タクになって禁止されてしまうように、新しい産業の芽を作るための規制緩和が頓挫している。ここをきちんとやれば、民間の投資が動くと思う」と主張。これに対し田中氏は「規制緩和は90年代頭からずっとやっているが、全然その果実が実っていない。規制緩和をすると損をする人も出てくるが、その人たちがリカバリーするためには、経済をある程度大きくしないといけない。高度成長ほどは必要なくほんの少しだけでいいが、そのちょっともできないのが今の日本の政策の貧しさ」と述べた。
来年10月に控える消費増税。この政策に批判的な田中氏は「やるかやらないかを決めるのは、3月終わりから4月にかけて。それよりも後になる可能性はないだろう」と推測しつつ、「消費増税再々延期なら、おそらく政治的に消費増税はお蔵入り。7月に(衆参)ダブル選挙の可能性が噂されているが、今消費増税して、外交もあまり動いていない中で選挙をやったら安倍総理の現状維持は難しい。何のための総理大臣なのかというと、改憲。そのためにはここで勝たないといけないが、今は負けることしかやっていない。替わる政治勢力が不在で安倍政権のままかもしれないが、ドイツのメルケル首相みたいに事実上のレームダック(死に体)状態になるかもしれない」との見方を示した。
(AbemaTV/『AbemaPrime』)














